第491話 悪魔狩り
「俺とクラリスが7層のデーモンたちを倒す! カレンもチャンスがあればフレアボムをどんどん撃ち込んでくれ! エリー、ミーシャ、アリス、姫、ハチマルは周辺の警戒を! もしものときに備えてスキャルさんはこの部屋に糸を張り巡らしてください!」
階下を覗いていたのはデーモンとレッサーデーモンの群れだった。
紫の肌が不気味に犇めきあうほどの数。
そんな中、皆が俺の指示に従うが、やはりスキャルだけは抗った。
「デーモンだと!? なぜこの迷宮に……!? いや、今はそんなことよりあの量のデーモンたちを倒すのは無理だ! あいつらは魔法を得意とする! こちらの魔法はレジストされて……」
言いたいことは分かる。
でも俺とクラリスにはレジストされない魔法があるのだ。
「分かってます! まずは僕とクラリスの魔法を見てから判断を! いくぞクラリス!」
2人で並んで唱える魔法は当然この魔法。
「「ホーリー!」」
魔法陣が描かれ、まばゆい光の柱が垂直に立つ。
その柱はデーモンたちを飲み込み、光の粒子となって消滅させる。
デーモンがレッサーデーモンを盾にしようが関係ない。
全てを飲み込み一瞬にして7層階段付近のデーモンたちを葬った。
オーガ相手には消滅させることはできなかったが、デーモンは神聖魔法が弱点。
俺とクラリスが神聖魔法使いとバレるのはマズいが、あの数のデーモンたちを相手にするのはちょっと怖いからな。
「ホーリーだと? なんだ……その魔法は……? 見たことも聞いたこともないぞ?」
説明しようかとも思ったが、今はそれよりも先にやることがある。
敵がいなくなった今が7層に上がるチャンスなのだ。
「スキャルさん! その話は後で! 今は7層に上ることが優先! みんな行くぞ!」
俺を先頭に7層に駆けあがる。
すると、そこには1体のマントを羽織ったデーモンらしき魔物が、新たにデーモンを召喚しているところだった。
(ウィンドカッター!)
その姿を確認した瞬間、ウィンドカッターを放つ。
が、新たに召喚したデーモンを盾にし、俺のウィンドカッターから逃れるマントを羽織ったデーモン。
明らかにこいつはデーモンの上位種。
早めにケリをつけないと延々とデーモンを召喚されてしまう。
「みんな! あいつに集中攻撃だ!」
俺の後についてきたメンバーに号令をかけ、1体のデーモンに対して襲い掛かる。
俺、エリー。スキャルの3人で距離を詰め、クラリスの魔法の弓矢でマントを羽織ったデーモンの逃げ道を塞ぐ。
マントを羽織ったデーモンは逃げきれないと悟ったのかデーモンを召喚し抵抗を試みるが、召喚された瞬間に次々と切り刻まれる哀れなデーモン。
この調子であれば余裕で処理できるな。
そう思った俺は今のうちにこのマントを羽織ったデーモンの鑑定をすることに。
【名前】-
【称号】-
【種族】グレーターデーモン
【脅威】A
【状態】良好
【年齢】1歳
【レベル】1
【HP】95/155
【MP】419/444
【筋力】78
【敏捷】98
【魔力】102
【器用】88
【耐久】72
【運】0
【特殊能力】槍術(Lv6/D)
【特殊能力】火魔法(Lv8/C)
【特殊能力】水魔法(Lv6/D)
【特殊能力】土魔法(Lv6/D)
【特殊能力】MP回復促進(Lv3/E)
【特殊能力】魔物召喚(Lv5/C)
【詳細】神聖魔法に弱い
脅威度Aにしてはかなり低いステータス。
魔物召喚で出現する脅威度B+のデーモンにさえ気をつければそこまで怖い相手ではない。
であれば、今後こいつと出会ったときのためにデータを取っておきたい。
「みんな、ちょっと攻撃の手を緩めてくれ! こいつが何体デーモンを召喚するのか知っておきたい!」
