第510話 キャロル家
プレオープンを無事に終えた俺たちは、一度寮に戻ってから屋敷に向かう。
「まさか、俺のMPが枯渇するとは思わなかったよ。それにまた枯渇しそうになるとは」
何度もラブエールでクラリス、ミーシャ、アリスにMPを譲渡した俺はついに枯渇。3時間寝かされたあとすぐにまた譲渡。1日にこれだけMPを使ったのは初めてだと思う。
「でもそのおかげで大分水魔法の訓練にもなりました! 先輩にもいっぱい抱きしめてもらえたし、毎日がリスター祭だったらいいのに! そう思えるくらい幸せな時間でした!」
なんていい娘なんだアリスは。まぁ俺としてもみんなと抱き合えるのはうれしい限り。さらにアリスは身に纏う制服の匂いを嗅ぎながら続ける。
「それに貢献したのが認められて、この制服を着ることが許されているのですから!」
そう、今アリスが着ている制服は2年Sクラスの銀色の刺繍が入った制服ではなく、俺たちと同じ3年Sクラスの金色の刺繍が入った制服。
カレンがフレスバルド公爵に言った金色の刺繍が施された制服を【黎明】の中で唯一着れてなかったアリス。アリスも俺たちと同じ制服を着たいとリーガン公爵に頼みこんだのだ。
最初は難色を示したリーガン公爵だったが、俺からもお願いするとリーガン公爵からある条件を出され、それを飲むと了承してくれた。
その条件とは、コスプレ喫茶での【暁】メンバーの指名制度の発足。5分で白金貨1枚を手にしたリーガン公爵はその味を覚えてしまい、明日から指名制を導入しようと目論んでいたのだ。
そんな条件飲みたくなかったが、クラリスを始め、女性陣皆がアリスの想いに応えてあげたいという理由からしぶしぶ了承。ただし、その席には俺やバロン、ブラッドにコディの同席も認めさせた。
男女二人で話し合わせるのは論外だからな。
そして今アリスが着ているのは少し前にクラリスが着ていた制服。当然クラリスの残り香がふわりと漂いご満悦のアリス。
「ちょ、ちょっと……そんなに嗅がないでよ……」
クラリスがアリスを止めるがもう遅い。アリスも俺と同じく立派な中毒者になっていた。
こんな調子でワイワイ楽しく話しながらリーガン公爵の屋敷に着くと【黎明】とその他に分けられ、俺たち【黎明】が案内されたのは50人は入れるであろう応接間。
そこにはすでにブライアント家を始め、クラリスのランパード家、セレアンス公爵、フレスバルド公爵にスザク、サーシャにアリスの両親であるレオナルドとシアラ、それにアイクと眼鏡っ子先輩、さらにはカストロ公爵と双子までもが楽しそうに談笑していた。
その様子を見て一安心。というのも、アリスの両親が物おじしないか心配だったが、その辺を察したのかジークやマリアが積極的に話しかけ、クラリスの両親であるグレイとエルナもその会話に参加してくれていたのだ。考えてみればブライアント家もランパード家も平民出身だから汲んでくれたのかもしれない。
ただなぜここにカストロ公爵と双子がいるのかは謎。
「さて、皆さん。皆さんを今日来ている者たち全員に紹介したいと思っております。そのため私たちが挨拶に回ると時間がかかってしまうので、相手方に来てもらいます。今から私が並び順を申し上げるのでその通りに並んでください」
リーガン公爵のいう通りに並んでみる。
順番は、先頭がリーガン公爵、その後ろに俺、クラリス、エリー、カレン、ミーシャにアリス。アリスの後ろにそれぞれ婚約者と同じ順番でブライアント家、ランパード家と並ぶ。ちなみにカストロ公爵と双子はレオナルド夫妻の後ろ、アイクと眼鏡っ子先輩が最後尾となった。
パーティ慣れしているのかリーガン公爵の段取りはよく、俺たちが並び終えるとパーティ会場となる大広間へと向かう。
大広間にはすでに人が集まっていた。大広間から繋がる庭も解放され、庭にもたくさんの招待客がグラスを片手に談笑していた。
そんな中、皆の注目を浴びながらも、リーガン公爵を先頭にして壇上に横並びする俺たち。リーガン公爵の声が響くと、それまで賑やかだった会場が静まり返る。
「皆さん、よく来てくださいました。今日は皆さんに紹介したい者がおります。今から私が紹介する者たちは未来のリスター連合国を支えてくれる大切な同志です。まずは今夜の主役、マルス前に出てください」
主役!? 俺が!? リーガン公爵に促され、一歩前に出る。
「ここにいる者でマルス・ブライアントの名前を聞いたことがないという者はいないでしょう。12歳を前にしてA級冒険者になった剣聖。今年のランバトでも勝利し、現在A級冒険者77位となっております。兄はメサリウス伯爵のアイク、父はバルクス王国辺境伯ジーク。これほどまでの逸材は未だかつておりません。皆様、この機会にマルスと良好な関係を築いてください」
俺の紹介が終わると、大きな拍手が送られる。拍手はリーガン公爵がクラリスを紹介するまで続いた。拍手をかき消すようにリーガン公爵がクラリスの名前を呼ぶと、クラリスも一歩前に出て俺の隣に並ぶ。
「彼女はリスター連合国リーガン公爵領ランパード子爵家の長女、クラリス・ランパードです。一度見たら男女問わず虜にするほどの美貌の持ち主。それは高妖精族の私ですら羨むほどです。その美貌から容姿にばかり目がいってしまいますが、実力も折り紙付き。下手に手を出すと人生の棒が……人生を棒に振る可能性がございますので、ご注意を」
あれ? 一瞬だがクロの顔が思い浮かんだのは俺だけか?
次々に女性陣が紹介されていく中、驚いたのはアリスの紹介。
「【黎明】最後に紹介するのは、リスター連合国リーガン公爵領キャロル男爵家次女、アリス・キャロルでございます……」
「「「えっ!!!???」」」
リーガン公爵領キャロル男爵家!? 【黎明】の誰一人それを知らなかった。中でも一番驚いていたのがアリス当人。目をぱちくりしながら放心状態となっていたが、そんな俺たちはよそに紹介は続く。
「アリスは【黎明】の神聖魔法使い。にも拘わらず、迷宮に潜れるほどの猛者。類稀なる才能から水魔法までこなせるという、こちらも不世出の奇才。もしもアリスを攫おうとする輩がいれば、リーガン公爵家のみならず、フレスバルド公爵家、セレアンス公爵、カストロ公爵家、カエサル公爵家が敵に回ることをご理解ください」
アリスの紹介が終わると次はジークたちに移り順番に紹介されていく。レオナルドとシアラの番になるとやはりリーガン公爵領キャロル男爵家と紹介される2人。
エリーを除く婚約者たちの親は全員リスター連合国に住むこととなる。
これでリムルガルドに国を興すとしても傀儡国家となる可能性は高い。リーガン公爵の命令に逆らってクラリスやアリスの悲しむ顔なんて絶対に見たくないからな。
そしてさらに俺の……ブライアント家の立ち位置を決定づける出来事が起こるのであった。










