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異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
一章 あなたみたいになりたかった
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1vs1


今の自分を動かすのは、極めて邪で純粋な欲求。

 囚われのその子を助けたいとか、己の中の良心が痛むとかそんなんじゃない。

 褒められたい、認められたい、自分自身を誇りたい。

 そのためならなんだってする、あの光に手が届くならできることを全てやりきる。


 例えどんなことだって。




 道を間違えても、行き止まりでも、そこで諦めることをせず、かすかに聞こえる声だけを頼りにその子の元へ。


 「はぁっ… はあっ…」


 そして、ついにその後ろ姿をとらえる。

 必死に抵抗する女の子とそれを押さえつけようとする男。それを、物陰から見る僕。状況は、奇しくもアカネさんの時とほぼ同じ。

 覚悟を決め、踏み出す。


「その子、離して貰えますか」


 これが恐らく最初か最後の、等身大の戦いだ。



――――――――――――――――――――――――



 障害物のない一本道。そんな中、真正面から声をかけた。無謀だと言われてもしょうがない。ここに来るまでの僕には、策を考える余裕はない。


「ちっ…! お前、一体どっから!?」

「ダメっ、早く逃げて……!!! 」


 助けに入った人間の身すら案ずるその囚われの少女は、身なり言動立ち振る舞い、どれをとっても確証が持てるほど。

 貴族の子、ならばその目的はおそらく高額の身代金。


 腰の短剣を抜いて、戦闘体勢。


「来るな! こいつがどうなってもいいのか!」

「きゃぁっ!」


 相手も折りたたみ式のナイフを取りだし、女の子の喉元に。


「動くなよ… 動いたら殺すからな…!」

 少し動揺した様子で脅してくる男。


 このまま状況が停滞し続ければ、不利になるのは間違いなくこっちだ。彼女が正気を保てるのも、男の気が変わらないのもいつまで持つか分からない。何かの手違いで最悪のケースに、が起こりうる。


 相手は自分から動く気がない。間違いなく先手は取れる。大胆で、相手の裏をかく。成功率なんて考えない。一か八かでいい。打開の策があるのなら、全てを賭けて、勝負を懸ける。それ以外に、道は拓けない。




 数秒の沈黙の後、口を開く。


「僕と取引をしませんか」


「なにを言ってる……?」


 土壇場でのこの発想は、平常時なら出なかった、

実行に移そうなんて思わなかった。

 無いなりに出した作戦は、失敗すれば多分死ぬ。成功率なんて度外視もいいとこ。無策で突っ込むよりましなくらい。そんな想定しか出来ない。


 


「だっ!」


 構えていた短剣を前に投げる。


「なっ…!」


 男の油断。取り引きをもちかけてきた相手から、いきなりナイフが飛んでくるなんて、場数を踏んでる彼ですらあって数える程度。幼げな容姿に見える僕相手なら尚更だ。


 つかさず男は、女の子の喉にそえていたナイフを正面へと構え直し、その攻撃をいなそうとする。

 動いたら殺す、なんて言ったとしてもいざ攻撃されたなら真っ先にするのは自分自身の防御。当然だ、人質殺してそれと引き換えに自分も死んでちゃマヌケもいいとこ。

 きっと、誰だってそうする。

 

 だから、そこの裏を掻く。


 短剣は途端、下降。男は咄嗟に足を引いて、その直線から逃げようとする。到達までのわずかの間のこと、目の前の危機から逃れるので、彼の中は必死だっただろう。




 だけど、その短剣は直撃した。


 刺傷からは血が垂れ、指先までなだらかな線を描く。

白い肌を絵画のように塗らす赤。老いなんて感じないその足を容赦なく痛めつけるその刃に、男は動揺を隠せていない。


「お前、一体何がしたい…」


 男の質問に僕は、さっきと同じ言葉で答える。


「取り引きをしませんか」

「何を、する気だ……」

「交換して欲しいんです」


 ここまでは前提条件。

 一か八かの土俵にすらない。

 ここからだ、話術と度胸だけが物を言う命を張った提案は。





「僕自身と、









 足から血を流す、その子を」




 

 「短剣は、それが狙いか…」


 僕が短剣を投げた先。それは、捕まっている少女の足。

 痛みで顔を歪め、その場でうずくまろうとする少女。うっすらと涙をうかべ、その辛さをこれでもかと訴える。


「歩けない彼女を引きずるくらいなら、人質を入れ替えた方が得策じゃないかと」


 

