迷宮戦線
「セカバさん。この先には何が」
「ああ、そうか言い忘れていた。この部屋が今のところの最奥。待つのは――」
言いかけて、止まる。
「ぐるるっ……」
皆が耳にした、何かの鳴き声。
前衛二人がそれぞれ武器、ハンマーと大盾を持ち、松明をセカバさんへと渡す。
再度顔を見合わせ、戦闘に入ることを確認する。
「暁音さん、僕らも」
「そうだね。でも、とりあえずは待機。相手の出方を見よう」
暗闇の中、光るのはこちらの明かりのみ。
味方の位置が何とかわかる程度の明るさで、部屋の全貌なんてのはもってのほか。
今のところ、鳴き声だけが敵の情報。
姿形の見えない敵対生物を前に、僕らは勝利をもぎとらないとならない。
「ぐるるる……っあっあ!」
何かで地面を叩く音、発生源は向こうだ。
「おそらく気づかれた」
「来るぞ、構えろニュースよ」
前衛二人が前傾姿勢に。
おそらくこれが、彼らの戦闘態勢。
ダッダッダッと、硬い地面を蹴る音。
闇の中で見えはしないが、敵はもうこちらへ向かって駆けている。
少しずつ近づいてくるその音だけを頼りに、二人は武器を振らなければならない。
タイミングは一瞬、誤れば死。
そんな中で、前衛二人は。
「……っ!」
敵の駆ける音が、消えた。
その時、ニュースさんは、盾を上に構え直した。
ガンッ!!!
咄嗟の防御が間に合って、ニュースさんに傷はない。
一体、この一瞬で何が起こったのか。
全ては闇の中で行われたから推測にはなるが、おそらく敵は、飛び上がって上からニュースさんを叩き潰そうとしたのだ。
松明の範囲内に入って、ようやく敵の姿が見えた。
驚くことに敵は人型、牛のような頭を持つ二足歩行の生き物。
手には棍棒のような物を持っており、響いた衝突音はそれと大盾による物だった。
まさかそんな生き物がいるとは、と驚くのもつかの間。
攻撃を防いだ次の瞬間には、
「ふうんっ!」
そいつは、ライテールさんのハンマーによって、頭蓋を砕かれていた。
終わってみれば、勝負は一瞬だった。
敵の攻撃を大盾で防ぎ、着地のタイミングで顔面に向かってハンマーを食らわせる。
二人の連携プレーによって、仮称牛人間は息途絶えた。
松明によって照らされるのは、生々しい死の跡。
約二メートル程の筋骨隆々の巨体が、今は息も無く倒れている。
「こやつがここに住み着いていた」
「こいつはアークミノタウロス。胸元の三日月が特徴だ。主にダンジョン内に住み着く、君たちの冒険者クラスで言うところのBクラス程度のモンスターだな」
「Bクラス……」
強そうな見た目をしているが、それでもBクラス。
まあなんと言うか、まだ強さが常識の範囲内にあるような気もするしBクラスでも納得はできる。
でも、Bクラスならば……。
「セカバさん、前回この迷宮に潜った時ってこいつに苦戦したんですか」
前回、Aクラス程度のパーティを組んで潜ったセカバさんたちが、Bクラスのこいつに苦戦して逃げ帰るなんて、どこかおかしな話に聞こえてしまうが。
「そうだ。私たちはこいつに苦戦して逃げ帰った。こいつに、いや正確に言うなら、こいつらに、だな」
「こいつ、ら?」
聞き返して、僕は思い返す。
今、目の前に倒れているアークミノタウロスが、暗闇の中で最初にとった行動。
持っていた棍棒で地面を叩くなんて、わざわざ自分の存在を明かすような行動。
まるで他の誰かに知らせるような……。
「まさか」
「悠長なことは言ってられない。構えてくれ、まだ奴らは来る」
「来るって……」
「私の持ってる情報は、二つ。一つは、前回も初めは一匹だった。もう一つは、そこから来る増援の数は
百をも超える」
「「「「「ぐるるおおおおんんんっ!!!」」」」」
雪崩か何かが起きるように押しかける音の波。
発生源は、この部屋の奥。
セカバさんの言葉が真実ならば、今聞こえてる足音の全てがアークミノタウロスで、その数は百を超えてしまう。
「暁音さんっ!」
「うん、戦闘準備!」
いよいよ後衛の僕らも戦いにでなければならなくなったようだ。
暁音さんからすぐさま魔導具を受け取ると、僕はそれを手にはめる。
黒と白の手袋の甲に、ベースとなるエーテル器官を加工したものが埋め込まれた特注品だ。
エーテル回路の延長、それには早くて半年の訓練が必要らしい。
だから、杖も剣も僕は使えないというのが結論だった。
そこで暁音さんが考えたのは、エーテル回路の延長を必要としない魔導具。
人体に形成されるエーテル回路は、人体の輪郭に沿って形成される。
ならば手にはめる手袋型にすれば、身体に沿って流れるエーテル回路に密着でき、ほとんど延長の訓練が要らないと。
暴発の危険性も使わない時は、外して暁音さんの鞄の中に入れればある程度は大丈夫。
魔導具初心者にはうってつけのスタイルだ。
暁音さんも同様の魔導具を両手にはめて戦闘態勢に。
しかしこう見ると、某モンスターのメガなんたらに似てるななんて思うが、今はそんなことにうつつを抜かしてる場合では無い。
漠然と鳴る足音を前に、敵の姿も見えないとなれば対策のたてようがない。
いくらニュースさんとライテールさんがいくら優秀でも、この音から推測できる量をいなしきるのは不可能だろう。
なら、このまま為す術なく蹂躙されるのを待つことしか出来ないのか。
いいや、そのままでいいはずはないだろう。
「二人とも、一度下がって! 私に策が」
暁音さんと顔を見合せ、僕ら後衛二人は前に出る。
「悠里くん、魔法の用意は」
「多分バッチリ!」
「なら、先にお願いっ!」
そういうと、暁音さんは目をつぶり呼吸をととえ、自然体で精神統一を行う。
右と左、二種類の魔法を放つとなればいくらか準備が必要なのだろう。
僕に任されたのは、策を実践するために邪魔な奴らを間引くこと。
いわば露払いだ。
僕の右手に着けた魔導具にエーテルを流し込むイメージを。
昨日何度も確認した魔法の打ち方。
手のひらから放つ構えを取って、同時に魔法の初期発動を感知する。
少し痺れる右の腕に、これが魔法と期待が高まる。
暗闇の中、潜む無数の敵。
狙いこそ定まらないが、求められているのは広範囲による一斉除去。
ならば、少しくらい大味でも構わないな。
ニヤリ微笑み、唱える技名。
これこそが、僕の必殺ッ!!!
「喰らえっ!!!大放電!!!」




