第504話 コスプレ
2032年10月29日 9時
「おい! 楽しみだな! どんな服装なのか!」
会場の前で興奮気味に話すのはゴン。
リスター祭を4日後に控え、俺たちの出し物の準備も完了。
今回は前回よりも更にスケールアップしたコスプレ喫茶。
去年はSクラスとBクラスの合同だったが、今年はSクラス、Aクラス、Bクラスの3クラス合同となる。もちろん2年Sクラスも一緒だ。
「去年まではプレオープンでも並びが半端なくて接待を受けられなかったけど、今年はついにクラリスと手を繋げる!」
「この日のために実家から金貨3枚仕送りしてもらった! 楽しむぞ!」
「甘いな! 俺は6枚! クラリス、エリー様、カレン様、ミーシャ、ミネルバにアリス、1人に金貨1枚ずつ使えるようにこの1年ずっと節約してきたんだ!」
去年は見なかったAクラスの男子たちの目がぎらつく。
しばらく会場で待っていると、ついに扉が開き女子生徒が入室してくる。
まずはメイド服を身に纏った可愛らしい女の子たちから。
改めてみるとこの学校の生徒たちは発育がいいんだよな。
食で変わるとは聞いたことがあるけど、この学校で出される食事はかなり栄養価の高い物ばかりなのかもしれない。
また、魔法が体に及ぼす効果も高い気もする。
そして次に入ってきたのはミーシャと姫。2人はお揃いの巫女姿。
「やっぱりこの服サイズが合わないや。胸のあたりがきつくてなかなか入らなかったし」
「何を抜かすか! どう考えてぶかぶかじゃろ! このちんちくりんめ!」
俺からすればいつもの光景だが、他の生徒からすれば新鮮なのだろう。
割れんばかりの拍手を送り、鼻の下を伸ばしているところに白衣の天使が舞い降りる。
「先輩! どうですか!?」
ピンクの髪の毛をきちんとまとめ、ピッタリとした白衣はどっからどうみても成人済み。これで11歳といえば間違いなく誰もが神聖魔法使いと勘繰るスタイルだった。
ちなみにどこの世界でも看護師は白衣というのは決まっているようで、医務室の看護師も皆白衣を身に纏っている。
部屋の入口で言い争うミーシャと姫を押しのけ、俺の近くに駆けてくるアリス。
「ああ、今度ケガをしたらその格好で看てくれると嬉しい」
勢いで言ってしまったが、我ながらキモイ言葉だ。
「ありがとうございます!」
キモイ俺に笑顔で答えてくれるアリス。なんていい娘なんだ。
「アリス! 抜け駆けはずるいよ!」
「お主! 空気を読むのじゃ!」
停戦した2人も近づいてきたところで、新たに2人の美少女が姿を現すと、男子生徒だけでなく女子生徒からも「おーっ!」という歓声が漏れる。
入口に立っていたのは、ふんわりとした猫耳がついたヘッドバンドを頭に載せ、両手には大きな肉球が施された手をはめたカレンとミネルバ。
ふわふわの尻尾や猫の模様が施された衣装は、カレン、ミネルバの体に程よくフィットし、カレンの魅力的な曲線を強調していた。
「ちょっと恥ずかしいのだけれども、クラリスがギャップ萌えにはこれが一番ってきかないから……」
「カレン様が1人じゃ恥ずかしいからって私もこれを着ることに……あとカレン様? 語尾は『にゃん』ってつけた方が、マルス君が喜ぶってクラリスが……」
カレンは俺に、ミネルバはバロンのもとへそれぞれ猫耳を揺らしながら歩く。
「ああ、ギャップ萌え……最高だよ!」
さすがクラリス。押さえているところは押さえているな。
「ありがと。でもクラリスの衣装のギャップも凄い……にゃん……ってほら、噂をすれば」
男子生徒たちでけでなく、この部屋にいた女子生徒も一斉に顔を真っ赤にするカレンの視線の先を辿る。
その先には美しい肌の美白を隠すように、黒いレースのような生地で覆われた魔女っ娘の衣装を身に纏うクラリスの姿が。
