第75話 保護者たち
2030年2月14日
新入生闘技大会当日。
リスター帝国学校新入生は全員でコロシアムに来ていた。
参加するSクラス10人と応援の500人だ。
他の出場学校も1年生が全員来ているらしく、早くも応援合戦が始まっている。
出場学校はリスター連合国から4校。
バルクス王国から2校、ザルカム王国から2校の計8校だ。
この大会に出場できる学校というだけでもかなりのステータスらしい。
またコロシアムの周囲はお祭り騒ぎとなっている。
どこの学校が優勝するとかを賭ける場所もあるらしい。
総合優勝の1番人気は俺たちのリスター帝国学校だった。
ただセレアンス王立学校も人気が高かった。
武術部門の優勝筆頭はセレアンス王立学校が圧倒的だった。
オッズは1.1倍。ちなみに俺たちの総合優勝のオッズは1.2倍。
それくらい武術面ではセレアンス王立学校が優勢なのだ。
少し時間があったので、ヨーゼフとヨハンを除くSクラス8人はコロシアムの外に出てリラックスをしながら歩いていた。
すると遠くから「カレン」と呼ぶ偉そうなおっさんが来た。
「お父様! 来て下さったのですね!」
カレンがお父様と呼ぶ男に抱きつく。
この男がリスター連合国の筆頭公爵のフレスバルド公爵か。
フレスバルド公爵の髪の毛も赤かった。
「カレン、学校はどうだ? バロン君と一時婚約を解消すると言っていたが?」
「はい。学校は楽しいです。バロンとは一時的に解消しただけで仲はいいですよ」
するとバロンもフレスバルド公爵の所に挨拶にいき
「ご無沙汰しております。フレスバルド公爵。カレンとの事は当人同士で話し合いました。また温かく見守って頂ければと思いますのでよろしくお願い致します」
「ああ。分かっておる。若いうちは色々あるからな。バロン君も親元を離れられたのだから、少しは羽を伸ばさないとな。ただあまり遊びすぎも良くないぞ。大やけどする事もあるから気を付けてな」
「ご理解頂き感謝致します」
バロンは頭を下げて下がった。
「カレン。お前が闘技大会の選手宣誓を行うのか?」
「ええ。そうよ。みんなが私でいいって言ってくれたの」
まぁカレンほど適任なやつはいないからな。
エリーを除けば満場一致だった。
「おお。良かったな。クラスメイトとも仲良くなって。序列2位だからと言って慢心することなく下位の者とも仲良くするんだぞ」
「え? 私序列5位よ?」
この言葉にフレスバルド公爵は驚いていた。
「なんと? カレンが5位? バロン君が1位として他3名は誰だ?」
「バロンは4位なの。今年は過去にない大豊作の年よ。もちろん実力でねじ伏せられたから、私もバロンも文句はないわ」
するとエリーがフレスバルド公爵の前に出て
「……元セレアンス公爵バーンズ・レオの娘のエリー・レオ……」
この言葉にフレスバルド公爵は驚き、しかし嬉しそうに
「おぉ! 君がバーンズ卿の……良かった。君がセレアンス公爵になれるように我々も力を貸すぞ! 今のセレアンス公爵と少しあってな。必ず約束するから安心しなさい。そうか金獅子の君が同学年という事は君が序列1位か。納得したよ」
「……私は序列3位……序列1位は私の婚約者」
どんな紹介の仕方だよ……
「そうなの金獅子のエリーでも序列3位なのよ。今年のレベルは本当に高くて嫌になっちゃうわ」
フレスバルド公爵と目が合ってしまった。仕方なく俺も自己紹介をした。
「初めましてフレスバルド公爵。僕はマルス・ブライアントと申します」
するとフレスバルド公爵が俺に
「君はブライアントと言ったのか? アイク君と血縁か?」
「はい。アイクは僕の兄です」
するとフレスバルド公爵が急に押し黙った。
「もしかして序列2位も君の血縁者か?」
フレスバルド公爵が顎を触りながらしばらく思慮した後に聞いてくると、最後方に居たクラリスが前にきて
「初めましてフレスバルド公爵。私もマルスの婚約者でクラリス・ランパードと申します。リスター帝国学校1年生の序列2位です」
フレスバルド公爵がクラリスを見て美貌と婚約者という言葉に驚いている。
「マルス君。君はどこの国の出身かね?」
「バルクス王国でございます」
「バルクス王国に、グレンと今年の序列1位〜3位まで全てが行くのか。完全に秩序が壊れるな……」
フレスバルド公爵の独り言に答える声が俺の意識の外からした。
「そんなことはありませんよ。フレスバルド公爵閣下」
そう言ったのは、なんと迷宮都市グランザムの領主ビートル伯爵だった。
しかもビートル伯爵の隣にはクラリスの両親グレイとエルナがおり、そのまた後ろにはジークとマリアとリーナ、アイクまでいた。
クラリスは一目散にグレイとエルナの所に飛び込んでいった。
4年ぶりの再会なのである。3人の目から涙が溢れていた。
「紹介が遅れて誠に申し訳ございません。私はザルカム王国、ビートル伯爵ラウル・グレイスです。こちらは私のザルカム王国のグレイ子爵でございます」
ビートル伯爵がフレスバルド公爵に挨拶をすると今度はジークが
「初めまして。ブライアント伯爵ジーク・ブライアントです。フレスバルド公爵にお会いできて光栄の至りでございます」
とフレスバルド公爵に対して腰を折った。
そしてビートル伯爵が俺に対して
「久しぶり、剣聖殿。また我々を助けてくれるかい?」
久しぶりの再会を喜んでいるのか笑顔で聞いてきた。
「助けるだなんて……今の僕があるのもビートル伯爵のおかげです。僕に出来るお手伝いであれば、手伝わせて頂きます」
