キナ家の両親と兄妹たちと
「あ、父さん。母さん」
今日は久々に、普段キナ家に常駐している父さんと母さんが王都のお屋敷に来ていた。
「ちょっと王都での業務が立て込んでいてな。暫くこちらにいる」
「私は夫人としての業務がない時はウイやもゆちゃんたちと過ごそうかしら」
「うん、俺ももゆちゃんも、みんな喜ぶよ」
「お部屋の準備はできております。お荷物を運んでおきますね」
「私も手伝いますよ~」
「あぁ、すまんな」
「お願いね」
ふたりとも荷物を執事のクヌ兄さんとメイドのミリアさんに預ける。女性であるミリアさんに荷物持ち?と思う方もいるだろう。しかしミリアさんは美人なメイドではあるものの、本性はバーサーカーテッドミトコンデミリアと言う神獣なのだ。
いや、名前聞いただけでは誰もよくわからないだろうが、獣の女王と呼ばれる。戦闘力は高いし、力も強いのだ。この前たまたまいたメンツで腕相撲大会をもよおしたらぶっちぎりだった。なんとあのモモちゃんがミリアさんに敗れるというほどの実力。
え、俺?まさかの婚約者のモモちゃんに敗退しましたとも。モモちゃんからは、ふわもふとふにゃふにゃ魂に於いては俺の方が上なのだから自信を持てと言われた。何だろう。ほかならぬモモちゃんに言われると何だかほっとした。いいんだろうか俺、これで。
うん、いいんだ。だって俺、ふにゃふにゃマスターだもの!!
「今、何か温かいものでもいれるよ。希望ある?」
クヌ兄さんとミリアさんが現在お部屋に荷物を運びに行っているので、ソファーに腰を落ち着けた両親に、普段料理を担当している俺が名乗り出る。
「そうだな、茶で」
「私はココアがいいなぁ~」
「わかった。じゃぁ、ちょっと待ってて」
「お兄ちゃん、ぼくも手伝う」
すかさずひわくんも来てくれたので、なでなでして一緒に台所へと向かう。わぁ、本当にひわくんっていい子だなぁ。因みにおさらいだが、ひわくんは勇ましく凛々しい俺の婚約者・モモちゃん(※実はふにゃふにゃ大好き女子)の弟でもある。
ひわくんと一緒に、淹れたほうじ茶とココアを持ってきてみれば。
「もゆちゃんかわいい♡」
「ん、そうだな」
両親は早速ウチの末っ子の妹・もゆちゃんを愛でていた。
「もゆちゃ、かわいいにゃぁ~」
「おみみふにふににゃぁ!」
母さんのお膝の上に座っっているもゆちゃんの横では、ウチのふにゃふにゃのひな・ふうくんとすうくんが絶賛後押し中であった。
母さんの横にちょこんと座ってまんまるお目目で見つめている双子のふにゃふにゃ、かわいすぎるっ!!
「ふたりのお耳もふにふにでかわいい♡」
母さんも大満足でふたりのお耳をふにふにしている。
何だろう。俺の母さんは狼耳しっぽの獣人族なのだが、ふにゃふにゃもわふたんお耳にふわもふしっぽなので、ぱっと見似ているのである。
但し、しっぽの動きが違う。母さんのしっぽは犬科風、ふにゃふにゃのしっぽはネコ科風に動くのだ。
そして母さんのふわもふわふたんしっぽは、その隣に長く細い脚を組んだ父さんがお膝の上でふわもふっていた。わかる。その気持ち。俺も隣にふにゃがいるとやってしまう。
ついでに、俺がふにゃふにゃモードになった時のしっぽのふわもふ担当はモモちゃんである。
―――更に。
「わぉ。ふわもふ度いい感じだぜろっきゅー」
「ぐりもふわもふっ!!」
父さんの脚の横では、ロップイヤー風なシーベリーちゃんとグリフォンの女王のひな・ぐりちゃんが並んで座っており、母さんのふわもふしっぽのふわもふを一緒に堪能していた。
「ビャウテンを見かけるのは久々だな」
俺とひわくんが飲み物を出していれば、父さんがそう呟く。
まぁ、確かに。全ての神獣の故郷と呼ばれる神獣のゆりかごは、キナ自治領領主兼キナ自治領軍総隊長である父さんの管轄でもあるため、父さんはもちろん中に入れる。
だが、神獣・ビャウテンは神獣の社で祀られているため、そちらにいることが多いのだ。まぁ、ウチに住んでいるのでウチに来ればだいたい会えるけど。
ファラちゃんが神獣の社に巫女の修業に行っているときや、あちらで祭事がある場合はビャウテンの成獣であるアセロラちゃんはだいたい社に行っていることが多い。
シーベリーちゃんはまだひななので基本はフリーダム。
子どもたちと一緒に遊びたい時はこっちにいるし、アセロラちゃんと一緒に行きたい時は行く。そんな感じでゆるゆるでやっている。
そう言えば、同じく神獣の社で祀られているミリアさんはいつもこちらにいるけれど、いいのかな?まぁ、そこら辺は神獣の自由を社も歓迎してくれているからいいんだと思うけど。
