第495話 選択
「マルス! どうする!?」
クラリスが俺の判断を仰ぐ。
女性陣のことを考えれば撤退が良い。
戻って各地からA級冒険者を募り、A級冒険者だけでパーティを組めば倒せる……そう自身に言い聞かせるも、それには途方もない時間がかかり、それが実行されないであろうということも俺は知っている。
もしそれが為されるのであれば、とっくにリムルガルド城は沈静化されているはずだからだ。
それを踏まえて数秒に渡り長考した俺の決断はこうだった。
「クラリスたちは退路を確保しながら、召喚されるであろうグレーターデーモンたちを頼む! 俺はこいつを討つ!」
今度はスキャルだけでなくカレン、ミーシャ、アリス、姫も俺の言葉に驚く。
驚いた者たちは皆俺が撤退を選択すると思ったのだろう。
しかし、クラリスとエリーだけは違った。
「カレンは入り口に立って! ミーシャとスキャルさんでカレンの援護を! アリスは後方で回復に徹して! ハチマルは後方から魔物がこないか注意を! エリー、エリーは私と一緒に召喚されてくるグレーターデーモンを倒すわよ!」
「……うん……!」
エリーが力強く頷くと、俺の指示にフリーズしていたカレンたちも動き出す。
「驚かないのか?」
俺の隣に立つクラリスに問うと、
「ちょっとね。でも安心した」
安心? 脅威度Sの相手を目の前にして、俺は戦うという選択肢を取ったんだぞ?
「どうして?」
俺たちを見定めるように見下すアークデーモンを警戒しながら聞くと、
「何年一緒にいると思っているの? マルスがどれだけ私たちを想ってくれているかは分かっているつもり。そんなマルスが私たちと共闘することを選んだのよ? 当然勝てる算段はあるということでしょ? マルスが1人残り、私たちだけに逃げろと言った場合だけは絶対に反対するつもりだったの」
クラリスがちらりと俺に視線を向けて答える。
……完全に読まれている。
「まぁそういうことだ! 来るぞ!」
理由を話そうと思ったが、そこまで空気が読めるアークデーモンではなかったらしい。
未来視が左手を前に掲げるアークデーモンを映し出す。
すると同時に部屋の両端に1体ずつグレーターデーモンが召喚される未来を視せる。
こいつ!? 2体同時に召喚できるのか!?
しかも今まで召喚を使ってきた魔物たちと違って、自身からかなり離れた場所に召喚することができるらしい。
「クラリスたちは右側に召喚されてくる奴を、俺は左側へ向かう!」
しかし、召喚されてくる場所がある程度分かれば、この能力はあまり怖くない。
アークデーモンに召喚されたグレーターデーモンが魔法の弓矢に貫かれ、エリーによってあっさり止めを刺される未来を視ると、俺も反対側のグレーターデーモンを倒しに行く。
俺もクラリスたちに負けじとグレーターデーモンを倒しに行くが、ここで想定外のことが。
なんとアークデーモンが俺の方に滑空しながら襲い掛かってくる未来が視えた。
しかもその左手は膨大な魔力が込めながら。
2体同時召喚どころか、こいつも動きながら魔法が放てるのか!?
(ウィンドカッター!)
召喚されたグレーターデーモンの首をウィンドカッターで刎ねる。
同時に俺に襲い掛かりながらフレアを唱えてくるアークデーモン。
(ウィンドインパルス!)
(ウィンド!)
風魔法でフレアを弾くと、その先には弾丸のような速さで斬りかかってくるアークデーモンの姿が。
元々の膂力にスピードの乗ったアークデーモンの一撃を、風纏衣を纏い、雷鳴剣と氷紋剣を目の前で十字を組み、真っ向から受け止める。
受け流すこともできただろう。
しかし、俺の後ろには部屋の入口がある。そこにはカレンたちがいるからな。
受け流すことによってカレンたちに近づかれたら間違いなく守りきれないだろう。
結果、押されはしたが踏みとどまることができた。
俺に重い一撃を放ったアークデーモンの背中にウィンドカッターを喰らわせてやろうと思ったが、すでにアークデーモンは態勢を整え、グレーターデーモン召喚の準備にかかっていた。
(ウィンドカッター!)
