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23章 青年期 ~リスター帝国学校 3年生編~

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第525話 野望

 十九時を迎えると、舞踏会に出席する者たちはすべて応接室へと招かれた。

 応接室から繋がる庭も解放され、会場の人数は優に二百を超える。

 シャンデリアの光が燕尾服やドレスを照らし、空気はすでに熱気を帯びていた。


 この煌びやかな場に紛れた敵は、四人。

 ミリオルド公爵、ヨハン、そして仮面をつけた執事が二名――そのうちの一人が、紛れもなくラースだ。


 対する俺たちは、いつものメンバー。

 公爵家の者たちはもちろん、ブライアント家、ランパード家、キャロル家といった俺に馴染の深い者たち。


 なお、彼らにはクラリス以外の婚約者はすでに部屋で休んでいると伝え、ラースの存在も伏せておいた。一から説明するにはあまりにも骨が折れるからだ。


 視線を会場に戻すと、部屋の一角には立派なひな壇が設けられ、その上には音楽隊が整列している。


 壇上では、リーガン公爵が社交的な微笑みを浮かべたまま開宴の挨拶を述べ――

 挨拶が終わると、音楽隊が一斉に演奏を始めた。


 優雅な弦の調べが空間に溶け込み、舞踏会が始まる。

 男性たちがそれぞれ意中の女性のもとへと歩み寄り、手を差し出し始めた。


 もちろん、最初にクラリスの手を取るのは俺。

 差し出した右腕に、クラリスがそっと左腕を絡めてくる。

 制服越しに伝わる彼女のぬくもりに、心臓がひときわ強く脈打つ。

 何度肌を合わせても、慣れることはないんだろうな。


 ダンスフロアに歩み出すと、俺たちに視線が集まるのが分かる。

 その中には、仮面の下のラースの視線もあった。


 それに気づかぬふりをして、音楽に合わせてクラリスの腰に手を回す。

 差し出した左手に、クラリスがそっと右手を絡めてくる。

 胸元に近づいたクラリスの吐息が頬にかかり、その甘い香りが鼻腔をくすぐった。


「やっぱり、ちょっと恥ずかしいね」


 息がかかるほどの距離でクラリスが囁く。


「まぁね。でも……心地いいよ。心臓がバクバクしてるけど」


 顔を見れば、クラリスもわずかに頬を紅潮させていた。

 視線を外さずに、俺はそっと足の運びでポジションを変えた。

 クラリスの背後にラースたちが見えるように、自然なステップで。


 さすがに俺がずっと凝視しているのは不自然なので、クラリスとポジションを変えながら互いに監視の目を光らせる。

 

 それは、俺たちだけではなかった。

 視線を滑らせれば、アイクがビッチ先生の手を取り、優し気な微笑みを浮かべる一方で、ときおり、鋭くヨハンを射抜く。


 スザクもまた、サーシャの細い腰に手を添えながら、優雅に踊るフリをしつつ、視線はしっかりとミリオルド公爵を見据えていた。

 サーシャとビッチ先生のドレスは大きく背中の開いた、バックレスドレス。

 会場の視線もよくそこに集まっている。


 ――事情を知る者たちにとって、ここは戦場だ。

 けれど、多くの貴族にとっては、あくまでも一夜限りの華やかな社交の舞台。

 ドレスの裾が舞い、グラスの中の液体が揺れ、笑い声が交錯する。


 その中では、コジーラセが連れてきた華やかに着飾った女性たちに、リュートが片っ端から声をかけていた。

 手慣れているようで、軽やかに会話を弾ませる。

 一方で、コジーラセは、ヒルダを誘い、手を取ってダンスの輪へと連れていく。


 ジークとマリアも大人気だった。

 カストロ公爵からジークを誘い、マリアの手を握っているのはバルクス国王。

 さらには、リーガン公爵がザルカム王の下へ歩く姿も見受けられた。


 だが――そんな華やぎとは対照的に、部屋の一画で妙な雰囲気の場所が。

 ラースを含む四人の男たちは、まるでその場にだけ冷気が立ち込めているかのように沈黙を保ち、ひそひそと何かを語り合っていた。


 舞踏会を自ら提案しておきながら、一向に踊ろうとはしない。

 周囲の流れから取り残されるような、あまりにも不自然な立ち振る舞い。

 視線を漂わせ、何を探しているようにも見えた。


 もしかしてエリーを探している?


