表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】転生したら才能があった件 ~異世界行っても努力する~【書籍・コミック好評発売中!】  作者: けん@転生したら才能があった件書籍発売中
23章 青年期 ~リスター帝国学校 3年生編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

525/532

第523話 予想外の警戒

「貴様! なぜ剣を二本抜かなかった! なぜ魔法を使わなかったのだ!」


 控室に戻った俺を待っていたのは、セレアンス公爵の怒号だった。

 それからすでに十分近く、説教が続いている。


 だが――この叱責は、甘んじて受けなければならない。

 セレアンス公爵は、自らの手で兄を追放し、同胞を守り続けてきた男だ。

 復讐の機会を奪われた公爵の憤りはもっとも――しかも、明らかに本気を出していないと分かる試合内容だからなおさらのこと。

 握り締めた拳が俺に飛んでこないだけ、まだ配慮してくれているのだろう。


 ……とはいえ、いつまでもここに留まっているわけにもいかない。

 その空気を察したリーガン公爵が、一歩前に出る。


「セレアンス公爵、続きは屋敷へ向かってからにしましょう」


 天界石で結界が張られた、リーガン公爵邸でしか説明できないからな。

 俺がラースの立場なら、間違いなくリーガン公爵、フレスバルド公爵、そしてセレアンス公爵の未来を視ている。


 今この場で交わす言葉さえ、すでに奴に筒抜けかもしれないのだ。


「――もう、そのくらいでよろしいでしょう。フレスバルド公爵、セレアンス公爵を連れて、先に屋敷へ向かっていてください。私はこれからマルスと共に、ミリオルド公爵たちの控室に向かいますので」


 まだ納得できない様子を隠しきれないセレアンス公爵を、フレスバルド公爵が軽く肩を押して連れ出していく。

 その後を、スザク、ビャッコ……そしてバロンたちが俺に無言の視線を送りながら続いた。

 ――その目に書かれていたのは、ただ一つ。

(後で必ず説明しろよ)

 閉まった扉を見送り、ふう、と小さく息を吐く。


「さて……マルス、そろそろ行きましょうか。相手の控室へ――」


 リーガン公爵が俺に目を向けたその時。

 彼女の視線がふと、もう一人の存在を捉える。


「……で、クラリス? あなたはどうして、ここに?」


 リーガン公爵の問いに、クラリスは小さく首をすくめながら、それでもはっきりとした声で答えた。


「私も……一緒に行っては、ダメでしょうか?」


 ――切実な願い。

 その声に、リーガン公爵も思わず困ったように眉を寄せた。


「……そうですねぇ。マルスの婚約者であり、しかも今年で三年連続ミスリスターのあなたが――お客様のお迎えに同行するのは、至極当然ではありますが……」


 ちらりと俺の顔を窺うリーガン公爵。

 俺に、判断を委ねるつもりらしい。


 たしかに、公爵の言う通りだ。

 本来なら、クラリスがもっと早く表に出ていてもおかしくなかった。

 ――今まで大人しくしていた方が、むしろ不自然だ。


「……そうですね。ここで変に勘繰られても面倒ですし――三人で行きましょう」


 そう、俺は決意する。

 ラースの狙いは、あくまで【剣神】とエリー。

 そう、高を括っていた。


 相手の控室に向かって、俺たちは歩き出す。



 リーガン公爵が控えめに扉をノックすると――


 現れたのは、ヨハンだった。


「ヨハン。先ほどの試合、見事でした」


 柔らかな微笑みを浮かべ、そう告げるリーガン公爵。

 ヨハンは軽く頭を下げ、茶目っ気たっぷりに返す。


「ありがとうございます。これで、復学……期待してもいいんですかね?」


 冗談めかして持ち出してくるヨハン。

 そういえば去年そんな話をしていたな。

 だが、リーガン公爵はふわりと笑みを深めるだけで、何も言わずに受け流した。


 公爵は視線を奥へと向ける。

 控室の中央、無言で腰を下ろしていた――ミリオルド公爵に。


「今回は、我々の完敗です。本日十九時より、私の屋敷にて舞踏会を催します。バルクス国王、デアドア神聖王国の教皇、そしてザルカム王国の国王もお招きしています。ぜひ、お越しくださいませ」


