2異世界転生からの異世界移転ダブル盛り
◇
———鏡の名前は『プロンプルト』
別の世界へと繋がる、唯一にして最古の魔法道具。それは、一度稼働してしまうと次に発動条件を満たすのは数十年後と言われている———
◇
「鏡よ鏡、鏡さん」なんて問いかけたら答えてくれる魔法の鏡さんは良き友となれる可能性を秘めていたし、母にでも子にでもきっとなり得たかもしれない。なんせ話すと言う超特殊能力を持っていたのだから。
プロンプト、わが国に伝わる魔法道具もせめて話すことに集中し、そこでとどめてくれていれば、なんて思ってしまうのである。
ぼんやり眺める視線の先には、輝かしいシャンデリア的な照明がどどんと構えている。
このシャンデリア的な物の名前は知らないが、見たところ今までいた世界もこの世界も文明に差は無さそうだ。
「はぁ……」
おっと。
しまった。ため息が出た。
幸せが逃げてしまう。
迷信と言われているものの、日本人には深く馴染みのある、なんとなく避けたい心理が働く仕草の一つだ。世界が変わればそんな事気にする必要もないのだろうけれど。
ここでは迷信よりも違ったスリルが待っている。「幸せが逃げる」といった鈍行性ではなく、もう少し即効性が効いた物が待っているわけだ。
パシと口を塞いだものの、時すでに遅し。
見張よろしく部屋の隅に佇むメイドさんがギロリと私を睨んだ。
何をされるわけでもないが、怖い。
すっごい怖い。恐怖、スリル、サスペンスが始まりそう、である。
「ちっ」
「ひえ」
舌打ちされたでござる。
さて、そろそろなぜ私が天井ばかり見つめることになったのか。それを説明しようと思う。
———そう、あれは遡ること、数時間前。
「っ……ぇ?」
吸い込まれるような感覚が過ぎ去り、パッと真っ白な光が薄らいで視界が変わったかと思うと、体が妙な浮遊感を覚えた。
こわいこわいこわい!
ふわふわとした感覚に自分が宙に浮いていることがわかる。不思議な事に落下している感じはない。
私の読んだ本に載っていたのは挿絵もない、遥か昔のお伽話。
どんな世界に来てしまったのか想像するのも恐ろしい。ああ、どうしよう。もしかしたらゲームの世界のように怪物だらけ、人なんか1人も居なくてあっという間に死んじゃうかも……!
て言うかなんでこんなに蒸し暑いの?
もしかして……地獄の窯!?
嫌すぎる。
嫌すぎる…!!!
目を開けたくない……!
げげげ、現実を見たくない……!
「あ、あの」
「さようなら、私の人生、さようならどうか一瞬で……! どうか一瞬で痛くないように! 痛くないようにどうか……っ、お願いしますぅ……!」
「え? ……あの!」
ん?
地獄にしてはどことなく優しげな、人の……声?
凛とした、高すぎずしかし低すぎる事もない心地の良い声が、響く。
「もしかして、その、聖女、様?」
「ぅへ……? せ、聖女?」
聖女?
その言葉に恐る恐る瞼を押し上げると、そこには恐ろしく美人な男性がおりましたとさ。
私はこの時、目ん玉が飛び出るかと思った。
何にかって?
この男性の美貌、そして……
ははは、
裸だ!!!!
なんで!?
どうした事か、まごう事なき裸体。
…………裸。
ら。
えぇ? 裸族? 裸族なの? 異世界裸族なの??
「ああ、いいえ、とんでもない」
目ん玉飛び出す前にと、思わず顔を覆った手のひらの隙間からにこりと微笑む青年の表情が見えた。嘘でしょう……心が読めるのかもしれない。
そう思った瞬間、「声に出てますよ」と爽やかな声が私に語りかけた。
出てたの!?
気が付かなかった。
顔から火を噴くくらいには恥ずかしい。
顔から噴くはおかしいな。
目から噴くか……?
頭が混乱してきた。
顔が熱い。
火を噴いてるのかも……!
しかしちょうど両手で顔を隠していたために見られることはなかった。不幸中の幸い! よかった!
なんて、ちょっぴりホッとしたのも束の間。
「裸族だなんてとんでもない。どちらかといえば貴方様の方が少々蛮族じみていませんか? 耳にはした事がありましたが、まさか風呂に……とは。伝承どうり、異世界の聖女様は随分と恥も礼儀も知らないようですね」
「ぅぇ……」
———あ、そっかぁ〜、なーんだ、風呂だったか……。
そりゃ裸で当然だ。納得!納得!
じゃなくて。
風呂じゃなくてもやばいけど風呂である事もやばい。やばいが変わらなくてやばい。
やばい事実が変わらなかった事への落胆と、笑顔が眩しい裸体の青年からのとんでもなく鋭い棘のある言葉が胸に刺さる。痛い。耐え難し痛み……。
く……なんて目をしやがる。
私のようなちょっぴりお枯れになった転生者じゃなきゃ死んでたぞ……。
言葉はナイフなんだからな……。
鋭い。鋭すぎる。なんて切れ味。
グッと目頭に指を当てて胸から頭に迫り上がってきた痛みを抑えてやる。
あれ、ちょっと湿気ってやがるぜ。はは。
なんて脳内漫才やってたらぐらりと体が傾いた。
「ぎゃ」
途端に体が落っこちる感覚に見舞われると同時に、バシャンと大きな音を立ててお尻が濡れた。
お尻どころじゃない。首から下はお湯の中である。
バッシャバシャや。
びっしゃびしゃやん。
「…………」
強烈に降りかかる冷ややかな視線。
恐る恐る見上げた先には……。
おっと安心してくださいね……隠されてました……。
「……ようこそ、わが国へ。勝手にいらした聖女様」
「……はひ」
聖女ではない。
全くもって聖女様ではないのだけれど、どうにも「てめぇには何も言わせねぇかんな」と言わんばかりの威圧的ムードに、小さく返事をする形とあいなった訳である。
ああ肩身が狭い。
肩身が、ああ、せまい……!
数ある小説の中から、この小説を読んでくださりありがとうございます。
お風呂でバッタリドッキリの回でした。
◯お願い◯
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