遭遇
「何者……ですか?」
黒と黄色のトゲトゲした髪の若い男。強さというか、なんというか、纏ってるものが今まであった誰とも違う。一番近いのが神様だという時点で、この人は只者じゃ無い。
「外国人さんかいな……俺は王国直属護衛隊の1人。簡単に言えば、お国さん守る警備みたいなもんや」
「王国直属護衛… 」
何やら、圧のある言葉が飛び出す。
「本来なら、アルテミア ちゅう馬鹿でかい王都の護衛が業務なんやけど、凱旋とかいうお祭りのせいで、こんな端の方の街まで、警備として派遣されたんや」
「そんな方が、僕にどんな用で」
「見てわかるやろ。自分の足元に転がってんの、それやったん自分でしょ」
正直いって、この先の展開は容易に想像できた。
だからこれが、足元に倒れる彼らが、誤解ではないということ。それが、なによりの厄介。
「同様の報告がもう一件、損傷の仕方がほぼ同じなんや。諸々の事情聞きたいから、大人しく従ってくれるか」
やる気のない不真面目そうな男のする、僕にとって最も避けなきゃいけない提案。
「あなたの指示に従えば、この後の僕はどうなるんです」
「とりあえず、凱旋が終わるまでは拘束。その後は、取り調べ受けて、刑が確定したらそのまましっこーって流れや」
「要するに、罪人扱い… ってことですよね」
「そうなる、ちゅうか、そうなんやろお兄さん」
互いの間に、ひりついた空気が流れる。
一歩、また一歩と、こちらへと近づく鎧の男。
気だるそうな態度とその顔。罪人を取り押さえるって時にそんな表情ができるなんて、この人は多分、強い。適当にやっても勝てる、それほどの余裕が無いと出来ない風格。
一つ、深呼吸。
覚悟を決め、意志を固める。
目を開け、前方確認。
越えなきゃならない、相手を定める。
右手を前に出し、戦闘態勢。
ここで勝てなきゃ、なりたい自分になんかなれない。
「おっ… なんやお兄さん。やる気、なんか…?」
僕の構えを抵抗の意志と見なした彼もまた、その盾を構え、交戦の備えをしだす。
「王国直属護衛って聞いたら、大抵のやつしっぽ巻いて逃げるか、降伏するんやけどなぁ… 」
「どうしても、行かなきゃいけないので」
僕はこの世界で生きていく。選ばれたこの世界で、第二の自分を生きていく。この世界で、もっと輝く人生にするって、代わり映えの無い日々から抜け出すって決めたんだ。自分ならやれるって思えたんだ。
だから、ここで立ち止まるわけには、いかない!
「おもろいやん、自分……」
男の口角が、にやりと上がる。
それと同時に、彼の持つ盾から、長い持ち手のようなものが飛び出す。その持ち手をつかみ、担ぐ。
その風貌は、両刃の付いた、重厚で豪快な両手斧。
今までとの戦いとは、雰囲気も状況も格も違う。口内の水分が一気に消える感覚。ここからが、本当の戦いだ。
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「くらいやあぁ!」
地面が抉れ、割れる一撃。斧の質量、それ以上に加えられた握力。ひびのはいった地面が自分の数分後を表すみたいで、今にも怖気付きそうだ。
「避けてるだけじゃ、なんも、出来へんで!」
重さのある、無駄のない華麗とも言える斬撃が、空を砕いて、僕の接近を許さない。
隙が全くないわけじゃない。振る前も、あとも、人間である以上カバーしきれない隙が、局所的に現れる。だけど、それが攻撃に転じられるほどの隙かと言われれば、今の僕はNoと答える他ない。
一定の距離を保ちながら後退し続けることしか出来ない。それは最も安全で、事態を動かさない選択。
この行動から外れれば、確実に死ぬ。純粋な戦闘経験、力量の差、搦手を使われた変則の一手、何をしたとしても、相手を自由に動かさせたなら、間違いなく負ける。
少しづつでいい。確実な優位を得るまで、今は、耐え忍ぶしかない。好機は、必ず……!