一連のことを見ていたフレスバルド公爵は
「バルクス王国とザルカム王国での婚姻、同盟関係だと……こ、これはいかん! 私たちも手を打たないと!」
慌ててフレスバルド公爵が言うとビートル伯爵が
「これから、大人だけで色々話し合いませんか? みんなでwin-winの関係を築ければと思うのですが」
ビートル伯爵がそう言うと今度はまた別の所から
「それなら私も混ぜてくれないかしら」
とサーシャが出てきた。
結局大人たちとアイクはみんなで一緒に闘技大会を観戦することにし、それまでの間どこかで親睦を深めることとなったらしい。
「凄い展開になったね」
ミネルバが俺たちに向かって言うとみんなが頷く
「クラリスってバルクス王国出身じゃなかったんだ?」
「うん。私は6歳の時にマルスと一緒にザルカム王国からバルクス王国に行って、その途中でミーシャと会ったの」
クラリスの背中にはなぜかリーナがいる。
あれ? リーナこれからどうするの? ジークとマリアはどこかに行っちゃったけど……するとバロンがクラリスに向かって
「クラリス、その背中の可愛い子は誰だ? 俺に紹介してもらっても構わないか?」
おい、お前はクラリス狙いじゃないのかよ! するとリーナが俺の所に飛び込んできた。
リーナは腕輪をしているらしく、それが当たって痛かった。
それを見たクラリス、エリー以外の目がお前は何人誑かせば気が済むんだと言っていた。
「おい、リーナみんなに挨拶しなさい」
みんなの視線に耐えられなくなった俺はリーナに自己紹介を促すと
「リーナ・ブライアントです」
可愛くリーナが自己紹介をすると、今度はエリーに抱きついたのを見てバロンが
「そうか、もしかしたらマルスがお義兄さんになる事もあるのか」
バロンの言葉にみんなが爆笑した。いやカレンまで笑うのって……この世界の人々の感性は俺と違うんだな……
すると今度はローレンツが慌てて俺たちの所に来て至急戻って来いと言われたので、俺たちはコロシアムに戻った。
コロシアムに戻ると校長のリーガン公爵がおり、俺たちにこう伝えた。
「大変申し訳ないんだけど、今日のメンバーを変更します」
「「「「「え!?」」」」」
「理由は後で話すけどよく聞いて。
武術の部
序列1位 マルス
序列2位 クラリス
序列3位 エリー
序列4位 バロン
序列6位 ドミニク
魔法の部
序列5位 カレン
序列7位 ミーシャ
序列8位 ヨーゼフ
序列9位 ミネルバ
序列10位 ヨハン
クラリスとミーシャを入れ替えさせてもらったわ」
「急にどうしたんですか? 武術の部にそんなに上位の序列を並べて?」
カレンがそう聞くとリーガン公爵が
「今回セレアンス王立学校が武術の部に優勝したら今後この新入生闘技大会から辞退すると言ってきてね」
「なにかダメなんですか?」
「理由がね。獣人だけで構成されるセレアンス王立学校が5年もずっと1位だと優劣がはっきりしてつまらない。獣人が一番優秀だからもう他の種族とは組まなくてもいいかと思っている。ひいてはセレアンス公爵領は独立を考えていると言い出してね」
「そうなればセレアンス公爵はリスター連合国の他の11公爵に潰されてしまうんじゃない?」
「普通ならそう思うでしょうが、相手はセレアンス公爵。きっと何か裏があるに違いないわ……だから今回の戦いは負けられないの。政を生徒に託すのは気が引けるけど、もうこれしかないの。お願い頑張って頂戴!」
リーガン公爵は俺の目をじっと見てくる。
魔眼使っているのかなぁ?
「分かりました。もともとセレアンス王立学校には負けられないと思っていましたから、本気で頑張ります」
どう見ても20歳前後にしか見えない284歳は飛び跳ねて喜んだ。
代わりにリーナをジーク達の所へ送ってもらった。
そしてカレンの新入生代表挨拶と同時に闘技大会が行われた。
試合はトーナメント方式だ。
武術の部で前回優勝のセレアンス王立学校はトーナメントの一番左。
対して俺たちは前回3位だったらしく、左から5番目に名前があった。
セレアンス王立学校と戦うのは決勝戦か……
今年の闘技大会は例年と違い武術の部と魔法の部を交互にやるのではなく魔法の部の決勝戦までを終わらせてから、武術の部をやるという事になった。
これもセレアンス公爵が言い出した事らしく、リーガン公爵含め他の学校の校長たちとも協議をしたが、セレアンス公爵の言い分を認めた。
なぜなら正直武術の部の方が盛り上がるからだ。
理由は簡単で魔法使いがそもそも少なく、10歳の子供は連戦できるほどMPが多くない。だから引き分けになる事も多いのだ。
魔法の部の1回戦でMPを使い果たして2回戦で何も出来ないで終わるという事もよくあるそうだ。
魔法の部は50m以上からの攻撃しか認めないルールだった。
そのため、コロシアムの中心から左右に25mにラインが引いてありそのラインの外から生徒たちは魔法や弓を打ち合う形となった。
この世界では魔法よりも弓職の方が少ない。
なぜなら矢の携帯が重いから効率が悪いのだ。
MPは寝れば回復するが、矢は寝ても回復しない。
生徒や冒険者にとって不遇なのは仕方のないことだった。
そして予想通り、魔法の部の決着はすぐに決まった。
決勝まで全て5-0でリスター帝国学校が優勝した。
対戦した学校は弓使いがいない。
魔法使いも少ないし、居たとしてもMPが……そして新入生闘技大会、武術の部が始まった。
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