ワンピースの丈はいつも通り短く、頭に黒く大きな帽子。左手で帽子を優しく押さえながら、右手には箒を持ち、少し身をくねらせてポージングするクラリスに思わず涎を飲み込む。
「「「……」」」
が、誰も声をあげない。
カレンやミーシャとミネルバ、アリスや女子生徒たちが登場したときは拍手や歓声で迎えられたが、それがないのだ。
「……ど、どうかしら……?」
不安なのか、手に持っていた箒を跨ぐサービスをするクラリス。
それでも誰もリアクションをしない。
いや、リアクションが取れないのだ。リアクションを取ることすら……呼吸をすることすら忘れてしまうほどに見惚れてしまっているから。
「……え……? やっぱり黒は似合わなかった……?」
クラリスの表情がどんどん萎んでいく。
と、そこにクラリスの背後から近づいてきた者がクラリスの肩に優しく手を添える。
「……大丈夫……魅入ってるだけ……」
唯一女子生徒の中でいつもと変わらぬ制服姿のエリーが声をかけると、静寂が突如として嵐のような歓声に塗りつぶされた。
「ちょっと!? 何とか言ってよ!?」
皆がリアクションをしてくれたことにより、ちょっとホッとした表情で歩いてくるクラリス。
「ごめん、ごめん。圧倒されちゃって」
クラリスが隣に座るだけでいつも以上に心臓が早鐘を打つ。
近くにいたゴンもようやく我に返り、
「クラリス! 今日こそは俺に聖水を飲ませてくれ!」
この言葉を皮切りにあっという間にクラリスの前には行列が並ぶ。
にしても並ばなかったのは俺とバロンの2人。
ブラッドとコディ、そしてクロムまでもいつの間にか列に加わっていた。
困惑するクラリスを助けようと立ち上がろうとした瞬間、
「あなたたち! 聖水は1杯銀貨1枚! ミーシャとアリスのもありますよ!」
と、メイド服に身を纏った商売する気満々のリーガン公爵が取り締まる。
結局はリーガン公爵監視のもと、聖水は皆の手元にいきわたり、俺が土魔法でこっそり作ったバケツは銀色に輝く硬貨でいっぱいになっていた。
「今年もよろしく頼みますよ。今はリスター祭での売り上げは数年前の何十倍にも膨れ上がっているのですから。マルスにも今年はお金の回収を手伝ってもらいますよ」
他のクラスの生徒は授業に戻り、【暁】の俺たちだけが残った。
お金の回収とはなんぞや? と思ったが俺にも水魔法で水を売れとのことらしい。
別にそれだけならいいのだが、ちょっと困る事態が。
購入する客層は男女別。だから売り場も別々にということになり、クラリスたちと離れることに。
コスプレ姿の女性陣を餓えた野獣どもの前に置き去りにするということはできない。
そのためラブエールのことを伝え、クラリス、ミーシャ、アリスにMPを供給できることを伝えると、
「なんと!? ではマルスの膨大なMPを余すことなくクラリスたちに分け与えられるのですね! マルスはクラリスたちの側から絶対に離れてはなりません!」
$マークの目をしたリーガン公爵が思った通りの言葉をくれた。
ある意味この人が一番操りやすいかもしれない。
と、思ったのはここまで。
「あなたたちにだけ残ってもらったのには理由があります。明日から各国のVIPが続々といらっしゃいます。一部そのお迎えを私と一緒にしてもらってもよろしいですか?」
「はい。リーガン公爵がそう仰るのであれば」
「ありがとうございます。特に明後日おいでになる予定の方は超がつくほどのVIPです。申し訳ございませんが授業を終えても教室に残るように。私が迎えにいきますので」
リーガン公爵がいう超VIP?
バルクス王やザルカム王でもここまで念を押されなかったのに。
もしかして……?
思い当たる人物は1人しかいなかった……が、俺の予想は見事に外れた。