「トーシロ… いや、だとしたら、こいつら損傷具合はなんなんや」
一歩、また一歩。刃に合わせて下がる。
「なあ、お兄さん。自分、冒険者か? 」
「…。」
問答できる余裕はない。相手のペースに飲まれれば、掴める勝利も、見えてこない。
「見たところ、D~Cってとこか……」
斧を振り回しながら、言葉は続く。
「ええこと教えといたる。俺ら、直属護衛は、そもそもが王国とその王族の警備が役目。国家転覆だの、王族暗殺だのを食い止めんのが仕事や。せやから、そんなことを企てる相手には、何がなんでも勝たなあかん。
たとえそれが、”S級の冒険者”やったとしても。
数の暴力に頼らないかん時もあるが、一人一人がそれに対抗、少なくとも相手にはなるレベルの実力がある。はっきり言うで、お兄さんに勝ち目はない。捕まりたない気持ちはわかるが、はやいとこ、諦めなはれ」
次第に、僕の立ち位置は段差へと追い詰められていく。
それはまるで、僕を誘導しているかのよう。僕の退路を確実に潰し、その一方向だけに追い込む。そうすれば、無傷で相手を捕捉できる、完全な任務遂行が約束されている、そんな気さえさせる。
多分このまま時が流れたら、僕はいつか負ける。
「くっ…」
「わからんな… 度胸あるんか、意気地無しなんか」
つまづかないよう、前と後ろに注意を払って、段を昇る。一瞬でも止まれば、それは死。後ろ向きに階段を昇ってるだけなのに、こんなにも怖い思いをしたのは初めてだ。
斧の届く間合いギリギリ。僕と彼との間は段差5つ。
彼の足が、もう少しで階段に差し掛かる。段差を昇るその瞬間は、わずかだが状況が動き、ほんの少しだけ隙が生まれる。
高所による優位、運動量による体力の差、動きの癖とパターン分析、全てを賭けて勝負を懸けるなら、今ッ!
「…!」
脚に力を、飛ぶための勇気を、失敗を想定しないほどの自信と、覚悟を!
…代償!
「なんや…!?」
何かするって感ずかれた。
だけど、動きも決意も止めれらない。止めない!
「くっ!!!」
地面を蹴って跳ぶ体。高所を捨て、ただ遠くの前方に着地するための動き。
敵を飛び越え背後をとる。それだけが、僕が勝てる可能性の全て。
「血迷ったか、阿呆が!」
彼の振る斧が、宙を跳ぶ僕をめがけ迫る。
対空。手練の戦士である彼からすれば、こんな策は想定済み、というよりも、見てから対処が余裕だったのだろう。今の彼を作った努力と経験。それらがなす無数の訓練。それによって磨かれた、洞察力と応用力は、想定外を全て潰す。
そんな彼の斧によって、僕の体は真っ二つになる。
はずだった。
ガキンッ!
「…!?」
抉れ、割れる一撃。斧の質量、それ以上に加えられた握力。ひびのはいった地面が予言した未来は、
僕を包んだバリアの様な球体の姿。
跳ぶ瞬間、唱えた召喚。
当たる寸前で、召喚されたそのバリアによって僕の体は守られた。
地面に着地し、即座に相手に向き直す。
僕を守ったバリアは、防いだ斧の威力によってヒビが入っており、着地の瞬間に崩れて消えた。
背後を取るための大ジャンプ。
文字にすればそれだけの行為が、こんなにも怖くて、危険で、恐ろしくて、興奮して、楽しいのか。ここに来なければ、ここで生きようと思わなければ出会えなかった感情。自分を包む、昂揚の感覚。期待と自信の表れ。
今なら、全てをぶつけて、何かが出来る!
「形勢逆転…!」
読んでいただきありがとうございます!!!
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作者のモチベーションに大いに繋がります……なにとぞm(*_ _)m




