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-第8話-侍女見習いの日々



侍女は朝五時半に起床し王宮の清掃(部屋や廊下など)を開始する。

七時までに各担当域の掃除を終了させ、速やかに朝食のセッティングにとりかかる。

朝8時に主人を起こしに行き、足、顔を洗う水を用意し着替えを手伝う。

主人が起きるまでにその日の気温、湿度、天気を元に一番快適に過ごせるであろう服を選び用意する必要があり、数種類用意することが原則である。

朝九時には料理ができあがるので、その時刻に主人を朝食場所に案内し、主人の朝食が終わるまでは壁際に立ち、主人の朝食が終わるまで待つ。

主人がなにか要望したときには瞬時に対応し、即座に行動する。



などなど、朝の数時間で侍女にはたくさんの仕事があり、1日丸ごと侍女の仕事を書き上げようとするなら、まるまる二ページは使う必要がある。

しかも仕える主によって仕事の内容が微妙に増えたりするのだから、すごいもんだ。






まず私はすぐに侍女になるのではなく侍女見習いという仕事に就かせてもらった。

ゆくゆくは侍女になるので、仕事を学べってことだろうけれどなにぶん忙しい。

あっちこっち廊下を早歩きして、召使い用の廊下ではダッシュ。貴族が廊下を通っているときは、どんなに急ぎの仕事だろうと廊下の隅にじっと立ち、頭をふかぶかと下げて貴族が見えなくなるまでその姿勢のまま耐えるのだ。

正直毎日この激務をこなす侍女の方々は素晴らしいと思う。





私に仕事を教えてくれるのは侍女歴20年の包容系美人なライラさん(35歳)だ。

ライラさんがこの仕事についたのは私と同じく15歳だったこともあり、ものすごく可愛がってもらっている。ただ、私を初めてみたときとても15歳にはみえなかったらしく、本気で驚いていたのはちょいとショックだった。

けれど、なんにもできない私に根気強く教えてくれるライラさんに、私はもう師匠とあがめたいほど尊敬しっぱなしだ。

ほんわかだけど、てきぱきとこなすライラさんはどこかお母さんと雰囲気が似てて、思わず涙ぐんでしまったことも一度や二度ではない。

ライラさんはたくさんの侍女の方々とも親しく、ライラさんも侍女の方々と会う度に私を紹介してくれるので、私もたくさんの侍女の方々と友達になることができた。

まあお約束のように、みんな妹とか娘のように接してくるんだけど。

中には私よりも年下なのに外見は18歳みたいな子もいて、あまりのギャップに落ち込んだ。14歳であの豊かな体は本気であり得ないと思います!





そして侍女の仕事の中でも、私が大好きな仕事がある。それはご飯の準備である。

始まりは、コックが作っている料理を私が無意識によだれを飲み込みながら凝視しながら運んでいたことだった。

ほかほかのクリーミーなミルクたっぷりのクリームシチューや、チーズがとろとろにかかったピザ。新鮮なみずみずしい野菜に、その上にかかる料理長特製オニオンソース。

ジュージュー音をたてるふっくら香ばしいハンバーグやふわふわふかふかもっちりパン。


思い出すだけでもよだれが反射ででてきてしまう料理に私は毎回釘付けだった。

そしてそれを王族の方々が完食されるのをじっと壁に立って待つ悲しさ。

机に並べるだけの数分は私にとって幸せのときであり、壁に立つ時間はつらいひとときだった。



けれどそんな私をみかねたのか、ある日、料理を運んでいると渋面のかっこいいコックのおじさんが


「ちょっとこっちに来い。」


と声をかけてきた。

なんだろうと思いながらとことこついていくと、厨房の端に、今日のメインである野菜コンソメスープが皿につがれてあった。

おもわず渋面のコックさんを見上げると、ぶっちょう面しながらも



「おまえのキラキラ視線がいちいち気に掛かるんだよ。

空っぽになった皿を下げるときは、しょんぼりした犬みたいになりやがって。

ライラも気にしてたから、しょうがなくだがお前にも多少は食わしてやる。後でライラにお礼いっときな。」



思わず目を点にして渋面のコックさんを凝視する。

そんなにわかりやすかっただろうかと考えるが、周りの視線を気にせず、料理オンリーだけをいつもみつめていたので否定はできない。

さすがに恥ずかしかったが、食べさせてもらえるという喜びは形容しがたいものだった。

王族専用のあのおいしそうなキラキラした料理を食べさせてくれるという天の恵みともいえる施し。

私は感激しながら椅子に座り、侍女の仕事もあるので比較的急いで食べる。

しかしながらこのおいしさはどう表現すればいいのだろうか。

コンソメスープの素ではとてもじゃないが表せない味だ。


とろけながらも必死に食べていると、周りのコックさんたちが立ちつくしていることに気づいた。

周りをおそるおそる見渡すと、ほのぼの顔のコックさんたち。

侍女見習い風情が王族の料理を食べるんじゃねぇなんて怒った顔ではなかったので一安心。

しかし、その視線がまるで小さい子供を見守るようなものだったことはこの際見なかったことにしておく。







そしてそのコックさんが実はコック長だったこと、そしてなんとそのコック長はライラさんの夫であり、ライラさんがよく私の話をコック長に話していたこと、私のあまりにもどぎつい料理美味しそうだなオーラがだだ漏れだったせいで、料理長だけでなく他のコックさんたちも実は気にかけていてくれたのだという、たくさんのどっきりをライラさんから後で休息中に聞かされて、私は飲んでいたお茶をことごとく噴いたのであった。








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