第492話 特効
「先輩! 今の見てくれました!?」
デーモンをあっけなく倒したアリスが自分でも信じられないという表情で聞いてくる。
「ああ! もっと苦戦する……下手すれば不利かもしれないとも思ったが見事だった!」
「それもこれも全部先輩のおかげです!」
筋力、敏捷、耐久と近距離で戦う上で重要となってくるステータスはほぼ互角で、器用値はデーモンに軍配が上がるのに、こうもあっさりデーモンを倒せるのには理由があった。
それは細剣術のレベルが高いこと、【細剣王】だからというのもあるが、一番はアリスの装備している聖銀のレイピアの存在だ。
アリスの鋭い突きをパリィしようとレイピアに触れた瞬間、悲鳴をあげるデーモン。
そう、何を隠そう聖銀のレイピアは神聖属性。デーモンに対しては特効。
触れるだけでも激痛を伴うらしく、デーモンにとっては正に天敵。
デーモンは悲鳴を上げながらも自身を守る為に盾を召喚しまくる。
が、そんなものは聖銀のレイピアを有するアリスの前ではただの経験値。
レッサーデーモンを召喚するスピードよりも倒すスピードの方が早かったため、デーモンの喉にレイピアが突き刺さるのも時間の問題だったのだ。
「クラリス! 私にもデーモンちょうだいよ!」
それを見ていたミーシャがおもちゃをねだるかのように頼む。
「頑張ってみるけど、もしかしたら2体以上残ってしまうかもしれないからみんな援護をよろしくね!」
そうは言うものの、ホーリーでしっかりと2体だけを残すクラリス。
そのうちの1体をアリスが危なげなく倒すが、ミーシャの方は思いのほか苦戦を強いられた。
というのも、接近戦ではデーモン相手に優勢に戦いを進めるが、決定打に欠ける。
距離を取るとデーモンに分があり、楽に召喚もさせてしまう。
なので無理をしてでも接近戦に持ち込み、召喚をさせる時間を与えないようにするが、何度も危ない場面が。
しかし、そこをカバーするのが危機察知能力抜群のエリー。
まるで未来視を発現しているかの如く、ミーシャがダメージを受けるのを防ぐ。
クラリスもミーシャが倒し終わるまではデーモンを1体だけ残し、ミーシャが戦闘を終えたら2体残すようにしていた。
「……信じられない光景だな。本当にデーモンでレベリングをするなんて……しかも要のマルスに限っては、戦闘中にも拘わらずクラリスを抱きしめているだけ……」
スキャルの言葉が耳に入ったクラリスの体温が一気に上がる。
まぁこればかりは仕方ない。
この戦闘においてクラリスのホーリーは必須。
それに何かあったときラブラブヒールを唱えてもらわないといけないから、クラリスのMPは常に満タンにする必要がある。
決してクラリス依存症とか中毒者というわけではないからな。
しばらく戦闘が続き、だいぶ安定してデーモンを狩れるようになったころ、ようやくグレーターデーモンのMPが尽き始めてきた。
グレーターデーモンはMP回復促進を持っているからなかなか先が見えなかったが、俺のMPが尽きる前で一安心。
MPがなくなったところに俺もホーリーを唱えてグレーターデーモンを葬ると、ミーシャたちも戦闘を終える。
「次こそはもっと倒してやるんだから!」
悔しさを滲ませるミーシャに、
「先輩! ありがとうございます! とても自信になりました!」
満足そうなアリス。
今までアリスはずっと自分1人魔法が使えないことによって色々取り残されていたのもあったから嬉しかったのだろう。
「ミーシャ、アリス。次も期待しているから。でも怪我だけはしてくれるなよ」
戦闘を終えた2人の方へ歩こうとすると、エリーからまたも警告が。
「……マルス……また……」
なんだと!?
「数は!?」
「……たぶん……30体くらい……」
ってことはグレーターデーモンの可能性が高い。
まだグレーターデーモンを倒せる余力はある。
しかし、こいつを倒してまたグレーターデーモンが現れ、さらに……嫌な予感が脳裏に過る。
「6層に戻るぞ! そして7層からは見えない位置で一旦待機! こいつらが6層まで追いかけてくるのか見定めたい!」
グレーターデーモンが俺たちを見つける前に6層まで戻り、7層から見えないところで待ち構えるもデーモンたちが追ってくることはなかった。
そのまま安全地帯まで戻り風呂に入ってから体を休めることに。
みんなで話し合おうという意見も出たのだが、体を休めることを優先と考えた俺は先に睡眠を選択したのだ。
「ねぇ? マルスはどう思っているの?」
皆をマッサージして寝かせると、久しぶりにクラリスがちょこんと顔を布団から出して俺の考えを聞いてくる。
「……グレーターデーモンは召喚されているのかもしれない」
俺の答えを予想していたのか、さして驚かないクラリス。
「だってそうだろ? 倒されてすぐ別の部屋から入ってくるなんて今までは考えられなかったことだ」
「……実はね。私もそう思っていたの。でも言葉にするのが怖くて……その……グレーターデーモンよりも……」
言葉を慎重に選ぶクラリス。
「ああ、もし俺たちの推測が当たっていたらグレーターデーモンよりは強いだろうな」
「やっぱり……」
「でも悲観することばかりではない。俺とクラリス、アリスの3人はデーモンたちからすれば天敵もいいところ。普通であれば脅威度Aの魔物相手にここまで優勢に戦うことなど不可能だろう。今のうちに俺たちもレベルを上げることに専念しよう」
「そうね。それで1つ提案があるのだけれども、このままでは私たち3人だけが強くなってしまうじゃない? エリーたちにも経験を積んでもらいのだけれども……」
どこまでいっても俺とクラリスの考えることは一緒のようだ。
「ああ、俺もそれを思っていた。だからクラリス。明日からクラリスはホーリーではなく魔法の弓矢に神聖属性を付与しながら攻撃してくれ。もちろん皆が少しでも危ないと思ったらホーリーを撃ってほしい」
「頑張ってみるわ。でも戦闘中マルスは私の近くにいてね。いつでも皆の回復ができるようにしたいから……」
「もちろん。俺もいつでもこうやって抱きしめられるようにしたいから」
クラリスを抱き寄せると、クラリスも恥ずかしそうに俺の腰に手を回す。
心臓が破裂しそうになるなか、クラリスの柔らかさに包まれながら意識を手放した。










