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-第13話-動きだす物語






侍女見習いになってから三ヶ月、ついに大仕事がやってきました。



その仕事内容は王様の妹様、つまり私が助けた(といえるのだろうか?私も最後は失神してたし)お姫様を、となりの大国までお見送りし、少しの間となりの国でお姫様のサポートをするというものだ。

もちろん侍女として呼ばれたのはライラさんで、私はライラさんの補佐みたいな立場でもあるためライラさんについていくことになった。

今回の仕事次第で、侍女見習いから侍女への昇進も考えてくれるらしいので、やる気は十分である。


王様の妹様改めリリィ様は、となりの大国の王様と結婚していらっしゃるれっきとした大国のお后様である。体が弱く、床に伏せがちなため、療養もかねての実家への里帰りを王様に勧められ、ここ四ヶ月ほどゆっくり療養されていたらしい。

だいぶ体の調子も整い、となりの大国の王様たちや民衆もリリィ様の容態を心配していることから、リリィ様はとなりの国に帰られることになったようで、となりの国の、リリィ様を大切になさる気持ちに思わずほんわかとしてしまった。


なんでも、王様とリリィ様が結婚するまでの純愛物語が国民全員に知れ渡っており、国民のみんながこの夫婦を暖かく見守っているのだと侍女仲間からきいた。


その純愛物語はいつかじっくり話すとして、私がライラさんについていけるのは、リリィ様のお願いもあってのことらしい。

自分を救ってくれた女の子に会ってゆっくり話したいと、前々からおっしゃってくださってはいたものの、リリィ様の療養が優先となり、となりの国に帰られることもあって、結局馬車の中で、顔合わせすることになった。

これからとなりの国での滞在期間を含めて、一週間ほどはリリィ様と一緒なので、話す機会はたくさんある。


でも私って王様に疑われているんだよね?

こんな大仕事に関わったりしていいのだろうか。


なんてことも思うのだが、護衛として王国騎士団の中でも精鋭の方々が一緒に行くのでまぁいいのかなと納得している。



とくに、その中には、私が今の一番の悩みの種でもある団長さんの姿もある。

この人がいれば大丈夫だと王様も思っているのだろうか。

うんまあ団長さんには思いっきり疑われているよね私。

この三ヶ月は本当に大変でした。

団長さんに会わないように気をつけてるのに、なぜか1日に1回は必ず会ってしまうし、ときには真っ正面からじっとみつめられることもあった。

あれはものすごい威圧感でした。

あの人はただでさえ身長が高いのに、私の身長は(悔しいことに)平均以下。

その差は実に30センチほど。それにくわえて無表情の顔がこちらをにらむようにみつめてくるのだ。

怖い以外のなにものでもないよあれは。

ちょうどライラさんと別行動してたからよかったけど、本当にひやひやしてしまうので、本気でやめていただきたい。



でも、王様の考えていることが時々本当にわからなくなる。

疑わしい者を、自分の妹が乗る馬車の中に一緒に同行させるなんて、普通はしない。

ぼろをだすのをまっているとか?う~ん。

でも馬車の中でリリィ様がなにかあった場合、一番に疑われるのは間違いなく私だ。

そんな疑われやすい仕事を与えられて、簡単にぼろをだす人がいるなんてあの王様が考えるだろうか。


ますます謎だ。



「しずく、もうすぐリリィ様がいらっしゃるからぼーっとしない!」

「っ、はい!」


考え事をしていることがバレバレだったのか、ライラさんに叱責をうける。

うう、仕事中に気を抜いて怒られるなんてまだまだ修練が足りないなぁ。


遠くからゆっくりと歩いてくる華奢な体躯の女性がみえると、馬車に乗り込まれるまで頭を下げて決して動かないように心がける。

乗り込まれたのを確認すると、おしとやかに、かつ素早く中に入らせていただく。

もちろん「失礼いたします」とお伺いをたてるのは当たり前だ。


中に乗り込むと、馬車がゆっくり動き出す。

馬車の中のふかふかソファーに一瞬気をとられていると、


「今回は一緒にきてくれてありがとうございます。短い間だけどよろしくおねがいしますね。」


なんて女性の声がすぐ近くから聞こえてくる。


思わず顔をあげると、深い蒼色の髪をきらきらとなびかせて、髪と同じ色のすいこまれそうな瞳と、暖かな微笑をこちらにむけたリリィ様が目の前にいた。


リリィ様の優しげな雰囲気に思わずほうっとしていると、ライラさんがすかさず


「大変もったいなきお言葉でございます。リリィ様に任せられることのなんと誇らしいことか。」

なんて鼻息荒くリリィ様に言葉を返すものだから、私もはっと我に返ると、慌てて感謝の言葉をもごもごとつぶやき、深いおじぎをする。


「あなたは、私を助けてくださった方ですね。」

リリィ様はゆっくりしとやかに目線を私にあわせると、鈴のような声で馬車の中を響かせる。


「あなたが見つけてくださらなかったら今頃私はここにおりませんでした。

私がほんの少しばかり湖に散歩に行こうとさえ思わなければ、あなたにも迷惑をかけずにすんだものを、自分の浅はかさに恥じる思いです。本当にありがとうございました。」


ふつう、大国のお姫様が侍女見習いにお礼を述べるなんてありえるだろうか。

というか普通の貴族たちを毎日みてるから、余計すばらしくみえるんだろうなぁ。


こんなしたっぱの侍女からいわれるのも屈辱でしょうが、貴族のみなさん、もうちょい王族の方々を見習ってみたらいかがでしょうか。


というか、なにか返事を返したいのに言葉がでてこないー!


どどどどうしよう!さすがにハードル高すぎるよ!

王様とは距離が離れてたから、まだ冷静に言葉が返せたけれど、今は密室すぎて、さらにリリィ様の顔が綺麗すぎて、頭がくらくらするともうしますか、なんというか、とりあえず、頭がはたらきません!


あわあわしているうちに、返事すら上手く返せない自分が恥ずかしくて恥ずかしくて、顔が真っ赤になっていくのがわかる。


「そんな・・・お、お礼をいっていただけるようなことなんて、してはおりません。むしろ団長様のお手を、わずらわせてしまいましたし。」


しっかりしろ自分―!

なんかキャラが違うぞー!


そんな私をみて、ふふふっと笑い出すリリィ様。

「可愛らしい方。ここ最近、侍女たちがあなたの話ばかりしているの。本当に話に聞いたとおりね。」


私の話って・・・仕事の失敗話ぐらいしか思いつかないんですけれど。


私の失敗談が、全てリリィ様に話されていたとしたら・・・恥ずかしすぎて死ねる。





うああーっと苦悶する私をよそに、馬車はゆっくりと、しかししっかりと進んでいく。


よく晴れた空にキラキラと輝く太陽は、暖かな日差しを馬車の中にまで運んでくれる。








しかし、やがて少しずつ、少しずつ、雲が積み重なり、地面に暗い影をぽつぽつと落とす。


それはまだ、小さなシミのようなもの。








けれど、それはまっさらな空を、確実に蝕んでいく。





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