そのままウィンドカッターを放つと、アークデーモンは右手に構えていた剣を腰に差し、石壁で防御する。
これでまた1つ情報を得られた。
アークデーモンは手をかざさないと魔法が使えないらしい。
それに同時に使える魔法は2つまで。
試しに何度かアークデーモンが剣を構えながら左手で召喚をしているときに、ウィンドカッターを放つと、その全てでアークデーモンは剣を腰に差してから右手で石壁を発現させた。
また、思ったよりも好戦的で、他のデーモンよりも召喚に固執はしてこない。
バランス型なのかもしれないが、俺たちにとっては好都合。
左右それぞれの手で召喚魔法を唱えられると、1度に4体ものグレーターデーモンと戦わないとならないが、その行動をとったのは2回だけ。
2回とも俺とクラリスのホーリーで消滅させたあと、残りのグレーターデーモンを倒しにかかったので、もしかしたらアークデーモンはグレーターデーモンを4体呼び出すとホーリーが飛んでくると思ったのかもしれない。
カレンたちがいる入口付近にもグレーターデーモンを召喚したことがあったが、そのときはクラリスとエリーが援護に向かい、カレンたちと共に倒してもらった。
そのときから俺とクラリスの間には1つの共通認識が生まれた。
アークデーモン近くに召喚されたグレーターデーモンは俺が、入口付近に召喚されたグレーターデーモンはクラリスたちが担当するということだ。
――――戦うこと10分ちょい
ここである異変に気づく。
未来視をかなり使っているにも拘わらずMPの消費が少ないのだ。
1秒で10もMPを消費するので、使用し続けるということはない。
それでもいつもよりMPの減りが緩やかなのだ。
実際試してみると1秒間で消費が5。
しかも少しだけだが、視える範囲が広がっていた。
対照的にアークデーモンの残りMPは半分を切っている。
アークデーモンはひたすら魔法を唱えているからな。MP回復促進があっても追いつかないのだろう。
それが焦りに繋がっているのかアークデーモンが接近戦を挑んでくる回数が増えてきた。
デーモンの性質上、不利になれば逃げると思ったがそれはないようだ。
まぁ反対側の通路に逃げ込んでくれれば雷魔法を心置きなくぶっ放せるから、背を向けてくれても良かったのだが。
そしてもう1つ変わったことがある。
この戦闘中にもレベルが上がり、風纏衣を纏えばスピードの乗ったアークデーモンの一撃にそこまで押されなくなったということだ。
実は戦う前から俺とアークデーモンのステータスにそこまでの違いはなかった。
だからこそ戦うという決断をしたのだが、それが今になってさらに肉薄するほどに。
【名前】マルス・ブライアント
【称号】雷神/剣王/風王/聖者/ゴブリン虐殺者
【身分】人族・ブライアント辺境伯家次男
【状態】良好
【年齢】12歳
【レベル】53(+4)
【HP】157/157
【MP】7402/8601
【筋力】132(+10)
【敏捷】128(+11)
【魔力】150(+12)
【器用】128(+10)
【耐久】133(+13)
【運】30
【固有能力】天賦(LvMAX)
【固有能力】天眼(Lv10)
【固有能力】雷魔法(Lv10/S)
【特殊能力】剣術(Lv10/A)
【特殊能力】棒術(Lv1/G)
【特殊能力】鎖術(Lv3/F)
【特殊能力】火魔法(Lv6/C)
【特殊能力】水魔法(Lv6/C)
【特殊能力】土魔法(Lv8/B)
【特殊能力】風魔法(Lv10/A)
【特殊能力】神聖魔法(Lv9/A)(8→9)
【装備】雷鳴剣
【装備】氷紋剣
【装備】火精霊の鎖
【装備】鳴神の法衣
【装備】偽装の腕輪
【装備】守護の指輪
【装備】守護の指輪
【装備】男のロマン
レベルが上がった今もステータスは俺の方が若干劣るが、俺には未来視や風纏衣、そして奥の手の雷魔法がある。
ステータスがほぼ互角であれば、負けることはない。
それが実証されたのは、次にアークデーモンが滑空攻撃をしてきたときだった。










