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平日 4

 お風呂上がりに髪を乾かしたら、残すイベントは就寝のみ。

 それまでの1、2時間は今日の復習と暗記系の勉強。

 既に今日一日分の疲労が出始めてるが、もうひと踏ん張りだ。


「悠里くん、お疲れ様」


 リビングで勉強している背後から、暁音さんが紅茶のカップをふたつ持ってやってきた。


「お茶、ありがとう」

「いいよいいよ。それで、今日一日どうだった? 」


 受験勉強、一日目。

 そんな今日の感想は。


「正直いって、苦しかったかな」

「まあ、そうだよね……トータルで12時間くらい勉強したもの。一日目にしては、だいぶ良く頑張ったと思うよ」


 トータル12時間、一日でした勉強量で言うなら僕の人生史上No.1だ。

 12時間。本で言うなら2、3冊。RPGならいよいよ中盤に差しかかるくらい。

 そんな長時間を、たった一日でこなした。

 少しの達成感に似た清々しさと、多量の疲弊による気持ち悪さ。

 合わさって気分は、……なんとも言えない。

 とりあえずいち早く寝たいというのが、今の心情だ。


「明日からもこんな調子でだけど、どう、できそう? 」

「できそうかどうかと言われたら、したくないが本音だけど。でも、やるしかないから」

「そっか。凄いね悠里くん」


 ことある事に褒めてくれる暁音さん。

 彼女がいなけりゃ、炊飯や洗濯といった家事の時間でここまでの勉強はできなかったし、何より心が折れていた。

 


「暁音さんは、一人で勉強してたの? 」

「こっちに来る前は、そうだね。一人で勉強してたかな」

「辛くなかったの」

「そりゃ苦しかったよ。やってもやっても終わりが見えてこないんだもん。ひたすらテニスの壁あてしてるみたいな、そんな気分だった」

「単純作業ってこと? 」

「なんて言うかね、やった分だけ返ってくるんだけど、やった分だけしか返ってこないんだ」

「……? 」

「自分の得意も欠点も、全部そのまま返ってくる。強く打ち込めばその分返ってくるし、間違いは全部自分のミスだし、そこに他の誰かはいないんだよ。端的に言うなら、孤独っていうのかな」

「孤独、か……」

 

 もしひとりで受験に挑むとなったら、その孤独とも戦わなけりゃならないんだろう。


「まあ、友達のひとりでも作ればよかったんだけど。まあほら、私性格に難アリでしょ? 」

「そうかな……? 素直な人だと思うけど」

「そういう事を気負わずに言える人が素直って言うんだよ。私は、素直じゃない。嘘つきだから」

「嘘つき? 暁音さんに嘘をつかれたことなんて、一度でもあった? 」

「さあ? もしかしたら、嘘つきって言うそれすら嘘なのかもね」

「嘘つきなのが嘘で、嘘がホント……? ダメだこんがらがってきた……」

「ダメだよ、勉強に集中しなきゃ」

「最初に話しかけてきたのはそっちでしょ……! 」

 


 いつか受験のスタートラインは人それぞれ違うみたいな話を暁音さんとした。

 そして今、走り出して思い知る。

 スタートラインだけじゃない、違うのは道筋もだ。

 他の受験者に比べて、たしかに僕はスタートラインが遠くにある。

 でも僕の進むべきその道は、暁音さんによって丁寧なまでに舗装されている。

 脇道にそれないように、余計なことで躓かないように。


 

 こんな賑やかな日常を送れている僕は、きっと恵まれているんだろう。

 辛い日々なのは確か、だけどその日々は支えられて出来ている物なのだということを忘れずにいよう。

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