-第3話-王都訪問(1)
「王都に薪を直接持って行く!?」
今日もおじさんたちと木を切りに行き、休憩の合間に湖で動物たちとたわむれてから家に帰る途中に、おじさんが急に王都に行くと言いだした。
なんでも王都では今、とても忙しい状況にあるのだという。
王都の使用人もすべてかり出されており、食物も店の人たちが直接持って行っているらしく、おじさんもいかなければならなくなったらしい。
すでに王都へ品物をもっていった人の話だと、嚢魔と呼ばれている生き物が王都を中心にあちこちで暴れ回ってるのだという。
嚢魔とは精霊がなんらかの影響で理性を失い、動物に寄生して異形なモノとなり、殺されるまで絶えず暴れ回る化け物だとおじさんが説明してくれた。
この町は王都の膝元にもかかわらずまだ一度も襲撃は受けてないため、王都も物資の調達がなんとかできるのだが、この町以外の近隣の町は二度三度ほどは襲撃をうけているとか。
森の中で暮らしている私たちは一週間に一回ほど町の方に行くだけなので、その間にそんな騒動があったと聞いて驚きを隠せなかった。
湖の精霊達が、最近精霊たちがざわついていると話していたが、このことだと理解する。
普通は一年に一回ほど発生するらしいが、具体的な対策も見いだせず、嚢魔が出たときには王都の騎士団と町に在留にている近衛団で長いときは何日もかけて倒すらしい。
ただでさえてこずる嚢魔が一週間であちこちに発生する事態となれば、王都の機能がおかしくなるのも無理はないと思う。
しかもまだ嚢魔は数体倒されずにどこかに潜伏しているらしい。それも従来の嚢魔とは違うところで、潜伏するとなると、いつどこで襲撃されるか分からないため、今王都は嚢魔に襲撃された場所の修復と、騎士団たちによる厳重警備におわれてるということだ。
王都が今も危ない状況にあるというなか、おじさんが王都に行くなんてとても心配だし、もしおじさんが王都にいったときに嚢魔が現れたりしたらと思うとぞっとする。
おばさんもとても心配そうだ。
私は少し考えると、おじさんたちをまっすぐみつめて言う。
「私もついて行っていってもいい?
やっぱりとても心配だし、おばさんもおじさん一人で行くより少しは安心するでしょ?
それになにかあった時も、二人の方が切り抜けられるかもしれないし。」
はじめは反対していたおじさんたちだが、説得を重ねるうちにしぶしぶ了解してくれる。
お世話になってる以上、少しでもなにかの役にたちたい。私が一緒に行ったところで足手まといになるかもしれない。けれど、ただ家で心配しながら待つだけよりは何倍もましだ。
そんなこんなですぐに王都に行くための準備をすると、明日の王都訪問に不安と妙な息苦しさを感じるまま、明日は湖にいけないなぁ、なんて思いながら就寝したのであった。
明日の王都訪問のせいでしばらく湖に行けなくなることも今はまだしらないまま。
次の日の朝、手をふるおばさんに手をふりかえしながら薪をたくさん積んだ馬車の中で空を見上げる。とてもいい天気で、平和でのどかな空気を思いっきりすいこむ。
大丈夫、きっと大丈夫だなんて心の中で自分を勇気づけながら、家々が並ぶ町のもっと上にそびえ立つ王都と、その中でもっとも大きい建物であるシュバルティ城―――この国の頂点である王族がいる建物―――へと目線を向ける。
初めての王都。
初めての城。
そして、嚢魔という存在。
不安が自分を覆うのを見ないふりをしながら、近づきつつある場所に自然と憂いの表情がでるのであった。