作戦会議 2
「それじゃあまずは作戦会議だ」
そういうと暁音さんは、どこから買ってきたかドデカイ模造紙らしき紙を机の上に広げ、ペンでいろいろ記入し始める。
大きな文字でまるで見出しのように、魔験1級合格までの道筋、と書き込むとその下に図やら何やらをすごいスピードで描き込んでいく。
一つの作品を仕上げるかのごとく荒々しくも繊細な書き様は、見てて惚れ惚れしてしまうくらいだ。
「ふぅ……。まあ、こんなところかな」
「あらま、凄い」
「数週間前から構成練ってたからねー。さてと、じゃあぼちぼち説明していくね」
彼女はそう言うと、図を指さす。
「君が合格するまでのロードマップ。大きく三段階に分けてみた。STEP1 基礎基本学習 STEP2 応用演習 STEP3 実践問題挑戦 ってな感じで進んでいくよ。それぞれ期間はSTEP1に5ヶ月、STEP2に3ヶ月、STEP3に4ヶ月。だいぶ余裕は無いスケジュールだから、そのつもりで」
「了解」
余裕が無いと言われると、しりに火がつくような気分にさせられる。気を引き締めないとな。
「ここから詳細を話していくよ。STEP1は基礎基本学習。名前の通り、魔術理論の基礎基本を学んでもらうことになる。ここは、考え方を学んでもらうところだから急いでるけど丁寧にやるよ。悠里くん数学は得意? 」
「えっあっ、苦手……かな」
「じゃあ多分苦労すると思う。体系化された理論を自分の中に落とし込んでいく作業をしたことがない人は、多分ここで一度躓くかも。なんで魔法が出るのか、なんで魔導具が動くのか、数式を元に理解していくことになる。2級までで学んだ知識をより深堀っていくことになるからそのつもりでいて」
ふう、と一息ついてから暁音さんは、指を次に進ませる。
「STEP2は応用演習。ここは基礎で学んだものを、発展させていく期間。論理を扱うのは変わらずだけど、過去の偉人たちの功績の表面をなぞっていくターンと言えばいいのかな、暗記が多くなるからそのつもりで」
「そういえば、なんで発展の方が期間が短いの? 発展だから難しいんでしょ? 」
「……ふふっ。出たね、ビキナー特有の勘違い」
「び、ビギナー? 」
ビギナーって、勉強に初心者もクソもあるんだろうか……。
だって基礎と応用、どっちが難しいと言えばそりゃ応用の方だろう。
つまり応用さえこなせれば、基礎はどうにかなるはず。
そう思っていたが……。
「いい、悠里くん。基礎が簡単だとか応用が難しいだとかそういった考えは捨てて。君がこれから取りに行くのは、1級試験の合格。つまり、そこで出題される全範囲を君は学ばなきゃならないの。基礎の上に応用があるのは確かな事だけれど、そこに優劣は存在しない。全てが等しく点数になる。どちらを疎かにしても、合格は無いと思って」
「は、はい……」
どうやら、僕の考えは甘いらしい。
応用さえこなせばと若干余裕ぶっこいてた節はあったが、こりゃ一ヶ月目から本腰入れないとまずそうだな。
「STEP3は、実践問題挑戦。過去問を解いたり、私の作る類題を解いてもらう期間。ここら辺になったらもう言うことは無い。ひたすら問題を解いて、分からなかった箇所は遡るを繰り返す。ラストスパートだからね、気合い入れて」
「うん、分かった」
「とりあえずざっと説明してみたけど、ここまでで質問は? 」
「今のところは大丈夫かな」
「よろしい」
休憩も兼ねて、一度お茶を挟む。
苦いと思っていた紅茶も、ここ最近は慣れてきたのか、砂糖を入れれば飲めるくらいにはなってきた。
ストレートを飲み干すにはまだ遠いが、僕が勉強を終える頃には紅茶の味がわかるくらいになっていればいいな。
「さてと、ここからは日々の過ごし方について。とりあえず今日を月曜日として、七日ごとで区切る。後でカレンダー作っておくから見ておいて。で、向こうで言う月曜〜土曜は勉強に当てて、日曜は休日、完全休養日とします」
「……休日!? 」
何を言ってるんだこの人は……!?
「休日なんて、そんなのダメだよ! 一日も早くここから出なきゃならないんだから」
「うーん……。それはまあご最もな意見なんだけども、私としては悠里くんには健康で安全に勉強を終えて欲しいんだよね」
「えなに、勉強でしょ……? 健康で安全って、どういうこと。ペンで怪我とかしないよ? 」
「そうだね……多分今の悠里くんには想像ができないと思うんだけど、勉強って結構精神やられるのよ。自分のペース以上のオーバーワークをし続けると、取り返しのつかないことになる。だから、週6。一日休みを得た方が、私としてはいいと思うんだよな」
「暁音さんがそういうなら、そうするけど……」
ほんとにそんな調子で間に合うんだろうか……。
「代わりに月曜〜土曜はみっちり勉強してもらうからね。どうしても納得できないって場合は、まあ休日返上も考えるけど……」
先を案じるように彼女は言うけど、一日も早く出なきゃならないんだから、多少の無茶は承知で挑まなきゃいけないはずだ。
ただでさえ勉強が苦手なんだ。
休日返上上等の気分で勉強してやるさ。
「それで、ここからは一日の話。朝寝起きから、勉強開始。昨日の暗記物の復習から初めて、朝ごはん。食べたら理論の勉強。図書館の講義もつど受けてもらうから。お昼食べて午後に入っても引き続きで。晩御飯食べてからはお風呂入ったり、少し休憩したり、比較的自由な時間。夜寝る前も気を抜かないで。今日の復習を軽くやったあと、暗記物をやって就寝。これが平日の一日の過ごし方」
「分かっていたけど、勉強づくしだね」
「やっぱり結構辛いよ? 大丈夫? 」
「大丈夫だって。やるしかないんだから、やるよ」
「その意気が最後まで続くことを祈ってるね」
ふーっ、と説明を終えた暁音さんは一度伸びをする。
「あーとりあえずお疲れ様。説明は以上だよ」
「分かってはいたけど、過酷な道のりになりそうだね」
「ダメだと思ったらすぐ言うんだよ? できる限りは支えるけれど、悠里くんの安全第一だから」
「大丈夫だって。必ず、最後までやりきる。ここに誓うよ」
最初から後戻りなんかするつもりは無いが、ここに、もう戻らない宣言をする。
これでもう逃げ出したりできなくなった。
自分で自分を追い込まなければ僕は簡単に逃げてしまう、そんな人間だとわかっているから暁音さんの前で宣誓をした。
これで心置き無く勉強に挑める。
もう既にどこか達成感のある僕だが、気を抜くな、これからが本番だ。
「よしっ! 」
頬を叩いて気合いを入れる。
そんな僕を暁音さんはどこか心配そうに眺めているように見えた。
「じゃあ、悠里くん。早速だけど、今から問題を解いてもらいます」
「えっ、うん。分かった」
「解いてもらうのは、第84回の過去問そのもの」
「いきなり本番!? 」
一体どういう意図で……。
「自分が今どの位置にいるのか分かってないと、計画のたてようがないからね。それに、一度くらいボコボコに打ちのめされておかないと。受験は立ち上がってからが本番だから」




