表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

つなぐ交差点

作者: 夕日色の鳥

 その交差点は、どこにあるのか分からない。

 でも、たしかにそこにあるのだと言う。


 その交差点は、過去・現在・未来を繋ぐのだと言う。

 繋ぐ先は選べない。

 その者が最も気にかかっている時と繋がるらしい。


 らしいというのは、誰もそれが実証できていないからだ。

 その体験をした者は、そのことについてあまり語りたがらないようなのだ。


 ただ、その者たちが幸せそうな顔をしていたのは事実だ。





 ふん。

 そんなの、噂に決まっとるわい。


 そんなの分かりきっとる。

 分かりきっとるのに、なぜワシはここに来てしまったのか。


 噂の交差点。


 やはり、ワシはあのことが気がかりなんじゃな。


 あの時、ワシがあの子を花火に誘わなければ、あの子は来る途中で、事故に遭って亡くなることはなかった。


 だというのに、ワシは別のおなごと一緒になり、孫も出来て幸せに暮らしとる。

 別に今の生活に不満があるわけではないし、妻のことは愛しとる。

 だが、ときたまふと思うんじゃ。


 ワシだけがこんなに幸せで良いのかと。


 あの子を死なせたワシなんかが、と。


 それだけが、気がかりじゃった。


 だから、この交差点の噂を聞いた時、真っ先にあの子のことが浮かんだ。

 

 それで気が付いたらここにいた。

 ここがどこかは分からない。

 どうやって来たかも分からない。

 ただ、気が付いたらここにいたんじゃ。


 普通の街の交差点のようだが、道を行き交う人々は、不思議とどんな顔をしとるのか分からない。


 なんだか、夢を見とるみたいじゃの。

 もしくは、死んだ者の行く世界なのかの。


 じゃが、ここはそんな場所ではないということが、何となく分かる。


 ここは、そういうのとは違う、特別な場所じゃ。


 もしかしたら、という思いを込めて交差点を歩く。


 すれ違う人々も、同じ方向に歩く人々も、顔もわからなければ、知り合いでもない。


 やはり噂か。


 そう思って、交差点の中心まで差し掛かると、おなごがすれ違いざまに、耳元で囁いた。



「大丈夫。

私はあなたと出会えて、あなたと仲良くなれて幸せだったよ。

だから、あなたも私の分まで、もっと幸せでいてね」



 バッと振り返ったが、そこにはもう誰もおらなんだ。

 というより、ワシ以外に誰もいなくなっておった。


 ただ、涙だけが止まらんかった。


 そうじゃ。

 あの子はそんな、優しい子じゃった。


 目の前が霞む。


 きっと、元の世界に戻るんじゃな。


 ありがとうの。


 ワシはもう大丈夫じゃ。


 そうじゃ。


 帰りに、ばあさんの好きな大福でも買って帰ってやろうかの。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ、こういう作品は大好きです。 [気になる点] 過去、現在、未来が交差する、<優しい逢魔が時>を感じさせて頂きました。 [一言] <交差点> このキーワードで物語を創造出来るか否かが<…
[良い点] とてもテンポが良くて読みやすかったです! お話感動しました! [気になる点] もし、あの時違う選択をしていたなら、、 そんな後悔する想いがある人達が、この交差点にたどり着けるんですかね。 …
[良い点] ぶわわっ(´;ω;`) [一言] にゃいたーーーっ・゜・(つД`)・゜・ とてもとても良かったです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