グレーターデーモンがデーモンを召喚した瞬間にデーモンを鎖で縛ったり、腕や足を斬り飛ばし無力化させる。
結果、グレーターデーモンがデーモンを召喚できるのは5体まで。
またグレーターデーモンがレッサーデーモンを召喚することはなく、グレーターデーモンに召喚されたデーモンしかレッサーデーモンを召喚できないことを確認。
他に新たな攻撃方法とかないか観察するも特になし。
とにかく自分の命が一番で、自身を守るためであれば、召喚したデーモンを盾にしたりするのはデーモンと変わらなかった。
検証も終わり、グレーターデーモンの首を刎ね飛ばすと、スキャルが先ほどの質問の答えを迫ってくる。
「初めてホーリーという魔法を見たが、あれは何だ? なんとなくだが神聖魔法のような気がするが?」
やはり隠すことはできないか。
疑問のままにしておくと、他の誰かに聞かれて広まる可能性がある。
であれば、ここは素直に話したほうが得策。
「その通りです。僕とクラリスも神聖魔法使い。なのでこのパーティには神聖魔法使いが3人在籍していることになります。このことは絶対に内密にお願いします。バルクス王やジオルグ王太子殿下にも」
「あ、ああ……ではこれだけは教えてくれ。このことをミックさんは知っているか?」
「ええ、リムルガルド城下町攻略に神聖魔法使いは欠かせなかったので」
もしかしたらミックに何かを話したりするかもしれないが、ミックであれば大丈夫だろう。
「にしてもまさかデーモンたちをこうもあっさり……確かこいつらはギルバーン迷宮の……」
と、スキャルがここまで言ったところで、緊張感を帯びたエリーの声が響く。
「……来る! ……同じの!」
通路の先を指すエリー。
まだいたのかと、という思いで待ち構えていると、デーモン5体の後ろにレッサーデーモン25体、最後尾にグレーターデーモンという布陣で通路から部屋に侵入してこようとするデーモンたち。
さすがにそのまま通すほどお人よしではない。
通路に光の柱を2本立て、グレーターデーモン以外を一瞬にして光の彼方へ葬ると、またもデーモンを召喚し始めるグレーターデーモン。
「先輩! デーモンを1体見逃して中に入れることはできませんか!? 戦ってみたいです!」
「私もやってみたい! 魔の森のときは勝てそうにないと思ったけど、今ならいい勝負ができそう!」
アリスの言葉にミーシャも同意する。
ミーシャにとってはちょうどいい相手かもしれないが、アリスにとってはまだまだ格上。
それに召喚されるレッサーデーモンも無視できない存在だ。
さすがにそれはダメだと言おうとすると、今度はクラリスからもアリスたちを後押しする声が。
「ちょっとやってみない? 私のホーリーだけでもデーモンたちは倒せるし。エリーとスキャルさんにもバックアップしてもらえれば難しい戦いではないと思うの。その……マルスが私にMPを譲渡してくれるというのが条件ではあるのだけれども……」
頬を桜色に染めるクラリス。スキャルがいる今だからできることかもしれない。
「私を忘れてないかしら? 今の私であればデーモン如きの火魔法であればコントロールしてみせるわよ?」
「妾のこともじゃ! 鑑定した限り妾よりも強いというのは分かるのじゃがそれでも芭蕉扇で援護くらいはできるのじゃ!」
確かに、ここに俺が加われば盤石か。
「分かった! ではやってみることにするが、危なくなったらすぐに倒して安全地帯まで撤退するからそのつもりで!」
俺の言葉に1人を除いて気勢を上げるものたち。
当然その1人はスキャル。
「ま、マジかよ……デーモンでレベリングなんて聞いたこともないぞ?」
そんなスキャルをよそに俺たちのデーモン狩りが始まった。
この先に脅威度Sの魔物がいることも知らずに。










