06 メタ発言は程々に
「前回の話は一体何なんですか!」
今日も部室に入ると下月がそう言ってきた。
「前回?何の話だ?」
「そのままの意味です。前回の
『05 大学の教科書は大体役に立たない』の回ですよ!あんな、高成先輩がただ図書館に行って勉強するというだけの回は!」
こいつ、だいぶ踏み込んだ話をしやがる。
「下月、そんなメタい話をするもんじゃあないし、別に良いだろ。偶にはそういう回があっても」
「全然良くありません。この物語に私という『華』がなかったら、一体誰が読んでくれるんですか」
「みんな読んでくれるさ。俺という『彩』だけで十分さ」
「うわっ、先輩、自分の事を『彩』とかいう存在だと思っているんですか……流石にもういい大人になってその発言は痛いです。気持ち悪いです。気持ち悪いというかそれを通り越して気味が悪いです。身体的な不快を感じます」
何でそこまで言われなきゃいけないんだよ。
「お前が自分の事を『華』とか言うから俺もそれに合わせて言っただけだよ。冗談だ冗談」
「いえ、さきほどの先輩の顔はとても冗談を言っているようには思えませんでした。さながら、悪いニュースを伝える時のアナウンサーのようなけわしい表情をしていました」
「してねぇよ。もっと気楽な感じで言ったよ!」
「あれが気楽な表情だったのですか。では先輩が実際にけわしい表情をしたらそれはもう鬼のような顔になると。いえ、鬼になると」
確かに、偶に顔が怖いとは言われるけど……
新しく出来た友達とかには『お前って意外と優しいよな』
とか言われたことがある。
これが一回二回だけでなく、五回ほど……
毎回言われる度に『意外と』って何だよっと思うのだが、おそらく顔で怖いやつだと思われているからなのだろうか。
でも、流石に鬼みたいな顔はしていないだろ、俺。
そんなことを考えていると下月が妙な構えを始めていた。
「水の呼吸壱の型……」
「ちょっちょっと待て!変なことを始めるな!そもそも俺は鬼ではないし、俺を倒そうとするんじゃない!」
そう言うと、下月はハッと構えをやめた。
全く。
ツッコミが遅れていたら危うく切られていた……。
危ない危ない。
「つまり先輩を漢字一文字で表すなら『彩』とかいう美しい漢字は似合いません。もっと『鬼』とか『怒』とかの方がお似合いですよ。鬼だけに」
ちょっと上手いこと言いやがる。
「下月、お前今まで俺の何を見てきたんだよ。顔は一万歩譲って鬼だと認めてもいいが、性格は割りと穏やかだろ。大きな喧嘩をしたことも、何かで揉めたりしたこともあまりない。だから、何度も言っているが俺は鬼ではないんだよ」
「先輩。『性格が穏やかだから鬼ではない』という主張は間違っています。もしかして鬼という生き物は、全員が凶暴で人を襲ったり、物を奪ったりしている、と思ってはいませんか?それは違います。性格が穏やかな鬼だって存在するんですよ。
『泣いた赤鬼』という物語を知らないんですか?全員が全員、桃太郎に出てくる鬼ではないんですよ」
「むっ。確かにそうだな。悪い、訂正する。」
「そうです。全国の鬼さんに謝って下さい」
「本当に申し訳ありませんでした……」
って。
何をやっているんだ、俺は。
下月はいかにも間違った人間を正したかのような正義感を溢れさせながら、うん、うん、と頷いていた。
「要するに、先輩は鬼ということです」
「一体今の、どの部分から俺が鬼であるという結論を導き出したんだよ!!」
もうこいつが鬼だよ。本当。
「あれ?てか俺ら始めは何の話をしていたんだっけ?」
「んーー。忘れました。だけれど、何か重要な話をしていたように思います。あれ?何で忘れてしまったのでしょう」
「まぁ、もういいだろ。忘れたということはおそらく、あまり大切な話ではなかったってことだ」
「そうですね!」
うん。
今日も部室は賑やかだった。
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