第501話 極秘会談
2032年10月26日
「いやぁ。良かった、良かった。危うく友達の縁を切りそうだったぜ!」
登校中、大声でご機嫌に語るのはゴン。
どうやら俺とカストロ公爵の件は外部とは隔離され、固く閉ざされたリスター帝国学校の生徒たちにまでも噂が広まっていたらしい。
しかし、昨日の授業中にも拘わらず、何の脈絡もなく先生からその噂はデマだと伝えられたとのこと。
「リーガン公爵としても不都合な噂だったからすぐに解消したかったんじゃない? なんかしらの手段で今ではリスター連合国中にデマだったって訂正の情報を流しているころよ」
そう語るのは俺たちの後ろを歩くカレン。
不都合な噂を消してくれるんだったら、女好きという噂も消してくれよ……。
が、噂を信じず、俺のことを信じてくれる者たちもいたようだ。
それがこの3人。
「まぁ俺とブラッドとコディくらいか? それだけはないって言っていたのは」
「そりゃそうだろ? マルスが姐さんやエリーより先に孕ませるとは思えねぇ」
「だよな。でも俺たちの予想は外れたんだけどな」
バロンにブラッド、それにコディ。
まぁ俺を信じるというよりかは、クラリスたちの魅力を信じているとも言えるかもしれないが、そこはポジティブシンキングで。
「コディ? 予想ってなんだ?」
そこだけ引っ掛かったので問う。
「ん? 俺たち3人は何人女を引っかけて帰ってくるか賭けていたんだ。バロンはカストロ公爵1人。ブラッドはカストロ公爵にクロムの姉のセレスティア。俺はその2人にフランとフレンという双子の計4人だったんだが、まさか誰も連れてこないとは……」
なんて賭けしてやがる。
と、そこに少しホッとした表情のクロムが会話に加わる。
「セレス姉様との噂を聞いたとき、びっくりしました。同じ歳で同じクランのマルスが義兄になるのかと」
確かにセレスと結婚したらクロムが義弟になっていたのか。
俺もクロムが義弟となっていたら気まずいから断って良かったな。
教室に着くとそこには担任のローレンツがすでに待っていた。
「おお、マルス。リーガン公爵から聞いたぞ。大活躍だったんだってな。あと伝言も授かっている。この後、リーガン公爵の屋敷に向かってくれ。連れは最少人数でとのことだ」
早速お呼びか。しかも屋敷。
「クラリス、来てくれ。他のみんなは待機で頼む」
クラリスと2人で教室を出て、学校の敷地内の北にあるリーガン公爵の屋敷を目指す。
「誰がいるんだろうね?」
歩きながらクラリスがゆるく腕を組んでくる。
「フレスバルド公爵とセレアンス公爵のような気がするんだけど……」
だけどこの2人の場合、緘口令を敷くほどのものかという疑問符がつく。
2人で予想しながら歩いていると、周囲の視線が俺たちに集まっているのに気づく。
校庭、体育館、さらには校舎からも。
クラリスが恥ずかしがり腕を解こうとするも、強引に肩を抱く。
「余計な誤解を招きたくないからね。どうしても嫌だったら言ってくれ」
「う、うん……ちゃんと捕まえていてね……」
「もちろん! クラリスがどんなに嫌がっても離さない」
さらに強くクラリスを抱き寄せると、観念したのかクラリスの体から力が抜け、俺に身を委ねる。
その様子を周囲に見守られ? ながら歩く。
校舎から遠ざかり、生徒たちの視線がなくなりしばらくすると、1台の馬車が俺たちに横付けする。
馬車の扉が開くと、思いもよらぬ人物が俺たちに声をかけてくる。
「久しぶりね。マルス君」
そこにいたのはカストロ公爵と護衛のフランとフレン。
3人を視認したクラリスの表情に緊張感が走る。
「お、お久しぶりです。カストロ公爵。どうしてここに?」
カストロ公爵もリスター祭には参加するとは聞いていたが、まさかこんなに早くリーガンに来るとは思わなかった。
「そんなの決まっているじゃない。女狐に呼ばれたのよ。それよりも早く乗って」
手招きされるも、乗れるわけがない。
「あ、僕たちは2人で歩いていきますので……」
なんとか断ろうとするが、
「あら? 私の誘いを断るつもり? クラリスも一緒に乗りたいわよね?」
相変わらずカストロ公爵の顔は笑っているが、目の奥は笑っていない。
が、クラリスは首を縦には振らなかった。
「そんなつもりはございませんが、もうリーガン公爵の屋敷も見えていることですし、またの機会にお願いします」
ずっとクラリスにばかり気が向いていたので気づかなかったが、屋敷まで歩いてもう5分というところまで迫っていた。
「……まぁいいわ。では待ってるわね。あ・な・た」
諦めたのか馬車を走らせるカストロ公爵。
「もう……絶対諦めてないじゃない……何よ、あなたって……あとでリーガン公爵にお灸をすえてもらいましょう」
頬を膨らませるクラリス。
まぁ噂はデマという情報が流れているようだけど、この機会に改めて言ってもらうか。
屋敷の近くまで歩くとクラリスがあることに気づく。
「あれ? 馬車が3台? バルクス王の馬車とさっきのカストロ公爵の馬車は分かるのだけれどももう1つの馬車は……?」
「本当だ。それにカストロ公爵の馬車に時計の紋章がないな……」
馬繋場に置かれた馬車に疑問を覚えるも、カストロ公爵の屋敷を警備する者たちに見つかり、屋敷の中の大きな扉の前まで案内される。
「どうぞ」
と、言われ、使用人に扉を開けてもらった先には6人の男女が、3つのグループに分かれてテーブルを囲んでいた
正面に座るのはリーガン公爵。その後ろには意外にも付き添う様にカストロ公爵が立つ。
左側に座るのはバルクス王。その後ろにはジオルグがこちらも付き添う様に立つ。
そして意外だったのが右側にいる人物だ。
座っている人物が誰かは分からない。しかし、後ろに立つ人物は知っている。
なぜこの人がここに?
だが、リーガン公爵やバルクス王を前に気軽に声をかけることなどできない。
少しの沈黙が場を支配すると、それを打ち破ったのは家主であるリーガン公爵だった。
「さて、揃ったことですし早速本題に入りましょう。まずはビートル辺境伯。あなたからお願いします」
そう……俺から見て右側に立ってのはビートル伯爵だった。
ただ辺境伯と呼ばれていたのでもしかしたら陞爵したのかもしれない。
ビートル辺境伯は前に座る者に耳打ちをしてから言葉を発する。
「では、ザルカム王に代わり私から。グランザムとヘルメスの和平に尽力してくれたマルスに対し、白金貨50枚だけではザルカム王国の面子がたちません。なのでマルスには伯爵位を授け、ザルカム王国領リムルガルドを治めてもらうことにしました」
三国による俺の争奪戦がここに始まった。