 リーガン公爵が丁寧に頭を下げると、ミリオルド公爵も一応、礼を返した。

 ただし、その声には一片の感情もない。


「……ありがとうございます。これを機に、今後とも親交を深められればと」


 形式的な言葉。

 しかし、ミリオルド公爵の視線はリーガン公爵には向いていなかった。

 ――控えめに、俺の隣に立つクラリスへ。


 それは彼だけではない。

 部屋にいた執事たちも、ラースも……例外なく、クラリスに視線を注いでいた。


(まさか、クラリスの美貌に見惚れて……?)


 一瞬、そんな考えが頭をよぎる。

 だが――違う。

 あれは、単に見惚れていたのではない。


 特に、ラース。

 彼の眼に宿るものは、明らかに警戒だった。

 俺よりもクラリスを警戒……? 気のせいか?


 答えの出ない疑問を胸に抱えながらも、ここで立ち話を続けるのは賢明ではない。

 伝えるべきことだけを手短に伝え、俺たちはすぐに控室を後にした。



 リーガン公爵は足早に屋敷の準備へ向かった。

 舞踏会の準備――それは、ただ華やかに飾り立てるだけではない。

 席順、警備計画の最終確認……どれ一つ、公爵抜きでは進まない。


 リーガン公爵の後ろ姿を追いかけるように、クラリスと二人で話す。


「……なあ、クラリス。さっき――みんな、クラリスのことを見てたよな?」


 問いかけると、クラリスはぎゅっと胸元を押さえ、俯きながら小さく答えた。


「……うん。でも――見られていたっていうより、睨まれていたと思う」


 やっぱり……だが、どうして……?

 ラースはすでにヨハンを通じてクラリスを視ているはずだ。

 それがなぜ今になってクラリスを警戒する必要がある?


 ただ一つ。

 ラースがクラリスを警戒するということは、クラリスの身も危ないということ。

 しかし、裏を返せば、クラリスも対ラースの切り札になる可能性があるということだ。


 その理由を掴めれば、戦闘となったとき有利に働く。


「クラリス、理由は分からないが、ラースはクラリスを警戒している。絶対に俺から離れるなよ」


「うん……絶対に離れないよ……何をするにも私たちは一緒だから」


 そう言うと腕を組んでくるクラリス。


 そのまま俺たちはリーガン公爵邸まで歩き続けた。


活動報告見てください~


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bxmc4v912wvg6s41hxdbdiqjhk8c_k6g_1e9_22m_1m659.jpg dhdiadh6y42697w151s27mq2vpz_14nr_p4_110_lkan.jpg c5j6h10c5uog91hhkty1av6pe0z7_19c6_1d0_1xo_gl2r.jpg asc9b0i8bb8hgzuguaa1w3577f_17n4_28e_35p_y2kp.jpg c5j6h10c5uog91hhkty1av6pe0z7_19c6_1d0_1xo_gl2r.jpg c5j6h10c5uog91hhkty1av6pe0z7_19c6_1d0_1xo_gl2r.jpg
― 新着の感想 ―
やっぱり神聖魔法を警戒?アリスを見て似たような反応をすれば神聖魔法かと思いますが、神聖魔法以外の理由もありそうな気が…そしてやっぱりクラリスにはいつもマルスの隣りにいて欲しいですね!圧倒的安心感!
やっぱ、聖属性は戦力になるのかな? 聖女と聖者コンビなら相手の予想を超えられる?
クラリスさんの何がそんなに警戒する要素なのか…。ギャグ的には、クラリスさんのオート魅了に警戒!だけど、雰囲気的にシリアスっぽい??どうなるか、色々楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