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何も無いホラー

作者: 偽もの

この話を読んでも結末を知ることはない。

だって何も無いから。「酷い話」を読むのが苦手な人には本当にオススメしない。


夏にちょっとだけ思い出す、何も無い怖い小話を、ただ伝えて、巻き込みたいだけの「酷いホラー」。



#############


私は時折カーテンの裏が怖くなる。


例えば小さな物音だったり、人の気配のようなものだったり、窓の向こうが不意に気になるのだ。


前までは実際にカーテンを開くと何もなくて安心していた。だって何も無かったんだから怖がる必要も無い。そうでしょう。そうだった。前までは。



「じゃあなんで気になったの?」


私はもうカーテンを開く事が出来ない。


昔から、有名なコズミックホラーが大好きだった。ああ、窓に窓に。ああ、でも気づいてしまった。なにか見えたのならむしろ安心するのだ。理由が分かるから。幽霊でも、怪物でも、名状しがたい者でも、そこに何か居たのならそれでいい。



「どうして窓の方を見たの?」


わからない。何もわからない。前までは何か居そうで怖かった。今は居ないのが一番怖い。


何も無い。


それは、風呂に入って天井が気になった時。

それは、押入れの上の暗闇が気になった時。

それは、真夜中に玄関の外が気になった時。



誰も居ない。何も居ない。


わかっている。それはきっと自覚できない低周波だったり、匂いや空気の流れを思ったよりも人間は感知出来ていたり、そういう現実で説明出来る筈のもの。わかっている筈だ。


いっそ何か私に見えない霊が居るというオカルトなオチだって全然良い。霊が実際に居るのならそれは口で説明できる科学的な現象と変わらない。実在するなら霊現象は自然現象に過ぎない。


わかっているから、そうだと言って欲しい。



「何も無いのに、どうして怖いの?」



もし。もしも本当に何も無いのなら。



科学でもオカルトでも無く、ただ普通に何も無いのなら。何も無いのなら、私は何も気にならない筈なのだ。ああ、でも気づいてしまった。とうとう理解してしまった。



何も分からないという事自体が怖い。



仮に保存食が動物か虫に食われていたとする。家の中にも外にも何も居なくて、他に何も異常が無くて、どこにも侵入口が見つからなかったとする。……ああ、何も居なくて良かったと安心するだろうか。


仮にカーテンの裏が気になったとする。どうして気になったのかすらも分からなかったとする。何も居なかった時、私は本当に安心してよいのだろうか。



「何も無いものを理解するのは無理だよ。だって何も無いんだから」


私はこれから二度と解放される事はない。カーテンの向こうが気になった時も、ドアの向こうが気になった時も、何も無いから何も救われない。トイレに行くときも、風呂に入る時も、ベッドで眠る時も、ふと天井を見上げ、なぜ天井が気になったのか恐れるだろう。



「心の声なんて意味不明なものは現実で聞こえない」


イタズラっぽく囁く声の主が私との対話を否定する。わかっている。私は何も聞こえていないし、誰とも喋っていない。頭の中で聞こえる私の考えが私を追い詰め続けているだけ。


分からない。どうして私はこんなことを考えさせられているのだろう。


ここには私しか居ない。呪いなんてものも無い。妖精とか変な霊が宿ったりもしない。いっそそれでもいい。それなら全部そいつが悪いんだ。物語で言えばそいつが全ての元凶であり、全てのオチだから、それでいいんだ。退治してハッピーエンドでも、呪い殺されて終わっても、終わりがあるならそれでいい。



でも私は知っている。現実の日々に終わりなんて無い。ここには誰も居ないし、何も変なことなんて無い。誰とも会話なんてしていないし、頭の中で聞こえる声なんて無い。


ただ私が怖いことを考えて、怖がっているだけ。




何も無い。何も無いんだ。でも、ああ、どうしてカーテンの向こうが気になるのだろう。「どうして」に答えられないのがどうしてこんなに怖いのだろう。


窓の向こうに何か居たら怖いと思っていたあの日にはもう戻れない。どうしてだろう。どうして私の中の私が私を追い詰めているのか。


何も無いものから答えは帰ってこない。答えを知る日は来ない。



私は今夜もカーテンを開かない。結末を知る日は来ない。この怖さから救われる日は来ない。死ぬまで続いていく現実の何も無い日々に、結末なんて無いのだから。「何も無い」ことの恐怖にはドラマチックなオチも爽快な結末も「何も無い」のだから。


蒸し暑さの残る8月の夜に、呪いのお裾分けとして作成。

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