第95話 サンマリーナ
2030年7月25日
「やったぁー。着いたぁー」
俺たちは朝、隣町を出てすぐにサンマリーナ侯爵の領都サンマリーナに着いた。
本当は昨日の夕方にここに来ることが出来たのだが、夕方よりも朝に到着したほうがサンマリーナ侯爵も良いだろうという事で朝に着くように調整したのだ。
ここまで来るのは結構大変? だった。
コボルトの群れに暴走エルフが突っ込んだりその群れに対してカレンが火魔法を放って、暴走エルフごと燃やしそうになったり……
宿では俺が女子メンバーの着替え中に入ってクラリスに大目玉を食らったり俺が起きたらエリーが俺のベッドで一緒に寝ていたり……
何はともあれ無事ここまで辿り着いたのは確かだ。
サンマリーナの街はリスター連合国で有数の観光スポットだ。
とくに海があるサンマリーナはこの時期はとても人が多い……はずだった。
「なんか思ったよりも人が全然少ないよね?」
「ああ。もっと賑わっているかと思ったんだけど……」
クラリスと俺がそう言うとカレンが
「昔来たときは人が多すぎて全く海に入れなかったからちょうどいいんじゃない? さすがに少なすぎて寂しいけど……」
「まぁとりあえずサンマリーナ侯爵の所に行こう。ちゃちゃっと終わらせて早く海に入りたい」
みんなミーシャの意見に賛成のようですぐにサンマリーナ侯爵の所に行くことになった。
サンマリーナ侯爵は俺たちがこんなに早く到着した事に驚いていた。
サンマリーナ侯爵は色黒で30歳後半のちょい悪親父みたいな感じだ。
「ようこそ、サンマリーナへ。私がサンマリーナ侯爵だ。今回私のクエストを受けてくれて本当にありがとう。まずはゆっくりしてくれ。クエストの内容は後で話そう」
そうサンマリーナ侯爵が言うと、暴走エルフが
「じゃあ早速海に行ってきますね。このためにここに来たのですから!」
目を輝かせて言う。するとサンマリーナ侯爵が
「今、海は少し厄介なことになっていてね……恐らく私のクエストを受けてくれてないと海水浴が出来ないかもしれない」
すると女性陣が
「「「「えええぇぇぇーーーー!!!」」」」
と声をそろえる。エリーまで驚いていたからよっぽど海を楽しみにしていたのであろう。
「では、そのクエストを先にやってしまいましょう。あと、先に自己紹介をさせてください。僕は今年のリスター帝国学校Sクラス序列1位のバルクス王国ブライアント伯爵家次男のマルス・ブライアントです」
俺がそう言うと女性陣がしまったぁって顔をしていた。
あまりにも浮かれすぎて自己紹介とかをすっ飛ばしてしまったのである。
まぁ最初に暴走した奴が悪いと思うけど、リーダーとして俺にも責任があるからそれは言えない。
それに暴走する事は短所でもあり、ミーシャの可愛い長所でもあるからね。
俺が自己紹介をすると
「私もセレアンス公爵のブラッド君との試合見ていたよ。あれは凄かったね。心に残る試合の一つだったよ」
その言葉に次に自己紹介するべき人間が戸惑っている……
だから俺がみんなの紹介をすることにした。
「では僕の方からパーティメンバーを紹介させて頂きます。序列2位、ザルカム王国ランパード子爵家長女クラリス・ランパードです」
クラリスが会釈をするとサンマリーナ侯爵が何かを言おうとしていたので、間髪入れずに俺が
「次に序列3位、バルクス王国エリー・レオ準女爵です」
エリーが軽く会釈するとサンマリーナ侯爵がとても驚いていた。
バルクス王国というのもそうだが、準女爵という事にも驚いていた。
「序列5位、リスター連合国フレスバルド公爵家次女カレン・リオネルです」
どうやらお互い既知の仲らしく微笑みあっていた。目が笑ってないが……
「最後に序列7位、ミーシャ・フェブラントです」
俺が言うとミーシャが
「サンマリーナ侯爵、先ほどは浮かれて申し訳ございませんでした。あと今のご紹介に不備がありましたので、少し訂正させて頂きますね。リスター連合国フェブラント女爵家長女のミーシャ・フェブラントです」
俺がびっくりして鑑定すると
【名前】ミーシャ・フェブラント
【称号】-
【身分】妖精族・フェブラント女爵家長女
【状態】良好
【年齢】10歳
【レベル】13
【HP】24/24
【MP】112/112
【筋力】21
【敏捷】23
【魔力】23
【器用】21
【耐久】13
【運】5
【特殊能力】槍術(Lv5/B)
【特殊能力】水魔法(Lv3/C)
【特殊能力】風魔法(Lv4/D)
【装備】疾風の槍
【装備】幻影のローブ
本当にフェブラント女爵家長女となっている。
ミーシャもかなり成長したなぁ……特にMPが入学時よりも50近く増えている。かなり魔法頑張ったんだなぁ……
ちなみにリスター連合国では10歳を前にしてMPを何回か枯渇させるらしい。
そしてMP欠乏症の症状が軽いとMPをどんどん枯渇させて最大MPを増やすらしい。
若くに枯渇させてしまうと後遺症や最悪死に致る可能性があるために枯渇させないが、バルクス王国とザルカム王国よりかはMP枯渇を勧めている。
だからバルクス王国とザルカム王国の魔法使いは最大MPが低く、リスター連合国の人間は最大MPが多い人が多い。
俺が驚いた顔をしているとミーシャが
「前からリーガン公爵に爵位を授けるって言われていたんだけどずっとお母さんは柄じゃないって断ってきたの。だけど【黎明】のパーティって私以外みんな貴族じゃない?今後の私の事をお母さんが考えて授爵したのよ」
