04 俺はゲス先輩ではない
もうすぐ中間試験がある。
俺は部室で勉強をしていた。
「そういえばゲス先輩」
唐突に、脈絡なくそんなことを言われた。
「ちょっと待て。俺はそもそもそんな名前ではないし、話の冒頭から『ゲス先輩』なんて話しかける奴がどこにいる!」
「ここにいます」
いた。
「何故ゲス先輩なんだ。俺が何かしたか?」
「いえ、今日も暇なので先輩の事を少しからかってやろうかと思ったんです」
「暇だからって先輩の事をからかうんじゃあない。まったく、これだから最近の若いもんは教育がなっとらん」
「その急な老害ムーブはなんですか!?大体、歳も一歳しか離れていませんよ。この前先輩が言っていたじゃあないですか」
「はぁ。いいか下月。俺は今勉強中なんだ。少し静かにしてくれ。さもないとこのまま老害ムーブを取り続けるぞ」
「そんな脅し聞いたことありませんよ!」
俺に静かにしろと言われたせいか、下月は面白くなさそうにムッと顔をしかめた。
――――
数分くらい静かな時間が生まれたが、下月は我慢の限界がきたのか小さな声でボソッとつぶやいた。
「大体、先輩がゲスそうだからゲス先輩って呼んだんですよ」
うん?
勉強に集中したい俺は大概の事ならは無視していたが
今の言葉は聞き捨てならないな
「おい。どういう意味だ。俺がゲスそうって具体的に俺の何がゲスそうなんだよ」
「全部です」
「全部!?顔も名前も、生まれも育ちも、今まで生きてきた19年間全てがゲスだったということか!?」
相当な言われようだな。
「そうです。全てです。まさに『ゲスの極み』とは高成先輩のことです。音楽でもすればいいんです!」
もうすでにそのバンドは存在するんだよ。
さっきから何だか下月はふてくされているようだな。
そんなに俺にかまってほしいのか。
「本当は『具体的に何が』って質問されて何も思いつかなかったから、『全部』なんていう抽象的な言葉を使ったんだろ?
あれだ。彼女に『私のどこが好きなの?』って聞かれて、パッと思いつかなかった彼氏がとりあえず『全部』っていうあれと同じだ」
「そんなんじゃありません。先輩レベルになったらゲスエピソードの一つや二つあるでしょう?」
「俺レベルって何だよ。そうだな、ゲスエピソードか……」
「好きな女の子にイタズラしたりとか、スク水を着て夜中に校内を徘徊したりとか」
「おい一個目は可愛いが、二個目は完全にアウトだろ!ただの変質者じゃないか。俺はそんなことをする奴だと思われていたのか!?」
「妖怪スク水徘徊男」
「勝手に人を妖怪呼ばわりするんじゃない!」
どうせならもっと可愛い名前にしてくれよ。
妖怪水着お散歩男の子、みたいな?
……どっちにしろヤバイ奴だな。
でもゲスエピソードか。
昔の記憶を振り返ってみる。
「これは友達の話なんだがな。小学生の時スライディングをして女子のスカートの中に滑り込み、パンツを覗いていた奴が……」
「待って下さい!『これは友達の話なんだがな』で始まる話は大体自分のことなんですよ!先輩そんな事をやっていたんですか!?」
「まぁ人の話は最後まで聞けって。そんな友達がいたんだが俺はそばで棒立ちしていたんだ」
「……なんのカミングアウトですか!?」
「つまりだな。俺はその友達を止める勇気も、一緒にスライディングしてパンツを覗く行動力もなかったんだよ!俺は何もできない人間なんだ……」
「確かに、先輩っぽいエピソードですね……」
「だから俺っぽいって何なんだよ。しかし俺もその時から成長し、大人になったさ。今では一緒にパンツを除くことができる」
「そっちを身につけたんですか!?友達を止める勇気を習得してくださいよ。お巡りさんこの人です!」
「冗談だよ」
はぁ、今日は勉強しようと思っていたのに、これじゃあろくに集中出来ないな。
うん。
明日から頑張ろう!
『明日やろうは馬鹿野郎』という言葉もあったが、俺は馬鹿野郎で結構である。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
面白ければ、ブックマーク、いいねなどよろしくお願いします。
投稿ペースが早くなるかも……?