つなぐ交差点
その交差点は、どこにあるのか分からない。
でも、たしかにそこにあるのだと言う。
その交差点は、過去・現在・未来を繋ぐのだと言う。
繋ぐ先は選べない。
その者が最も気にかかっている時と繋がるらしい。
らしいというのは、誰もそれが実証できていないからだ。
その体験をした者は、そのことについてあまり語りたがらないようなのだ。
ただ、その者たちが幸せそうな顔をしていたのは事実だ。
ふん。
そんなの、噂に決まっとるわい。
そんなの分かりきっとる。
分かりきっとるのに、なぜワシはここに来てしまったのか。
噂の交差点。
やはり、ワシはあのことが気がかりなんじゃな。
あの時、ワシがあの子を花火に誘わなければ、あの子は来る途中で、事故に遭って亡くなることはなかった。
だというのに、ワシは別のおなごと一緒になり、孫も出来て幸せに暮らしとる。
別に今の生活に不満があるわけではないし、妻のことは愛しとる。
だが、ときたまふと思うんじゃ。
ワシだけがこんなに幸せで良いのかと。
あの子を死なせたワシなんかが、と。
それだけが、気がかりじゃった。
だから、この交差点の噂を聞いた時、真っ先にあの子のことが浮かんだ。
それで気が付いたらここにいた。
ここがどこかは分からない。
どうやって来たかも分からない。
ただ、気が付いたらここにいたんじゃ。
普通の街の交差点のようだが、道を行き交う人々は、不思議とどんな顔をしとるのか分からない。
なんだか、夢を見とるみたいじゃの。
もしくは、死んだ者の行く世界なのかの。
じゃが、ここはそんな場所ではないということが、何となく分かる。
ここは、そういうのとは違う、特別な場所じゃ。
もしかしたら、という思いを込めて交差点を歩く。
すれ違う人々も、同じ方向に歩く人々も、顔もわからなければ、知り合いでもない。
やはり噂か。
そう思って、交差点の中心まで差し掛かると、おなごがすれ違いざまに、耳元で囁いた。
「大丈夫。
私はあなたと出会えて、あなたと仲良くなれて幸せだったよ。
だから、あなたも私の分まで、もっと幸せでいてね」
バッと振り返ったが、そこにはもう誰もおらなんだ。
というより、ワシ以外に誰もいなくなっておった。
ただ、涙だけが止まらんかった。
そうじゃ。
あの子はそんな、優しい子じゃった。
目の前が霞む。
きっと、元の世界に戻るんじゃな。
ありがとうの。
ワシはもう大丈夫じゃ。
そうじゃ。
帰りに、ばあさんの好きな大福でも買って帰ってやろうかの。