パーティメンバーと迷宮
「あ、きたきた」
依頼主との集合場所、そこは街の北側の門。
そこには暁音さんと、ハンマーのおじさんライテールさん、そして大盾を持った青年が一人と、メガネをかけ大きな鞄を背負った研究職っぽい女性が一人。
おそらく、盾の青年がライテールさんの弟子で、僕や暁音さんとさほど背の変わらないそばかすの彼女が、依頼主の。
「悠里くん。こちら、ライテールさんと弟子のニュースさん。そして、依頼主のセカバさん」
初対面だと人見知りを発動してしまうが、これから背中を預ける仲間になるわけだし、どうこう言ってられないよな。
「ど、どうも……」
「ユーリだな。アカネの友人だと話は聞いとる。よろしく頼むぞ」
ライテールさんから手を伸ばされ、握手を交わす。
手の硬い皮膚に頼りがいを覚えて勝手に安心してる僕。
この人の横にいたら、とりあえずは大丈夫だろうな。
「ユーリさん。自分、ニュースって言います。ふつつか者ですがよろしくお願いします」
「あ、はい。よろしく……です」
自分より年下な僕に敬語を使うなんて。
よっぽどの几帳面なんだな。
「こら、ニュース。しゃきっとせんかい!」
「は、はいっ!」
背の高い茶髪のニュースさんは、なんというか、ライテールさんから日々厳しく指導を受けてるんだろうな。
きっと、上下関係の厳しそうな世界で生きているのが言葉遣いひとつとっても、ヒシヒシと感じとれる。
「さてと、よく集まってくれました。改めて私はセカバ。研究は、遺跡文化を。今日は迷宮スラハナの探索の続きに付き合ってくれるということでこの命を賭する気できたが、まさかあのテレポーター、アカネが来てくれるとは。ふひひっ、当たりを引いたな」
喋り方といい、どことなく陰のオーラが漂う彼女、セカバさん。
メガネにボサボサ髪にと、見た目にあまり気を使ってないのが見てわかる。
おそらく研究に没頭しているがあまり、他に手を回す余裕が無いんだろう。
暁音さんが来たことに何やら喜んでいるみたいだが、テレポーターとか言ってたな、何か理由があるのだろうか。
「じゃあ私たちも。って言っても皆さん知ってるみたいですが一応、形だけ。私は暁音。テレポーターを自称させてもらってます。今日は迷宮探索との事で、食料とか持ってきましたが、なるべく最短の攻略をめざして頑張ろうと思ってます。次、悠里くん」
「あ……あ、えっと。自分は石上悠里って言います。クラスはBで、魔導具使います。あとは……何言えば……?」
「実績とかさ。ほら、月の魔物の討伐とか、ラストリゾートを二度退けたとか」
「いやでも、あれは……」
自分一人の力じゃないしまぐれな部分も大きいからさ、あれらをあんまり実績とは言いたくないんだよなぁ。
「月の魔物の討伐って……もしかしてユーリさんって、あのユーリさん!?」
「え、知ってくれてるんですか、ニュースさん」
「はいっ、もちろん! あの日、僕も一瞬ですが奴を見ました。装備を持ってない状態の僕では、奴を視界に入れることが限界でとても立ち向かおうなんて思えず、周囲の人と一緒に逃げることで精一杯でした。このままこの街と共に焼かれるのを待つだけだと思っていた矢先に届いた、討伐の一報。雷に打たれたようでした。まさかあんな奴を討ち取る者がこの世にいるなんて。リトルガーディアンなんて呼ばれるほどですから漠然と、小さいんだろうな、なんて思ってましたが、まさか実物にお会い出来るとは!」
感激されるが、どうもむず痒い。
奴を討伐したことに嘘偽りはないんだけど、僕に見える奴がたまたま少女の姿をしていたから倒せただけで、僕がすごいとかじゃないんだよなぁ。
「あれは、たまたまというか……」
「たまたまでもなんでも凄いことですよ。多くの人々の命を救ったという変えられぬ事実はここにあるんです。あまり謙遜しないでくださいな」
うーん、そうは言われてもなぁ。
ニュースさんは、ユーリさんがいるなら百人力だ、と言ってはいるが、そんな期待をされてもちょっと困るよ。