 そう言いながら左手を伸ばし、二度と出ない魔法で牽制する。

 ぐすっぐすっ、と叫びを押し殺す彼女を無視し、僕は男との取り引きを続ける。


「お前にこいつ、モンタギュー家の実子と釣り合うだけの価値はあるのか」

「あなたがいくら要求するつもりだったか知らないのでなんとも言えないけど……ただ、それなりには」


 警戒をとかない男。

 多分、彼も相当悩んでるはず。あのがたいなら、少女をおぶるくらいなら可能。だけど、それがものすごく手間で、リスキーなことには変わらない。


「レアドロップって分かりますか。これでも盗賊に襲われるくらいには人気者なんです」


 だから、この提案に魅力が生まれる。


 レアドロップ、その単語を聞いて彼の眉が少し動いた。

 異世界に降りたってすぐ、荒くれから付けられた名称。

 ゲーム程度でしか聞かない単語に、自分が該当者になることが不思議でたまらなかった。


 が、意味も法則も、今なら検討がつく。


 レアドロップという単語、

 それは、この異世界に訪れた転移者たちの別名だ。

 この世界に来る人に、例外は無い。

 あの人はたしかそう言っていた。

 容姿性格能力肉体そのもの、価値が付く物は色々だけれど、呼称されるほど皆が均一して持っている要素は2つ。

 日本人である事と、"神様から貰ったスキルと物資"。


 そんなの限りなく後者だろう。

 貰った物の中で最も価値があるのは、十中八九、あの宝石。

 神様は言った、価値にして2億と。

 それを狙った盗賊たちの間での隠語、それがレアドロップ。 

 異世界にそぐわない服装を目印に、彼らは剥いで奪う。

 僕がここに来る前から、転生者刈りは根付いてたんだ。

 たまに現れて、高額なものを落とす、雑魚。

 だから、レアドロップ。


「レアドロップ……なら、持ってんだろ」

「ええ、ちゃんと……」

「なら見せろ、話はそれからだ」


 鼓動が少し早くなって、呼吸が少し荒くなって、こぼれる汗がさらに増す。生も死も、賭けた嘘。おかしな点を見抜かれたら、何もかもが無駄になる。


 もう無い宝石を餌にした取り引き。

 後手に回れば、即座に見抜かれる。


「何を、勘違いしてるんだ……」


 だから張るんだ、虚勢を。


「短剣が刺さったままなら、いつかその子は痛みで気絶する。動くことない4.50キロの物体を抱えた誘拐に成功なんて滅多に訪れないだろう。生かしたままじゃなきゃ誘拐は無効。お前が欲しい金なんて一銭も手には入らない。

けど、僕はそんなのどうだっていい。躊躇する理由なんてこの場には無い。最悪その子が死のうが、僕には微塵も関係ない」

 

 見せつけるんだ、尊厳をかけた弱者の強みを。


「だから、場を仕切るのはお前じゃない。






 いつでも逃げれる、この僕だ」



――――――――――――――――――――――



 雲の切れ間から見える薄暗い空。

 そこに見えるは、僅か輝く天の光。

 一縷の望みで伸ばした手は、もう少しでその輝きに届く。あと、二手。それで、全てが決まる……。



 首元のナイフ、伸ばした左腕。

 お互いの牽制で僕も男も動けない。

 十数秒の静寂。

 こちらを見つめたままの男は、どこか妥協したような表情をして口を開く。


「ぶつをこっちに丸めて投げろ。そしたら俺はここから立ち去ってやる」


 それは、取引の了承を意味する言葉。


「そっちが取りに来てください。武器を捨て、その子にも何もせず、あなた一人で」


 あとは、こっちにおびき寄せるだけ。


 「ちっ……」


 地面に当たり、鳴る金属音。

 男は、その身ひとつでこちらに向かう。服を見ても、妙な浮き上がりとかもない。何かを隠し持つスペースもない。彼を守るものはもう、何も無い。


 


 ここまで長々やったのも、全てはこの不意打ちを決めるため。自分の衣服を代償にした一撃をみぞおちに決めるため。

 持てるものは、全て使う。

 知恵も物も武力も度胸も、これが今出せる精一杯。



 

「はぁ……」


 小さな呼吸で、男は足を出す。


 地面を蹴る音が、いつか以上に恐怖を煽った。


 隠した腕が震え出す。それはきっと武者震いだと自分自身に言い聞かせる。

 引きそうになる足。それはきっと次を踏み込むためだと己に強く訴えかける。

 張り裂けそうになる心臓。それはきっと気分を高揚させるためだと自分の未来を目にして唱える。



 あと3歩


 御託はいらない。必要なのは覚悟だけ。


 2歩


 後ろに隠した右手に力をこめる。


 1歩


 己の全てを拳に込めて。

 貫け、貫き通すんだ。己の意志を、僕自身の未来を。




 間合いに入った男の顎を捉える。

 右手拳に溢れんばかりの力を込め、代償強化の名のもとに一時的なバフを得る。

 痛むであろう数秒先の腕のことなど考えない。


 ただ今は、出せる全力を打ち切るだけだ!!!





 

 

「くらえっ……!!!!!」






 



ドンッ!











「かはぁっ……!? 」










 


 膝をついて、腕をついて

 


 感じるのは血の、鉄の、気持ち悪い苦味。

 


 何が起きたか分かってる。

 


 なのに、なんだか分からない。



 痛い、痛い……何だこの痛み……



 苦しい……辛い……怖い……死にたい……




 目の前にあるのは、僕の吐いた血……

 僕の……吐いた……血、だって……


 急に凍てつく身体。段々と冷静さが戻ってくる。

 動揺が落ち着いて、やっと事態を飲み込める。


「ゲホッ……!カハッ……!」


 もう一度吐いた、血。それは、目の前に塗りたくられた赤と同じ。


 吐血なんてしたこと、人生で1度たりともなかった。そりゃそうだ。そんな危機に晒されるような生き方をしなくて良くて、そんな生き方を選ばなかったんだから。


 屈強な男に蹴り上げられたお腹が、響くように痛い。


 今の僕は、顔を上げるので精一杯。それ以外を、取ることが出来ない。


 見上げた先には、無傷の男。

 その瞬間、ちゃんと確信できた。

 僕の作戦は失敗したんだ。

読んでいただきありがとうございます!!!

よろしければ評価の方よろしくお願いします!

作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m

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