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1これってよくみたアレ

ご無沙汰しております

書き殴ってしまいました

楽しく読んでいただければ幸いです!たくさんの人に読んでいただけると嬉しいです!

 天井から降り注ぐガラスでできた輝く豪華なシャンデリアの光りが眩しい、巨大なホールの真ん中にぽっつりと1人立たされて、思い出したのは「あ、前世でも漫画やら小説でこんなシーンめちゃくちゃ見たな〜」だった———。



 私の名前は楠木恵くすのきめぐみ


 今言ったのは私の前世の名前だ。別に忘れてもらって構わない。

 私の内なる楠木恵がこの先に出てくる事はない。


 今世、私が貰った名前はメリナ・グリーン。

 メリナ・グリーン伯爵令嬢である。

 自分で言って令嬢だなんて嘘みたいであり恥ずかしさも感じている。何度もお父様に本当か確認した。


 確認しすぎて、お父様から「まさか病気で頭おかしくなったのでは」とお医者様を連れて来られた事は誰にも言っていない。

 私とお父様の秘密だ。


 そんな私が置かれている現状況。

 呼び出された夜会。

 微妙な雰囲気。

 よぎる前世の記憶達。


 この展開、実のところよく見る。本当によく見る。見ると言うよりも見た。いっぱい見てきた。


 どこで見たかって?


 私が前世で読んだことのある小説だ。

 いくつかパターンはあれど、大概物語はこの始まりである。


 ゲームの世界に見立てられて進む小説の内容には、このように断罪イベントなるものが存在している。乙女ゲームやった事ないから、本当にこんな展開があるのかは疑問だが、知らないものは仕方がない。よって詳しくはちょっと……わかんない。イベントがあると言う事実だけ知ってる。


 当然断罪されるのは悪役。悪女。


 しかしながら、決まって私の読んでいた小説では『悪女』と言われるポジションの女性は「愛する人を蔑めた罪!婚約破棄!」なんて宣言されちゃっても生まれ持った美貌と、類稀なる頭脳、そして努力を惜しまない努力の天才型才色兼備「そんな事実ございませんわぁ、はい証拠。おほほほ」なんて逆ざまぁやってしまう。

 ざまぁをするために生まれたざまぁの申し子、最終兵器のような存在だった。



 そして最終的に大逆転を果たす。



 それが、私の知ってる『悪女』ってやつだった。


 なんでだよって言う勿れ。


 この始まり、冒頭初っ端断罪はキャッチーなのよ。

 みんな好きなのよ。

 大流行おおはやりなの。

 少なからず前世ではものすごく流行ってた。

 婚約破棄ってスキャンダラスじゃん。

 週刊誌感覚でいい刺激なのよ。

 大見出しだ。

 バカ売れ間違いない。

 他人事ならね。


 そういうわけで、現在。


 婚約者に突然呼び出されて、目の前に控えめでいじらしいピンクの女の子と婚約者のセットが居れば、敷かれたレールの上を走る電車のように、お約束パターンがやってくるやつやんけ、と内心ハラハラドキドキしております。


 暫定悪役令嬢メリナでございますわ。おほほ。


 本日は夜会。

 大きな発表があると呼び出された。


 誰にかって?


 私の婚約者様である、この国の第一王子のダル王子殿下である。


 一人で来い!なんて攻撃的ではないものの、回りくどく『婚約者である僕がエスコートするから一人で来て。誰か連れてきて僕に恥かかさないでね』みたいな声をかけられたわけです。


 つまり要約すると一人で来い。相手は王子殿下。不敬を働くわけにもいかずいそいそと準備してやってきたわけでございますわよ。


 剣呑な表情。憎々しげに私を見る目は悪いことでもした気になってしまう。誓って何もしてないのに。小心者な私は責められたらついうっかり謝ってしまいそうだ。

 こうやって冤罪は生まれるのね。


 そして傍には見目麗しい美少女。

 大きな目に涙を溜めて(なんで?)小さな体で小刻みにぷるぷるぷるると震えて(なんで?)これまた庇護欲を煽っている。疑問は残るが、可愛さに余念がない。


 どうしたの?私が温めてあげましょうか!?ってギュッと抱きしめたくなる気持ちに襲われる。

 これが母性……!

