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異世界転移に終止符を!!!  作者: パラソルらっかさん
一章 あなたみたいになりたかった
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形勢逆転



「なんや、今の…!?」


 さっきまでのあいつからは考えられへん。急に捨て身で跳ぶんも、あんな硬いガード貼れんのも、そんな楽しそうにしたり顔すんのも…!

 

「なんや、勝った気になって…!」


 バンッ!


「……!?」


 言い終わる前に俺の足下に打ち込まれた魔弾。特筆して高度なもんでも、反応出来ひんほど弾速があった訳でもない。軽い威嚇やと思って、俺を狙ってへんと思って見過ごしただけや。


 せやけど、せやけどなんやこれ…

 当たった地面、軽く抉れとるやん…


 バンッ!


「くっ…!」


 カンッ!


 油断…!?ちゃう、何してくるからわからんから警戒だけは欠かさんかった。なのに、なんで反応が遅れた…!?


 カンッ! カンッ!


 あかん、弾ききる前に次が来る…!万が一、斧で弾ききれんくて当たりでもしたら、タダじゃすまへんでこの威力…!


 カンッ! カンッ!


 少しづつ詰めてきとる。これ以上近づかれたら反応出来ひん。戦いにおける先手の重要さ、後手へ回った時の難儀さ、こいつ、身に染みた上で学習しとる。

 ちっ…!後ろ下がりつつ対処するしかあらへん。これじゃあ、さっきと立場が、逆転しとるやん……!


 このままじゃ、らちがあかん。エーテル疲れを待つか…?いや、こんな火力を連射出来るやつが、そう簡単にくたばるわけない…!

 誰や、こいつをCとか言ったやつ… Bどころか、A級で収まるかすら怪しいで…!



バババッ!



「三連射…!?」

 こんなん、まともに受けたら…!


 ガンッ!


 「あかん、持ってかれた…!?」


 俺の持ってた盾斧は、魔弾の威力に負けて、はるか後方に。何も持たへん俺に防ぐ術はもう…。


「すみません…! 先に行かせてもらいます」


 やつの手に光。

 足止めか、トドメか、どっちにしろ勝負は…



ドンッ!



 放たれた光線。

 ああ、目に追えるのに防げへんなんて、虚しいなぁ…。






ガキンッ!




 

 いや、もっと、虚しいなぁ…



 

「なかなか楽しそうだな」

「…すんまへん、エリッサさん」


 自分よりずっと有能な上司に、尻拭いしてもらうんは。


――――――――――――――――――――――――



 トドメのつもりだった。これで決着が付くと思ってた。

 だけど、そのはずで放った魔法は、鎧の彼を貫くことなく、この場から消えてしまった。


 目の前にはあのバリア。半透明の半球体で身体を守ったあの盾が、彼を包んで、彼を守った。


 その盾を産んだのは、彼でも僕でもない。



 空から跳んできた、一人の金髪の女性だった。



「…すんまへん、エリッサさん」

「なに、礼はいらない。しかし、我ら直属護衛も落ちたものだな……。まさか少年相手に、こうも2人がかりになるとは」

「面目ないです…」

「気に病むことはない。いつか私も、君に負ける。そうやって時代は、前へと進んでいく。若さとは可能性の塊だ」


 盾を張り、その中で会話をする2人。話の内容的に、あの人も直属護衛の人なのだろうか。それにしては、服装が軽装備。前面の腰から下が開けた開放的なお洒落なローブに、ショートパンツ、そしてハイブーツ。その手に、杖を持っていなければ、戦士だということが分からないくらいだ。


 

「さて、少年」

 長いその髪をなびかせて、その女性は僕に声をかけてきた。彼女が何者なのか、何を話すのか、予想も油断も出来ない。自然と、さっき以上の警戒心で身構えた。


「名前を教えてはくれないか」

「悠里、石上悠里…」

「ユーリか。私はリッサ・A・フォルフォード。いきなりですまないがユーリ、その手を下ろしてくれないか」


 その言葉が意味すること、それは降伏。大人しく、捕まれということ。


「……できません」


 即答の拒否。そうするしかない。僕にはまだ、この世界でやりたいことが、成し遂げたいことがたくさんあるんだ。ここで引いたら、元の自分と変わらない。


「拒否か… 突然言われて無理もないだろう」



 会話の最中、鎧の彼が斧を取りに後ろへに駆けだす。


「動かないで…!」


 つかさず僕は、彼めがけて光線を放つ。ここで彼にまで加勢されたら、いくらなんでも勝ち目がない。

 軌道上には盾があるから、念には念をで代償3つ分の高火力。これだけの火力でも死なない、何らかの方法で免れてくれるだろう。そんな、信頼とも呼べる不思議な確信が、過剰とも思える選択を後押しした。


「…!」


 リッサと名乗った女性の、動揺と思われる表情。

 その直後、持っている杖を地面に突き刺し、何かを唱え出す。


要塞構成障壁 (フォートレディ)球形展開(スフィア)!」


 青白い半透明の膜が彼女達の辺りを漂い出す。瞬時にそれは球体になり、彼女たちを包むように、硬く、強固に展開された。


 飛ぶ光線に気づき、既に貼られたものより大きく、それを覆うように構築された盾。防ぐ手段のない彼に向けた攻撃だと理解して、過剰に張ってくれたのだろう。


 攻撃をした本人なのに、どこか安心していた。これで死ぬことは無い。最悪、相殺されたとしても、相手の全力ガードを破ったとなれば、威嚇としては十分だ。

 次に備え、連射の準備。主導権を握らせれば、負けかねない。この一撃で掴んだチャンスを、つかみ続けねば!



