第4話
「……慧くんが、大怪我?」
次のデートを決めようとしていた時に、知らない番号から連絡がきた。
相手は彼のお母さんで、彼女がいるから代わりに連絡してくれないかと頼んだらしい。本人は入院していて今は携帯の許可を出されていないのでお母さんに伝えたのだとか。
『そうなの。大怪我と言っても、落ちてきた鉄骨の下にいた子どもを庇って頭を怪我しただけだけどね。ちょっと縫って体力も使ったから、お医者さんに携帯は数日使っちゃダメって言われたのよ。夏芽さんだっけ? 病院教えるから、慧のお見舞いに来てもらえるかしら?』
「行きます」
断る理由などどこにもない。慧くんが怪我をしたことにも当然驚いたが、無事への安心感が大きかった。誰かを助ける正義感は、ああいう人だからあるのはわかっていたけど……生きていて良かったって気持ちの方が大きい。
本当ならすぐにでも駆けつけたかったが、その日はもう面会時間には遅かったし、慧くんも休みたいだろうからと自分に言い聞かせて我慢した。
だから、次の日は大学を休んだ。病院は、彼のお母さんがLINEで地図と部屋番号を教えてくれたので、支度をしたらすぐに向かった。
病院なので念のためマスクはしたけど、感染症の波はまだ完全に落ち着いていない時勢なので油断は出来ない。慧くんにもそれはあってほしくなかった。
「こちらへどうぞ」
看護師さんに手続きが終わってから病棟に案内してもらうと、部屋ではベッドに持たれていた慧くんが元気そうに手を振ってくれた。
「慧くん、大丈夫⁉」
「大丈夫。ちょっと痛いけど、麻酔切れ始めただけだから」
「よかった……」
個室だから、って理由もあったけど。看護師さんも下がっていたから、遠慮なく彼に抱きついた。慧くんはびっくりしてたが、すぐに『ありがとう』と言いながら抱き返してくれたわ。
「ごめん。心配させて。けど、あの時は咄嗟に体が動いてた」
「……ううん。相手の子も無事でよかったね」
「ああ。それは本当によかった」
ただ、怪我はなかったけど、慧くんが頭からたくさんの血が流れているのに驚いてずっと泣いてしまったらしい。救急車は、近くを通ったおばさんが呼んでくれたんだって。それに、少し縫ったものの怪我の具合は比較的軽かったそうだ。痛いが我慢できないほどではないと慧くんは苦笑いしながら説明してくれた。
「どれくらいで、退院出来そう?」
「五日くらいだって。抜糸のために、もう一回再入院はあるけど」
「フォローできることはするから。大学の方は任せて」
「和香がいてくれて助かるよ。怪我した日もさ? 公園の近くだったんだけど、雨上がりに和香と来たら気持ちがいいんだろうなって歩いてた」
「……私のせい?」
「違うって。和香も自分で言ってたじゃん? 共感してくれる相手とかがいなくてつまんない日常だったって。俺も実はそうだったからさ。和香との日常がすごく楽しいんだ。俺から和香を取らないでよ」
「……取らない。逃げないから、無茶はあんまりしないで?」
「もちろん」