ここまで俺たちが説明するとサンマリーナ侯爵が
「一つ質問させてくれ。エリー様はバルクス王国所属ですか? 獅子族で金獅子だからリスター連合国の次期セレアンス公爵では?」
「……叔父の後継にはならない……私はマルスの妻……マルスがバルクス王国……私もバルクス王国」
「そ、それはいけませぬ……金獅子であるエリー様が他国になんて……我々がなんとかセレアンス公爵としてエリー様を擁立致しますので……エリー様がリスター連合国から離れてしまいますとこの国の獣人たちが……」
金獅子と言うのは獣人だけではなく、リスター連合国にも重要なのか……今までエリーが居ないものだと考えられていたから何もなかったけど、存在が明るみになった以上セレアンス公爵はエリーがという事か……
「まぁそれはまた今度にして、自己紹介も済みましたのでクエストの話をして頂けませんか? 海がなんとかって仰ってましたが?」
「あ、あぁ。そうだな。それでは一緒に海に来てもらうのが一番だ。今からサンマリーナ領の一番の自慢だった砂浜に行こう」
だった? 今は違うのか?まぁ行けば分かるか……
俺たちはサンマリーナ侯爵に連れられて海が見える砂浜に行った。
「な……なんですか? これは……砂浜ですか?」
砂浜? と呼ばれていた場所は何十個、何百個の穴が開いていた。
それも直径5mくらいあり、穴が相当深いらしく、底が見えない。
「今年の5月ごろからワームという魔物が大量に現れるようになってね。本来は南のバルクス王国の方に生息しているらしいのだが、なぜかここに現れて好き勝手暴れてね……このザマだよ」
「サンマリーナ騎士団は無いのですか?あと近くの冒険者たちは?」
俺がそう言うと、サンマリーナ侯爵が俺の顔をチラッと見て
「ああ。騎士団と冒険者はいるのだが……それどころではなくてな……というのも、今年の初め頃からバルクス王国側からかなりちょっかいを出されていてな。冒険者と騎士団は全てバルクス王国との国境に配備してしまったのだよ。おかげで行楽客が全くいなくてね。こんなに閑散としているのは初めてだよ」
あ、なんか俺かなり罪悪感が出てきた。
いや俺が悪い訳ではない……バルクス王国が悪いだけだ……いや一方の意見を聞いて誰が悪いとは決められない。
だがこのクエストは俺がやらないといけない気がしてきた。
それにしてもバルクス王国は何をやっているのだろうか? ザルカム王国と戦争中ではなかったっけ? リスター連合国にちょっかい出す余裕なんてないのでは?
「それでは僕たち【黎明】がワームの討伐をします。注意事項とかってありますか? できればここで戦闘をして欲しくないとか、ここで敵を倒さないで欲しいとか」
「それは大丈夫だ。倒してさえくれればあとはこちらでどうにかする。だけどワームは少なくとも脅威度Cはあるぞ……それが何匹も発見されている。それにこれだけの数がいるから上位個体もいる可能性がある。いくら君たちがSクラスだからといってもこれはBランクパーティに依頼するようなクエストだ。あくまでも今回は顔つなぎの為のクエスト依頼だ。君たちに何かあったら私がリスター連合国中から非難を浴びてしまう。頼むから無理はしないでくれ」
するとクラリスが珍しく
「それではダメなんです! 今年の夏は海で遊びたいんです! だから私たちはこのクエストを一刻も早く終わらせなければなりません!」
どうしても海で遊びたいのか必死になっている。
「メンバーがこう言っておりますので必ずワームを倒します。ただ今日は情報収集と準備をしたいので明日以降から討伐を始めます。サンマリーナ侯爵、それでよろしいでしょうか?」
俺がそう言うと別の意味で受け取ったらしい。
「あぁ。君たちの判断に任せるよ。今日からこちらで用意した女たちをマルス君にあてがう事もできるがどうするかね? もちろん彼女たちは色々合意してくれているが?」
するとエリーが
「……来たらコロス……地の果てまで……絶対!……」
めっちゃ物騒な事を言う。
クラリスも
「サンマリーナ侯爵? 先ほどのエリーの話を聞いておりませんでした? ちなみに私が正妻です。私とエリーもそれなりに強いのでマルスの部屋に来る女性にはそれなりの覚悟をしてくださいとお伝えください」
クラリスがそう言うとカレンも
「サンマリーナ侯爵。1つ忠告しとくわ。私の父は私をマルスの側室にと思っているわ。そのマルスに女を派遣するというのはどういう意味か分かっておりますよね?」
カレンの言葉はとても重いものだったらしい。
顔を青くしてサンマリーナ侯爵が
「も、申し訳ございませんでした。皆様の関係が分からずそう言ってしまっただけで、私にはフレスバルド公爵家と事を構えようという気は一切ございません。また、クラリス様、エリー様の不興を買う事も良しとしませんので、どうか今回はご容赦ください」
えっと……この人侯爵だよね? それほどフレスバルド公爵とエリーの金獅子というのは凄いのか……
そう考えるとアイクはとんでもない事をしたのではないだろうか? カレンに殺気を当ててお漏らしさせるなんて……ブライアント家の将来が心配だ……
そんなことを考えながら、俺たちは情報収集と明日の戦闘準備の為にサンマリーナの街に繰り出した。