「行けぇっ!」






 

ガンッ!



「迂闊な行動はするな」

「信頼っすよ、エリッサさんが横にいたら、傷つく方が難しいっすわ」


 放った光線。それは貫くはずだった彼はおろか、


「若さとは可能性だと言ったばかりだ」

「俺がエリッサさんに勝つのも、彼がエリッサさんに勝つのも、絶対ありえへんと思うんですけどね」


 その盾を


「だって1枚たりとも、破れてないっすもん…」。



――――――――――――――――――――――――


 


 慢心、というよりも、実力を見誤っていたのだろう。

 代償3つの渾身の一撃。それがこう、意図も簡単に防がれるなんて。

 払った代償に対して、出た結果が盾に亀裂を入れただけ。これが等価なのだとしたら、あまりにも受け入れられない。


「くっ…! 」


 だけど、それで立ち止まってはいられない…


バババッ!!!


 亀裂に向かって、さらに打つ。


「話し合いは難しいか」


 彼女の何か諦めた表情がみえる。だけど、攻撃の手は緩められない。


バリンッ!


 追撃として放った攻撃、三発全てが当たってようやく割れた。最初の一発と合わせて、計6発分。圧倒的な強度、しかも、的確にダメージを重ねればちゃんと壊れるという現実性、今にも絶望して攻撃の手を止めてしまいそう。


 だけど、まだ…!


「はあああああああ!!!」


 バババッ!

 


 放った光線は、もちろん全て盾に。

 さっきの経験から、壊すには最低六発分。つまり、あと三発分でやつは壊れる!


 代償五発のフルパワー! これで盾ごと貫く!


「いっけぇぇぇ!!!」



 放つ巨大な火炎球。当たれば一撃、確実に盾を破壊して、一矢報いる勝利の業火。




 その攻撃が届くまで、残り1mほど。



 横槍さえ来なければ……!


















 






焔色の真紅(フルフレイ・ルージュ)
















 


「…!?」


 ぽつりと、呟くような一言。

 それと同時に広がる、全体を覆い尽くす熱波。僕の放った火球の奥で、一体何が。


 その熱を感じた直後、彼らを守っていた球体の盾が音を立てて壊れていく。僕の攻撃はまだ届いていないのに。


 だんだんと体感温度が上がっていく。

 

 そして、その熱の発生源が見えてくる。


 ゆっくりと、近づいてくるその塊は、僕の放った物の倍はある豪火球。


 あらゆるものを飲み込んでいくかのように、こっちに向かって迫り来る。近くに植えられていた花すらも、その熱で枯れかねないほどの高温。

 さも当然かのように、僕の切り札だった火球すら飲み込んでいき、とうとう僕の前に迫る。


 急いで身を守らねば。

 そう思い、頭の中で代償をイメージする。


 手を伸ばし、盾の展開を意識する。


 あれだけの業火。

 あれだけの火力。

 並程度の耐久じゃ、意味を持つ前に消えてしまう。


 感覚的に、宝石10発。

 それだけあって、ようやくトントンくらいだろう。


 守ったとしても、それで終わりじゃない。

 次が、彼女の攻撃が、炎の裏には控えてる。


 タイミングは、一瞬。

 攻撃を防いだ瞬間と同時に、全速力で、前に出る。

 そしてそのまま、相手の追撃をかき消すくらいのトドメの一撃。それをぶつける以外、今の僕には勝ち目は無い。


悔しいけれど、戦闘経験は彼女の方がずっと上。

万能すぎるスキルがあって、ようやくギリギリ埋まるくらい。

きっと、このエリッサさんは、この異世界でもかなり上澄み。

僕の16年間で一度も適うことの無かった、才能持ってる側の人だろう。

そんな相手と、互角の接戦。

その事実だけで、僕がここに来た価値はあった。

やれば、僕だって、本気になれば僕だって、これだけのことが出来るんだって。

 


そう思い、手を見た時に、


初めて気づく。





 その指のどこにも、あの宝石がないことに。



「……つかい、きったのか」



 僕を包む、急な脱力と倦怠感。

 僕にできるすべが、何もかもなくなった。

 僕に取れる行動が、何の一つも無くなった。



 目に映る、全部が真っ赤に燃えていく。


 

 頭の中で何を思っても、もう現実には起こってくれない。

 あの膜も、あの瞬間移動も、もう1度はもう、起こらない。


 そう実感した瞬間、今ここがただ、怖くなる。


 指輪の有無。

 たったそれだけ。

 それだけなのに、どうしようもなく怖い。


 垂れる汗も、乾いていく喉も、何度味わったか分からないのに、今は苦くも痛くもなく、怖い。

 

 スローモーション。

 走馬灯。

 そんな単語ばかりが過ぎる。



 あと少し。

 ほんの数秒ミリ。

 

 そしたら、

 ほんとに、


 僕は死ぬ。

 僕は、死ぬ……




嫌だ、まだ、こんなの、こんなの……!

 



こんなんじゃなくて、もっと、もっと……!




僕は、まだ、なにも……!!!




 

ダンっ!






 短く、圧のある音。眼前を覆う赤の中から見えた銀の刃。






「大丈夫か、ユーリ」

 

 立ち尽くしていた僕の前の火炎を切ったのは、紛れもなく、その火炎を放った本人だった。

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