それにあちらには常に神獣・ランリュウのレンさまが常駐しているから安心だし。
ついでにちびっ子たちの飲み物を持ってきて、俺とひわくんがソファーに座ってお茶を注いでいれば。
「ウイのお母さん来てるにゃぁ~」
ふにゃがやってきて俺の隣にもふっと座ってくれる。
「父さんも母さんも、暫くはこっちに滞在するんだって」
「わふにゃっ!ウイのお母さんとはママ友にゃぁ~、一緒にママ友交流するにゃぁ~」
「うん、ふにゃちゃんと一緒にママ友交流するの楽しみよ」
と、母さんも答える。
因みにふにゃはオスである。確実にオスである。これは三つ子の長男であるはにゃさんに確認を取っているので確かだ。
だがしかし、ふにゃが昔育てたというふにゃいぬの娘・みーちゃん(本名:みたらし団子)がふにゃを長年お母さんだと思っており、紆余曲折会って再会した後もふにゃが“お母さんやるにゃぁ~”宣言したことで、ふにゃはオスながらふにゃお母さんも継続中なのだ。
しかし、いつの間に母さんとママ友になっていたんだ。
てか、これはママ友と言っていいのか。いや、本人たちが良さそうなので別にいいかなとその場の流れに身を流しとく俺。
「それにしても」
ふぅっと父さんがため息をつく。やっぱり毎日忙しそうだし疲れているのかな?
俺はキナ自治領軍の下っ端(と言っても小隊の隊長だが下っ端の方)なのでそんなに役には立てないし。ゆくゆくはもっと父さんの力になりたいとも思っているのだが。
「ウサ耳萌えいる?」
「ぐりふぉん萌えもあるよ!!」
マジか。ウサ耳萌えに加えてグリフォン萌えまで!!因みにこの世界のグリフォンはわふたんお耳である。だからわふたん萌えとどこが違うかと問われれば、グリフォン通の隣国の王女さまが出てきてしまうので詳しくはここでは説明できないが、グリフォンにはグリフォン独特の萌えキュンポイントがあるのだ。
「あぁ、すまないな。ふたりとも。ありがとう」
そう言って父さんはシーベリーちゃんとぐりちゃんの頭をなでなでしつつ、ちらりと横を見やる。
「お前は今日仕事じゃないのか」
「ひはー、ひはー、父さんだけ、父さんだけウイと一緒にティータイムなんてずるいっ!!」
ずずずっ。お茶をすすりながら階段を駆け下りてきたお兄さまを見やる。
「いや、お兄さま。みんなと一緒だし。お兄さまはお兄さまの時間が空いた時にやればいいでしょ?」
「でもぉ~っ!!お兄さまだってウイに“はい、お兄さま♡お茶どうぞっ♡”とか言って新妻風に出してもらいたいっ!!」
いや、父さんには普通に出したんだけども。てか、新妻風に出してもらいたいなら自分の新妻に出してもらえよ。
「オラ、アニキ。仕事、戻っぞ」
「ぐぇ」
そしてすかさずフィイ兄さんに連れて行かれるお兄さま。
「わふたんににまたね~」
もゆちゃんたちがかわいらしくお手手を振ると、フィイ兄さんも手を振り返す。そして颯爽とごねるお兄さまを連行していった。
「全く、アイツは」
溜息をつきつつも、父さんの口元は緩んでいる。
「家族仲良しにゃぁ~」
「確かに」
ふにゃのひと言に俺とひわくんも苦笑する。
そう言えば、長らく分かたれていた俺たちキナ家の家族。俺が地球からこちらに帰還して、みんなの俺に関する記憶が戻って、今がある。
お兄さまはたった一人俺の記憶を抱え続けた。
神獣たちや瑞獣たちも俺のことを忘れることはなかったから、神獣の女王の血を受け継ぐクヌ兄さんも含めてお兄さまの支えになってくれたというけれど。
父さんも母さんもフィイ兄さんもお兄さまだけが残された俺の記憶を信じてくれたというけれど、覚えているのは人間で自分一人だけ。そんな孤独の中で戦ってきたのだ。
そして今ではみんなが俺に関する記憶を取り戻している。俺もまた、この世界での記憶を徐々に取り戻している。
お兄さまも本当の意味で、救われることができただろうか。
本当の意味で家族で笑えるようになっただろうか。
「ねぇ、今夜はウチでご飯食べれそう?」
「あぁ、仕事は明日からだしな」
「えぇ、もちろんよ」
「じゃぁ、フィイ兄さんも今夜はこっちにいるし。久々にみんなで夕食にしようか」
「それいいにゃぁ~」
「でしょ?」
「楽しみね」
「あぁ」
母さんと父さんも嬉しそうに微笑んでくれる。
キナ家のみんなと父さん母さん、そしてフィイ兄さん、お兄さまも一緒に。
―――そして、久々の家族みんなとの夕餉を目一杯楽しんだのであった。