 前世の記憶プラスして大人な私の母性が爆発する。


 まぁしかしこの状況。

 すぐわかる。

 

 ほらこれ。

 これ婚約破棄イベントってやつだ。ほらきた。やっぱりきた。やっぱりこの展開なんじゃない。


 実のところ、そんなこんな言いながらも私は今世、きっとゆーったりと過ごすものだろうと思っていた。


 そりゃ、最初はやっぱり驚いた。

 驚いたに決まっている。

 異世界に転生だなんて、物語の都合上、おそらくきっとほぼほぼ重要人物の役割だ。私に務まるものなのかと冷や汗をかいた。


 例えば、派閥やマウントの取り合いで札束で頬を叩き、家の地位でブン殴る令嬢達の派閥争いで血を見るとか。

 恋愛ラブバトルでうっかりすっごい人と婚約者になって集団リンチでボッコボコ、血を見るとか。

 魔王を退治するためにレベル1から木刀持って旅に出るとか。


 一瞬で前世の様々なエンタメ情報が蘇った。

 凡庸な脳みそと侮っていたが、人間随分と想像力逞しく豊かな物であれやこれやと次々に嫌な想像が頭を駆け巡った。



 でもビクビクしながらも時間が経ってみれば心配するほどの事は何も起こらず、淡々と平凡で平坦な時間は過ぎていった。


 入った学園はゆったりとした物で、皆勉学に勤しみそれぞれが実に研究熱心。人様の結婚や婚約にはさほど興味が無さそうだった。

 良いクラスだっただけかもしれないが、思った以上に婚約者の事はすっかり忘れて過ごせていた。


 今の今までは。

 だから油断していたとしか言いようがない。

 驚いている。

 驚愕というに相応しい。

 なんならど肝を抜かれている。



 さてさて、どうしたものか。

 私の知ってる『転生小説的』展開に激似。

 ほんと激似。やばいほど激似。


 おや? あれ? じゃあ私が読んでいた小説よろしく、私ってば転生悪役令嬢確定なのか……?

 いやいやいや。そんなバカな。


 私には秘めたる切れ者何者な頭脳もなければ隠し球も無い。取り巻きなんて居ないし、誰かを虐めるなんて事もした事ない。周りからも王子殿下の婚約者様だわ!なんてチヤホヤされたりもしなかった。


 しっかりぐうぐうダラダラと、私って王子の婚約者なんだ〜ふぇー、と今の今まで何か行動を起こした事はない。

 王子様に近づいた事もなければ、正直婚約が決定した日以来会ってもいない。

 薄情者と言う勿れ。こんなもんや。


 私は積極性というものを前世にすっかり忘れて生まれてしまったようで、ぼんやりと育ってきたのである。

 刺激ある生活よりも、緩やかで穏やかな毎日を望んでいるのだ。


 なんで私が婚約者に? なんて疑問は「次殿下との謁見で王城に呼ばれてから聞けばいっか。」なんて、そんな気概をもって生きていた。


 こんな私にざまぁする力があるとお思いか?

