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-第5話-王都訪問(3)


森の茂みをぬけるとそこには、ぽっかりとあく空間と美しい湖、そしてその湖のふちで倒れている女性に、今にも襲いかかりそうな嚢魔という構図が一瞬にして視界にはいってきた。


どうやら女性は失神しているらしい。風の精霊と湖が近くにあるために水の精霊も一緒になって嚢魔の注意を引こうとしているが、嚢魔は女性の方に興味をしめしているらしく精霊のほうには目もくれない。



うう・・・・ものすごくやばいことになってる



とりあえずは、女性のほうへと走る。

精霊たちはこっちを驚いたようにみて、なんできたの?!と叫んでいるが、ごめん!とだけ口で伝えると、やれやれとでも言い出しそうな顔をした後、嚢魔に大技をたたき込み、注意をそらしてくれた。

すかさず女性を茂みにそーい!と投げる。ドレスが傷物になっただろうがそこは勘弁してくれたらありがたいものだ。

大精霊二人の大技すら、嚢魔にとってみれば、軽く叩かれたぐらいにしか効果がないようで、すぐにこちらを向いてきた。






精霊達の焦った顔。

目の前に広がる大きな嚢魔の体。







正直震えは止まらないし、騎士団の方々はまだなのかと叫びたいが、おじさんたちはまだ城に着いてすらいないだろう。

時間的に考えてもう少し粘らなければならない。

都合良く助けがくるとはおもってはいけない。

救援がくるまで自分がなんとかしなければと必死に考える。

自分のすぐ近くには助けるべき女性がいる。

精霊たちもいずれは魔力切れになり、最悪は嚢魔のえじきになってしまう。

そうなったらゲームオーバーだ。精霊たちの協力あってこそ今まで殺されずにすんでいるのだから。




冷静に考えようとすればするほどなぜか体がほてってくる。

なぜか頭もぼんやりしてきた。

なんでこんな場面でと思って頭をふっても視界がかすんでくる。




ああもうなんでっ!と必死に目をしぱしぱさせると、ふいに頭に響く声が聞こえてきた。




『命じなさい』



女性らしき突然の声に驚くものの、やはりぼんやりとした思考はただその声を聞き入るのみ。




『あなたにはどんなものでも従わせる絶対的能力がある。』





そんなの知らない。従わせるだなんてしたこともないのに、そんなことを突然言われても困る。



『愛しいあなた。あなたの澄み切った心だからこそ使える能力。でもね、命じるときには決して慈愛の心を忘れてはいけない。その心がなければその力はただの暴力となってしまう。そのことを決して忘れないで。』




その言葉を最後に女性の声は遠のき、かすんでいた思考がだんだんさえてくる。

目の前を見ると、頭がかすむ前の嚢魔の位置が、今も動いた形跡はなく、いま起こった不思議な出来事はほんの一秒ぐらいのことだったのかと考える。

今のはいったい何だったのだろう。










命じろと言われた。

慈愛の心を持って命じろと。












目の前の嚢魔は、もともと精霊だったという。なんらかの影響を受けて理性を失っていく自分はどんなにこわかったことだろうか。


弱りきって動物に寄生するしかなくて。


その動物が変わっていく。


自分も変わっていく。



嚢魔は暴れ回りながら叫んでいたのかもしれない。


さびしい。悲しい。助けて。


化け物としてしか見られない嚢魔は、殺されていくとき何を思って死んでいったのだろうか。






いつの間にか体の震えが止まっているのに気づく。

もう目の前にいる嚢魔は、化け物ではなく、小さくこごえる精霊にしかみえなかった。


あなたを解放してあげたい。


ただその思いでゆっくりと言葉をはき出す。

恐れないで。怖がらないで。




『大丈夫だから。』



自分の声のはずなのに、普段とは違う響きをもってこの場を支配する。

嚢魔はびくりと体を動かし、こちらに向けた足をおろす。

うんいい子。私は嚢魔に笑顔を向けると、ゆっくり嚢魔に近づく。

(ちょっとしずく!?)

精霊が制止の声を叫ぶが、私はそれを無視して嚢魔に触れることができる範囲まで近づくと、そっと体をなでながらささやく。




『もう、やめなさい。』




その言葉だけで十分だった。




黒い影も大きな体もなくなっていく。

残ったのは手の平に小さく丸まって眠る精霊と、普通サイズの牛。


助けることができた。


そう思ってほっとしたのと同時に、背後に新たな嚢魔の気配。


(しずく!!!!)


精霊が叫ぶのと、嚢魔にはり倒されるのは同時だった。

瞬時に現れた嚢魔はテレポートの能力でももっていたのであろう。

大精霊たちも察知することができなかったらしい。





ああこの子も・・・助けなきゃ。






泣いているから。叫んでいるから。


だからどうか、怖がらせないで。










その思考を最後に、馬の走る蹄の音と、真っ黒な鎧、光り輝く剣が振り下ろされたのをブラックアウトする視界におさめながら、私はゆっくりと目をとじたのであった。




手の平に眠る精霊を、大切に、優しく胸に抱きしめながら。












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