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-第4話-王都訪問(2)





ああもう最悪だ





いまの心境はまさにこの言葉でうめつくされている。









王都から城に入る際には、城をかこむように作られた森を通らなくてはいけない。

どこから侵入者が侵入するかわかるように城から森までの約百メートルは芝生に覆われ、隠れる場所などないようにしてある。

森や芝生に大きな城。東京ドーム何個分なのかすら測定は不可能だ。やたらに広いこの敷地にも驚いたが、森のずっと先からちらちらと見える城のきらびやかさに開いた口がふさがらなかった。純白に光輝く城の城壁に天をさすような頂点のみえない高さ。これは想像以上だと思いながら足下を見ると、私の馬車を追うように走るウサギやリスたちにたちまち目を奪われる。その後ろには護衛兼監視役をしているらしき二人の騎士団員が馬にのってついてきていた。


鳥の美しい声、可愛い動物たち、のんびりとしたのどかな光景に心配は杞憂だったかなと少し安心する。




ふと森に目を移すと、森の奥に小さな湖があるのがみえた。

そしてそこにたたずむ一人の女性も小さくではあるが確認することができた。

城の敷地内であるこの森を散歩しているならば、相手はそれだけ身分の高い人なのだろう。

ただ身分が高いにもかかわらず、お供の人を一人もつけずに歩いているのには少し気に掛かる。

大丈夫なんだろうか。だなんて流れていく景色と共に彼女の姿を見送る。

















その瞬間












ばさばさっ!!!という鳥の羽ばたき音。

ウサギたちは一斉に聞き耳をたてると素早くどこかへと走っていってしまった。

さっきまで騒がしかった森が不気味なほどに静まりかえる。




精霊達の騒ぐ声が聞こえるかと思うと突然風の精霊がこちらに飛んでくるのがみえた。

あまりの必死さになにかあったのかと少し緊張する。






(あなたここからすぐに逃げて!嚢魔がいる。こちらに来てる!)








はい?

のどかな雰囲気にほのぼのしていた思考が急な事態に一時停止する。






(ああもうこんなことになるならさっさとしずくと契約しとけばよかった!!)




頭をかきむしりそうな勢いでパニくる大精霊。

うんあなたが私のことを案じてくれてるのはわかったから、とりあえずは落ち着きましょう。



どうやら大精霊は精霊や動物を押さえる力はありあまるほどあるらしいが、人間や嚢魔相手となると、人間の魔術に押さえつけられたり、嚢魔の邪気に当てられるなどして苦戦するらしい。

そこで人間との契約がでてくる。

人間と契約するとなると、精霊達の力の源である魔力はすべて人間から与えられる。

つまりは自分の持久力を気にせずに常に全力疾走できるようなもので、精霊は自分の力を百二十%使えるというわけだ。

だからこそ精霊は魔力が高い人間と契約したがるし、精霊をモノとみなしてこき使う人間を精霊は嫌悪する。

だって契約はギブアンドテイクだ。精霊は魔力を自由に使いより強い力を得るために、人間は精霊の力でより強い力を身につけ、争いを制するために契約をする。

ただし契約すれば人間が精霊に命令できるようになり、いったん行った契約を破棄するのは簡単にはいかないため、精霊も契約には慎重になる。

それを簡単に契約するだなんて大精霊がいっちゃだめでしょ。しかも大精霊が満足に力を使えるほどの魔力が異世界人である私にあるとは思えないし。



(とりあえず足止めぐらいはできるからにーげーてー!)




と精霊が叫ぶと同時に大きな地響きとともに、馬車の前に真っ黒で、体の周りがもやがかっている二メートルほどの高さの牛?らしきものがあらわれた。



「なっ!嚢魔だと!?」

後ろにいた騎士団員二人が馬から飛び降り、嚢魔が出現した方へと向かう。

騎士団員の方々がいてくれて助かったけれど、嚢魔一体に数十人もの兵が戦ってやっと倒すのならば、今二人が戦ったところで勝てる見込みはない。

どうしようかと悩んでいると風精霊がなにかしてくれたのだろう、嚢魔の注意が別の方向に向かう。

そして森の奥へと暴れながら進んでいく。

騎士団員たちはなぜ急に違う場所にむかったのか首をかしげたものの、今がチャンスとばかりに、私たちを城のほうへと案内してくれる。


「今のうちに早く!!」


おじさんの方をみると、突然の嚢魔の出現に驚いていたものの、今は落ち着き冷静に馬を城へと走らせようとしている。



助かった。




だなんてほっとしたのもつかの間、はっとなにかに気づき、素早く森の方へと目を向ける。


たしか嚢魔が向かった方向は湖があった場所だ。


湖にたたずむ一人の女性。お供もつけずに、一人で。












なにも考えず、馬車から飛び降りる。

騎士団員もおじさんもなにやってんのとばかりに目を見開きこちらを凝視する。










「あっちに女性が一人でいたの。城に着いたら救援をお願い!!」




それだけ叫ぶと、私は三人が制止するのも聞かずに嚢魔が向かった方向へと急いだ。



私一人がいったところでどうにもならないだろう。だけど女性をたった一人で嚢魔にあわせる訳にはいかない。

こんなときばかりは自分の後先考えない行動力にため息しかでない。

なんでもう嚢魔なんかでるだろうか。

しかもあの女の人も一人であそこにいたりしなかったら、こっちも心配せずにすんだもののと考えるが、今そんなことを考えても仕方ない。


















ああもう最悪だ











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