 ———いや、無い。

 もちろん無い。

 皆無と言っていい。


 両手を広げて粛清を待つばかりの凡人でござい。


 とほほ。


「———……よく来たメリナ」


 吐き捨てるような声が響く。

 ご足労を労う声には全く聞こえない響きだ。


 美声か、美声でないかと問われたら美声に入るであろう声だ。好みか好みでないか、と聞かれたら特段意見は持ち合わせていない。


 美少女を引き連れたおそらくきっと多分ダル殿下は、苦虫を噛み潰したような表情で、搾り出すように言った。


 よく来たなんてよく言う。

 全く歓迎されていない空気。

 特に私の名前を苦しげに言う姿は目も当てられないほどだった。口に出すのも嫌か。……そうか。


「ダル、もうぅっ、早く早くぅ」


 急かすように腕を揺する美少女は、ピンクの艶やかなツインテールをゆさゆさ揺らして何かを催促している。


 大きなダンスホールの真ん中で、夜会なんて名ばかりのたった3人の集会の始まりだ。


 言われるがまま、招待状のドレスコードに従ってめかし込んだ私は滑稽なピエロに違いない。

 しかし見ているのがほとんど会う機会の無かったダル殿下と誰だか知らない美少女Aのみ。


 ノーダメージ。


 悲しいがな、ノーダメージ。



「……ごきげんよう、ダル殿下。何やらご報告があると伺い馳せ参じましたわ。まさか私たち以外誰もいないとは思いませんでしたが……」



 がらんとした空間をゆっくり見渡して、そう言えば、ぎくりと殿下は肩を揺らした。その反応に、ああ、やっぱりじゃん……!と心の中で合掌する。誰に? 私自身にだ。


「そうとも。心して聞け。これが最後の会話となるからな。君との婚約は破棄……」


「…………!」


 ごくりと息を呑む。

 とうとう生で聞くのだ。婚約破棄……!

 生で聞けるワクワク感が1割、後の9割は両親への謝罪の気持ちでいっぱいだ。

 たっぷりとった間の長さに悪い意味でドキドキが止まらない。



「しない」


「……ん? しな?……は?」


 ……しない? 

 あれ、聞き違い? あれ。


「だが、私の運命の相手はもう居る。だからお前の名前、彼女に渡せ」


「え……」


 なんですって?

 

「名前を、引き渡すんだ」

「はい? ちょ、え? そんな事、名前を? 不可能では……?」

「いやできるとも。私の愛するアイならな」

「いや、できませんよ。一体何を……」


 名前を貰ってどうすんねん。

 名前を渡してどうなんねん。

 名前を貰ったからと言って生まれも育ちも見た目も中身もすっかり入れ替わるなんてあり得ないのでは……?

 全然わからない。

 なんのこっちゃ。


「ああ……ええと、あの、ちょっとお待ちください……そんな事、どう考えたって無理です。私の生皮でも剥がして身に纏うおつもりですか?」


 そこの美少女が、と指を指せばビクッと肩を震わせる美少女とダル殿下。

 なんで。


「なんだその身の毛もよだつ考えは」


「では血でもまるっと入れ替えるとでも?」


「……貴様、血迷ったか?」


「…………」


 血なだけに。


 なんて言えそうにもない雰囲気になってしまった。いやいや。

 私が、と言うよりもそっちが血迷っているだろうと言いたいが、ここには3人だけだ。言える空気でもない。


 2対1。

 私に分はない。

 優位に立てる要素はない。

 よって私がおかしいと。

 ———なんで?

 とんでもねぇ多数決だ。

 これが民主的……民主的ではあるけれど、相手が王族となると話は別だ。この場に適切な判断ができる、かつ王子を止められる地位の方がいれば……。いやいや、人払いがされているから、突発的な行動ではなさそう。


 宰相も国王陛下も、王弟殿下もいらっしゃらない時期と時間を狙ったか。

 存外計算高い。

 

 思わずグッと体が前のめりになった瞬間、室内に悲鳴が響き渡る。


 大袈裟なほどの金切り声がビンビン耳に響いた。


 驚いて思わず後ずさると、目にいっぱいの涙を溜めてアイと呼ばれた美少女が私を睨みつけていた。


 ピンクの髪を振り乱してダル殿下のヒシっと腕に縋り付く。その様子はまさに吹けば飛んでいきそうな儚さを醸し出している。


「きゃぁっ……ほ、ほらぁ! ダル、怖いわ、野蛮よ、今だってきっとあの手に持っている鋭利な武器的髪飾りで私を串刺しにしてダルを取り戻そうとしているのですぅぅぅ……!」


「えっ!? ちょ、そんなわけ無いじゃない」


 そんな突拍子もない幼稚な発想……武器的髪飾りって何!? そんなものそもそもつけてたら頭が串刺しになるじゃない。私を串刺しってものすごいこと言ってるけど! 流石のダル殿下も騙されるわけ———


「なんだと……! 貴様……!」


 騙されてる……!!!

