プロローグ
異世界なら一日目は、のどかな草原の上が良かった。
覚えたての魔法をスライムとかに試し打ちしたりするような、ゆったりとした始まりが良かった。
まあ別に、街中で過ごすのが悪いってわけじゃない。
ギルドに行って冒険者登録したり、自分のステータスを判定機で確認したり、2日目以降が派手になるのはむしろこっちの方だ。
人が大勢いるのもいい。
これからを共にする仲間とか頼りになる先輩冒険者とか、人通りがいっぱいある分、出会いが増える。
現に自分も今日一日で色んな人に会った。
ダウナーなお姉さん、半裸のミュージシャン、王都ナンバー3の実力者、タバコ好きの浮浪者のおっさんに、同い年くらいの女の子。
たった一日で知り合うには元の世界じゃ多すぎるほど。
異世界に来て良かったことの一つだと思う。
元の世界で高校生だった僕は、あまり人付き合いも得意じゃなかった。
上手くいくことが少ない人生で自分に自信なんか持てなかった。
そんな中で来た異世界は僕の何かを変えてくれた。
貰う言葉が励みになって、もう少しだけ頑張ろうと前を向き直す力になった。
連れてきてくれた神様からもスキルや物資と色んなものを恵んでもらい、期待される喜びを思い出せた。
異世界じゃなきゃ出会えなかった人たちが、この瞬間の僕を作っている。
もちろん、関わった人たちは彼らだけじゃない。
今目の前にいる女の子は、僕がさっきナイフで刺した。
地面に倒れて血を流してその目には涙が滲んでいる。
僕よりずっと年下。まだ何にでもなれる可能性を持った彼女を、僕はまぎれもないこのナイフで刺した。
それだけじゃない。
あと数分、いや、数十秒かも。
その瞬間が来てしまえば、彼女は今僕らがいるこの街ごと消滅する。
跡形もなく、塵も残さず、残るものは灼熱のクレーターだけ。彼女だったものなんて何一つも残らないだろう。
そんな罰を受けるような人間だったか。
いいや、そんなはずない。
僕がここに来なければ、異世界に転移なんてしなければ、きっとこんなことにはならなかっただろう。
変な意地なんてはらなければこんなことになるはずがなかっただろう。
見上げた空には僕の呼んだ青白い光を纏ったドラゴン。
周囲には、僕ら以外誰もいない。
もっとも、足掻いてなにか変わるものでは無い。
誰かの言葉を糧にして、僕は一体何を間違えたのだろう。
後悔なんてない行いに、一体何を間違いと言えばいいのだろう。
こんな一日目を迎えるのなら、あの時断っておけば良かったかな。
かけてもらった言葉を全部、否定すればよかったかな。
ありもしないタラレバを頭の中に浮かべながら、僕は、この折れきった足で前へと進む。
全ては、目の前のその子を救うため。
このスキルで、せめて彼女を生かすため。
こんな最後になるのなら、母さんにくらい、ちゃんと挨拶しておけばよかったな。
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