「そうか、お前さんは月の魔物の。これはワシも感謝せんとな」
「私も、研究資料が燃えずに済んだから」
加えて二人からも感謝の言葉を言われるが……。
なんて言うか、不相応な実績ってのはこんなにも落ち着けないものだとは。
事実ではあるんだけど、それだけでこんなに褒められたり感謝されるのは、僕の性分に合わない。
褒められるなら、努力した勉強とか褒めて欲しい。
贅沢な悩みではあるんだけど、これから先出会う人にもこう言われるのなら、色々考えおかないとなぁ。
「さてと、自己紹介はこんなところで。皆さん準備は大丈夫ですか?」
暁音さんの呼び掛けに、各々の言葉で大丈夫を返す。
「セカバさん。地図をお借りしても?」
「ああ。ほほいっとな」
「なるほど、これくらいの距離なら……」
何かを計算しているような素振りをとる暁音さんに、僕はひとつ疑問を投げかける。
「えっと……馬車とか見当たらないけど。迷宮へはまさか徒歩で?」
「違うよ。悠里くん、行き帰りに時間なんて使ってられないでしょ? だからね」
そういうと、暁音さんは鞄から指輪を取りだし指に填めて大声で唱える。
「代償変換、転移、スラハナ!!!」
「……っ!?」
咄嗟に身構えたのも虚しく、僕はその光に飲み込まれた。
包み込まれ、辺り一体が見えなくなって、次視界が安定した頃には。
「ここは」
「さあ、着いたよ。ここが迷宮の入口」
暁音さんの声で目の前の光景が現実だと悟る。
いかにもな遺跡、そこから下へと続く石造りの階段は正しく迷宮の入口。
「やはりテレポーターの力は偉大じゃな」
「初めてだったけど、こりゃ大当たりだ。ふひひっ」
皆、そこまで動揺してないのが不思議だが、状況証拠的に何となく推測はできる。
暁音さんに群がる程のパーティ参加希望、テレポーターという単語、そして代償変換。
これらから導き出されるのは。
「暁音さん、スキルの力でここまでワープしてきたってことだよね。代償は何を」
「飲み込み早いね悠里くん。代償は、宝石。私のこれまでの稼ぎから生み出した代償用のやつ。価値はだいたい二百万ってとこかな」
「行き帰りを一瞬で行える。だから、テレポーターか」
「そ。私たちはなるべく最短で稼ぎきらなきゃいけないから、移動時間はお金を払ってでも短縮しないといけないの。いつか悠里くんも、代償変換で瞬間移動とかしたことあったでしょ?」
ああ、荒くれ相手にそんなことをしたこともあったっけ。
「代償変換で行き帰りの時間を短縮できる役割を持ってるから、暁音さんの依頼にはあんなに参加希望が」
「そうだけど、それはあくまでメリットのひとつ。私が推してるのは、確実に帰還できるってところ」
時間短縮にだけ目をとられてたけど、そうかそれが理由か。
「なるほど……テレポートなら足とか折れても逃げ遅れたりってのが無くなるな」
「そういうの込み込みで、テレポーターっていう役割をギルド内で売り込んでるって訳。一家に一台ならぬ、ひとパーティに一人、テレポーターをってね」
なるほど、やっぱり暁音さんは頭がいいな。
自分だけのメリットを多少の犠牲を払ってでも惜しむことなく売り出すことで、諸々の手間を無くしてる訳だ。
最短で二百五十億稼ぐことに、本気出してる。
僕も負けていられないな。
「よし、移動も済んだことだ。いよいよ迷宮に潜るぞ」
「松明は自分が。道中、分かるところまでの道案内をセカバさん頼みます」
「おーし、頼まれた。前回探索の時にマッピングは済んでるからな。最深部まで最短で向かうが構わないな」
「了解です!」
先頭をニュースさん、ライテールさん。
その後ろにセカバさんが地図を持って続く。
後衛の僕と暁音さんは、セカバさんの後ろを守るように歩く。
隊列を組むといよいよなんだなと実感が湧いてくる。
「じゃあ潜るぞ」
ライテールさんの声で重い石造りの扉が開かれる。
硬い地面を続々進む彼らの後を追い、僕も迷宮内へと入った。