 コロっといかれとる……!!

 ハッとしてアイを見れば、濡れ濡った頬は桃色をキープしつつも口の端がクイ、と三日月のように吊り上がった。


 計算高い上にダル殿下がザルか……! くそ……上手い事言ったかもしれないのに不敬すぎて声に出せないなんて辛い……!


「……っ殿下、お待ちください……!」


「待たん!貴様は許せん……!王子の名において、この呪いの鏡にて国外追放を言い渡す!」


「は!?」


「貴様はこのアイとして消え、アイはメリナ・グリーンとして我が妃となる。案ずるな、この城から出なければ名前が入れ替わったことなど誰も気がつきはしない」


「そうよ! そ……え?」


 クリクリとした目を大きく開き切って「で、出れないの?」と不安げに殿下の袖口を引っ張っている。そのコロコロ変わる表情にうっとりとしたように微笑んだ殿下は「案ずるな」と再び私に言った言葉と同様の言葉を不安げな顔も可憐な少女アイに告げる。ホッとしたような表情のアイに「そのような表情も魅力的だ」と褒め称えると、途端にアイは自信を取り戻したのか、私に対してニヤニヤとした笑みを浮かべ始めた。


 アイ、あなたもコロッといかれてない?

 何この子……心配……!

 驚いて慄いていると、大きな声が空気を震わせた。ダル王子だ。


「さぁ、この鏡にて貴様を葬ってやろう」


「鏡!? いけません! それは……!」


 ———私! これ! 見たことあるぅぅ!!


 煤汚れた壁掛け鏡。楕円に弧を描く縁には見たことのない動物が彫り込まれていて、なんとも言えない不気味さと不思議さを兼ね揃えている。


 そう、これは。

 殿下との婚約が決まった時に真っ先に勉強させられた王家に代々伝わる“緊急脱出装置”!その名も摩訶不思議鏡!


 遥か昔、それはもうめちゃくちゃ昔に現れた異世界より現れた唯一の力を持つ救世主聖女様によって世界が救われたそうだ。


 聖女様はいくつもの世界を救っては次へ、救っては次の世界へと。次々と救い続けた最終地点、この国で王家に嫁いだのだと言う。

 その時に異世界からの使者から承ったのが世界を跨ぐ鏡、摩訶不思議鏡なのだった——。


 それはこの世界に異変が起こった時、せめて一時的にも脱出できるようにと有効と感謝の印で贈呈された鏡なのだ。


 いわば国宝。

 いわば最後の砦。

 王族のみに使用を許された奇跡の鏡。


 そ、それを呪いの鏡だと!?


「それは殿下のための……」

「なんだと!? 貴様無礼にも程がある! 僕のためになどと……やはり貴様に使って然るべきものだったな!」


 違うけど!!!


 心の中で絶叫した。

 声に出したかったけれど、愕然としすぎてうまく顎も喉も動かないので、喉元から先へは出てきてはくれなかったのである。

 つっかえまくって唾だけ出た。

 くっ。恥ずかしい。


 羞恥心を胸にぎゅうぎゅうと仕舞い込んでいるうちに、鏡がキラリと光った。

 ああ、嘘でしょう。


 トプン、と水滴が落ちる音がする。水面が揺れる音と言うべきか。

 耳を澄ませてしまうような、不思議な力を感じる音が耳に飛び込んできた。


 キラキラと光芒を反射した水面を思わす輝きがしたかと思うと、あっという間に、目の前が真っ白になった。


 ———いや、ちょっと!

 息を吐く暇も無ければ、言い分を述べる暇もない。

 私のターンがあっても良いんじゃないの??


 嘘嘘……!

 なんかもう薄っすらとしか覚えていないけど、確か鏡を使ったのはもう数百年も前って……!







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