表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒーラー探偵、現る

作者: 柿名栗

 夜の帳が下り始めた小さなの街の、とある古い宿屋の一室で、若い男が頭から血を流して床にあおむけに倒れている。


「……被害者は、額に鈍器で殴られたような傷があり、ほぼ即死か」

「はい、宿屋の店主によると、今から二時間ほど前に、この部屋から争うような声が聞こえたそうです」

「ふむ……」


 被害者の側に立っている二人の男は、刑事だった。店主からの通報で駆け付け、現場の検証をしている。


「その、争っていた相手を店主は見たのか?」


 くたびれた茶色のコートに身を包み、ろくに手入れのしていない汚い口ひげを生やし、白髪まじりのオールバックをキメた中年の刑事が、灰色のコートを着た黒髪の若い刑事に問いかける。


「誰かが、あわてて出て行く気配があったそうなのですが、姿は確認していないそうです」

「そうか。他の宿泊客は?」

「今日部屋を取っていたのは、この男性だけのようです」


 ヒゲの刑事が、じっと被害者を眺める。


「……店主から、もう少し詳しく聞いてみるか。ちょっと呼んできてくれ」

「わかりました」


 若い刑事が部屋を出て行こうとしたその時、ドアが開けっぱなしの部屋の入口から、一人の男が入ってきた。


「どーもー、ちょっと失礼しますよ」


 黒いズボンをはき、茶色いチェック柄のベレー帽をかぶり、茶色のケープを羽織った金髪の眉目秀麗な青年が、一直線に被害者の元へ向かう。


「おい、誰だアンタ。勝手に被害者にさわるんじゃない」

「まあまあ、かたいこと言わずに」


 青年が被害者の横でヒザをつくと、右手をかざしブツブツと呪文を唱え始めた。


「ブツブツ……えーい、リザレクション」


 呪文を唱え終わると、清らかな白い光が被害者を包み、ゆっくりと消えて行く。


「おい、一体何をして……」

「ん、んん……」

「!?」


 ヒゲの刑事が青年を問い詰めようとしたその時、被害者の若い男が唸りながら目を開けた。額の傷は綺麗になくなっている。


「……蘇生魔法だと? 僧侶の中でも、大僧正レベルにならないと使えないっつう代物だぞ」


「んー……ここは? 誰だい、あんたたち」

「どうも、こんにちは。記憶はありますか?」


 青年がほほ笑みながら、優しい声で被害者の男に問いかける。


「記憶? えっと、俺は……あぁ!!」


 被害者の男が、勢いよく体を起こすと、ズボンの左右のポケットを、慌てた様子でまさぐった。


「やられた! ちくしょうあの野郎!」

「あの野郎とは、誰のことですか?」

「店主だよ! ここの! あいつ、俺が迷宮で拾ったレアアイテムを見せた途端、襲いかかってきやがってよ!」

「なるほどなるほど、宿屋の店主にやられたんですね。ですってよ、刑事さんたち」


 青年が振り向き、二人の刑事にニコリと屈託のない笑顔を向ける。


「……おい、今すぐ店主をとっ捕まえてこい」

「は、はい!」


 若い刑事がドタドタと足音を立て、慌てて部屋から出て行った。


「さて、それじゃ、僕はこれで。お仕事頑張ってくださいね」


 無駄のない所作でスッと立ち上がり、右手を上げて部屋を出て行こうとした青年を、ヒゲの刑事が引き留める。


「待ちな。……アンタ一体何者だい」


 部屋の入口に立ち、振り向くことなく青年は答える。


「ただの通りすがりのヒーラーですよ」


 コツコツと小気味よい足音が部屋から遠ざかって行く。


「……やれやれ、傷害致死が、殺人未遂になっちまったな。なあ、アンタ。面倒くさいからもう一回死んでくれねぇか?」

「冗談じゃねえよ!」

「はーっはっは! そりゃそうだわな」


 こうして、どこからともなく現れた謎の青年によって、事件は解決(?)した。一体彼は何者なのか? それは、あなたが被害者となったとき、わかるのかもしれない……。



――おわり――

お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