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01 全部俺の責任らしい


「はぁ~。先輩、今日も何もすることないですね」

 深い溜息をつきながら目の前に座る彼女はそう言った。


「……そうだな」 


 毎日繰り返されるこの会話も今日で何度目だろうか。

 俺こと高成真(たかなりまこと)と、目の前に座る彼女、下月しもつき)みこは今大学の授業が終わりサークルの部室に集まっていた。

 そして今日もやることがない。

 

 「そもそも全部高成先輩のせいです」


 「急にどうした!?」

 

 「サークル勧誘の時、あんなにキラキラした活動内容を私に熱弁してくれたじゃないですか」


 「うッ。それは……」


 「なのになんですかこの現状は!部員は私達二人しかいないですし、まだ入って何も活動していませんよ!」


 「ん?部員?下月、ここはサークルであり部活ではない。だから部員ではなくメンバー、又はサークル員という言い方が正しいんじゃあないか?でもみんな普通にサークルでも部員って言う言葉を使っているよな。実際どうなんだ」


 「んーどうなんでしょう私も部員って言いますし……って話をそらさないで下さい!」

 「はい」

 

 怒られた。


 「勧誘の時、部員は先輩を合わせて5人って言っていたじゃないですか。あれは嘘だったんですか?」

 

 「俺の計算では5人くらい入る予定だったんだよ。アウトドア好きの石田君に、将棋が趣味の沢田さん、それから……」


 「計算上の人物を人数に含めないで下さい!」


 正論だ。

 返す言葉も出ない。


 「でも嘘でもつかないと、部員俺一人のサークルになんて入ってくれないだろ?あの時は仕方なかったんだ」


 「仕方なくなんかありません。高成先輩をサークル人数詐称の疑いで訴えます」


 なんだその疑いは。

 

 「そんな事を言っても誰も信じてはくれないぞ。俺は結構善人そうな顔をしているからなぁ」


 「いえ。特殊詐欺グループにいても違和感がないくらいの顔をしていますよ?」


 なんだその絶妙な悪口は。

 てか俺ってそうみられてるのか?

 ……流石に冗談だよな。


 「しかし、その程度の罪なんて、どうという事はないだろう」


 「私、法律には詳しい方ですが、死刑です。今すぐ死刑です」


 「そんな重罪なのか!?」


 「安心して下さい。お葬式のお菓子は貰っておきます」


 「何も安心できねぇよ。もしそうなったら霊になって下月に取り付くからな」 


 「それは困りました。毎日エッチなイタズラをされるのは御免です」


 「ちょっとまて。なぜ俺がエッチなイタズラをすることが前提なんだよ」


 まぁ、実際するだろうが。


 「高成先輩の嘘は人数だけではありません」


 くそっ。

 話を戻された。


 「勧誘の時のあの活動内容は何だったんですか?夏は海に行ってバーベキュー。秋は京都に紅葉を見に行って、冬はみんなでスキーに行ったっていうあの内容は」


 「ぐっ……」


 「夢だったんですか?全部先輩の妄想だったんですか?」


 「そ、そうだよ!全部妄想だよ!大学生になれば誰だってああいうキラキラした生き物になれると思ってたんだよ!一年生の頃友達もいなくてどこにも行ってないんだよ。だから二年生になって自分でサークルを作ってみたんだよ。悪いか!」


 「まさかの逆ギレ!?」


 流石に自分で言っていて虚しくなった。

 ぐすん。

 涙が出てきた。


 

 あれは一年生の冬休みの事である。

 柄にもなく、その年の一年間を振り返ってみたことがある。

 そして気付いたのだ。

 あれ?

 俺、この一年何もしてなくね?

 そう思った時、とんでもない虚無感に襲われたのである。

 

 男女で遊んだり、旅行に行ったりして青春を謳歌する大学生の姿はそこにはなく、昼過ぎまでパジャマでベットに横たわるニートの姿がそこにはあったのである。


 ふっ。

 流石に泣いたさ。

 しかしその経験は俺に元々なかった行動力を与えてくれた。


 『俺がサークルを作ってやるよぉぉぉ!』

 

 こうして、高校生の時に思い描いていたキラキラした大学生活を送るべく、二年生になった始めにこうしてサークルを作ったのだ。


 そして死にものぐるいでポスターやビラを作り、今年の四月、一年生を獲得しようと毎年恒例の新入生争奪戦に参加したのである。


 結果、惨敗。

 唯一、俺の巧妙な嘘に騙された、アホで生意気な後輩下月みこが加入してくれたのだった。




 こうして現在に至る。


 「だが下月、安心してくれ。俺もまだその活動を諦めたわけじゃない。ただ、如何せん部員が少なすぎる。人数さえ揃えば実行出来るんだ」


 「はぁ。じゃあその部員を確保する目処はあるんですか?ないんでしょ。分かります」

 

 俺が答える前に自己完結するな。

 しかも、あっているのが腹立たしい。


 「きっともう少ししたら部員も増えてくるさ」


 「もう少しっていつですか?その間に私が辞めちゃいますよ」


 「そ、それだけは……」


 せっかく獲得した部員を手放すわけにはいかない。


 「じゃあ何をすべきか分かりますよね?あーあ、今日も肩凝ったなー」


 悪い笑みを浮かべながら、下月は俺の方に視線を向けた。


 「も、もちろん、俺が揉むよ」


 「え、まだ何も言っていないのに先輩が揉んでくれるんですか!?ありがとうございます!」


 全くわざとらしい。

 彼女は俺をからかうように、ふふっと笑った。


 

 こうして今日もまた、俺は後輩女子の肩を揉んでいるのであった。


 え?

 男としてのプライド?

 そんな物、川に捨てたよ。





 

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