 その思った矢先――会場に響く音楽が切り替わった。

 ゆったりとした旋律から一転、軽やかなリズムが奏でられ、人々は自然とダンスの手を解いていく。


 「次のパートナーを」と、音楽が告げる。

 誰もがその空気を察し、笑顔で挨拶を交わしながら、別の相手を探し始める。


 名残惜しくもクラリスの手を離すと、すぐさま彼女の前には男たちが列を成す。

 それはまるで、紳士の仮面をかぶった獣たちだった。

 優雅な社交場のただ中にあって、そこだけ異様な熱気を帯びている。

 中には「ちょっと待った」と手を挙げ、後から列に割り込もうとする者まで現れる始末。どこの紅鯨団だよ……と心の中で舌打ちをする。


 見かねたアイクが最後に名乗り出ると、クラリスがホッとした様子で兄の手を取った。

 その光景に、俺もようやく肩の力を抜く。


 ――さて、ラースたちを監視しないと。

 参加者に会釈しながら彼らを見られる場所を探していると、背後から艶やかな声が響いた。


「一人で視線を這わせていたら、バレるわよ? 踊りながらの方が自然よ」


 振り返れば、そこにはカストロ公爵。

 豊かな胸元を惜しげもなく晒し、可愛らしく微笑みを浮かべている。


「そ、そうですね……ぜひ一曲、お願いします」


 確かに公爵の言う通り。

 ただ、さすがにカストロ公爵相手に踊るのは緊張する。

 相手が公爵というのもあるが、こういう場に慣れていて、ダンスもうまい。

 さらに厄介なことに、視線をわずかに下げるだけで、イブニングトレスからあらわになった豊かな谷間が、否応なく目に飛び込んでくる。


「マルス君? どこ見ているのかな?」


 ふいに、少し首を傾げるようにして、上目遣いの視線を投げかけられた。


「あ、いえ、僕はダンスが素人でステップを踏むのに下を向いてしまって……」


 何とか言い訳を並べながらも、声がどこか裏返っている。

 自分でも苦しい言い逃れだと思った。


「ふーん。そうなんだ?」


 わざとらしく白い谷間を寄せながら、俺の反応を見て楽しんでやがる。


 たじたじになりながらもようやく一曲が終わり、ほっと息をつく。

 幸いなことにラースたちの動きはまだない。

 ここは少し休憩を……と、思っていると、不意に背後から声がかかった。


「マルス、ちょっといいか?」


 その響きに視線を向ければ、そこには燕尾服を完璧に着こなした男、ビートル辺境伯が立っていた。

 ただ、その表情はどこか険しい。


「は、はい……ただ、この部屋を見渡せる場所でよければ」


「……そうか、じゃあ庭に出ないか?」


 ビートル辺境伯に促され、俺たちは庭へと向かった。

 庭でも踊っている者たちが多数いる。

 が、辺境伯は人が少ない所を選んでどんどん離れていく。


「……誰もいないな。ここなら話せる」


 そう呟いた辺境伯の横顔には、普段とは違う緊張が滲んでいた。


「どういったお話でしょうか?」


 いつもとは違う雰囲気に恐る恐る訊ねる。

 すると、ビートル辺境伯が口を開く。


「マルス、将来の夢を聞かせてくれ」


 唐突な問いかけに、俺は一瞬言葉を探した。


「夢……? ですか……クラリスたちと幸せに暮らすこと……ですかね。あと、ご存じかと思いますが、リムルガルドを治めたいことくらいかと」


 これはもう、極秘会談のときに事実上伝えているようなものだ。

 今さら隠す必要もない――そう判断して、口にした。


 すると、俺の言葉を聞いたビートル辺境伯が真っすぐ俺を見て言葉を返してくる。


「マルス、それは私の夢とも利害が一致しているはずだ。組んではくれないか?」


「……ビートル辺境伯の夢?」


 あまりにも唐突な言葉に聞き直す。

 けれど、辺境伯の顔には一切の冗談めいた色がなかった。


「ああ。これはな、お前がグランザムからアルメリアに戻ったとき、すでにブライアント辺境伯にも伝えてある。それから、この前、メサリウス伯爵にもな」


 ビートル辺境伯の目に真剣さが宿る。


「私の夢……野望は、三国の統一――」


 一拍置いて、出た言葉が衝撃的だった。


「そして、ザルカム王国の――滅亡だ」

『転生したら才能があった件5』

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ぜひ見てください!


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魔力最低の落ちこぼれ魔法師 ~【ストック】を授かり無双する~


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ビートル辺境伯の目指してるのは平和な連立か統一かなとは思ってたけど、ザルカム王国滅亡って言うとは想像できなかった。確かに初めの頃から酷い扱い受けてたけど。
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