第485話 火急の知らせ
2032年9月23日4時
「おはようございます」
一足先に起き、パーテーション外に出ると、ビッグが1人黄昏ていた。
「どうしたのですか?」
ビッグの隣に腰をかけると、ビッグは俺の方をゆっくりと向くが、心ここにあらずといった様子。
「あぁ……マルスべか……はぁ……オデなんかおかしいんだべ……食欲がなくて……いつもは目を閉じて寝ようとすると食べ物が浮かぶんだべ……でも今は目を閉じると……はぁ……」
何度も深いため息をしながら答える。体調不良か? 迷宮の中で拗らせるとまずいな。
「ビッグさん。鑑定させていただいてもよろしいですか? もしかしたら治療法がみつかるかもしれないので」
俺の質問に答える訳でもなく、ただ視線を落とし物思いにふけっている。
まぁこれもビッグのためだ。勝手に鑑定するなと怒られたら素直に謝ろう。
【名前】ビングス・グラトン
【称号】-
【身分】人族・平民
【状態】良好
【年齢】31
【レベル】58
【HP】341/341
【MP】6/6
【筋力】112
【敏捷】72
【魔力】6
【器用】12
【耐久】125
【運】1
【特殊能力】斧術(Lv5/D)
【特殊能力】槌術(Lv7/C)
【装備】剛鉄槌
【装備】狼牙の肩当て
【装備】巨人の袈裟
ビッグって愛称だったのか。特に異常はなさそうだな。原因不明の病にでもかかったのだろうか?
ステータスはというと、典型的な前衛ってかんじだな。ブラッドの着地点がこんな感じなのかもしれない。まぁあいつは一生懸命魔法も頑張っているからもう少し万能タイプになるかもしれないが。
「鑑定しても異常は見られなかったです」
俺の言葉にまったく反応しないビッグ。これは重症だな。一刻も早く医者に診せた方がいいのかもしれない。
と、そこに【大胃王】のメンバーが次々と起きてくる。
「ビッグさんおはようございます。マルスさんもおはよう」
「あれ? ビッグさん早起きですね? いつもは誰よりも惰眠を貪るのに」
「ビッグさん大丈夫ですか? 顔が赤ぼったい気がするのですが?」
どうやら【大胃王】のメンバーもビッグの体調不良に気づいたようだ。皆がビッグを取り囲み、かなりむさい。
反応を示さないビッグに代わり俺が答えると、今起きてきたスキャルも心配する。
「おい、何か悪い物でも食べたのか?」
ビッグの背中をさすりながらスキャルが心配すると、
「スキャルさん。ビッグさんの胃袋を舐めないで下さい」
「そうですよ。腐っている肉でもペロリですよ?」
「常人では絶対に食えない毒持ちの魔物ですらご褒美ですから」
それに答えるメンバーたち。ってかビッグって相当な悪食なのな。
そこに準備を整えた女性陣が起きてくる。
「おはようございます」
なんでだろう? クラリスたちが近くに来るだけで、あれほどむさくるしかったこの場所も華やかになり、空気も澄み渡る。
そのクラリスたちをまじまじと見つめる冒険者たち。昨日は結構離れた距離でしか見てないからな。魂を奪われたり、苦しそうに胸を押さえたり、反応は様々。
しかし、その中でビッグの反応だけは違った。クラリスを見るや否や急にソワソワし始める。
「な、なんか……オデ……あの娘を見ると胸が痛くなるけど……気持ちいいというか心地いいというか……」
え? もしかしてビッグの病って……?
「ビッグさん、もしかして昨日寝る前に浮かんできたって言うのは……?」
「あの娘だべ」
クラリスを指さすビッグ。
病は病でも恋の病か。
まぁでも変な病気じゃなくて安心したよ。クラリスは渡さないけどな。まぁこれで心配事もなくなった。
「さて、僕たちはもう出発します。皆さんは如何なされますか?」
立ち上がると女性陣がいつものポジションに収まる。それを見て冒険者達からはいつもの視線。
その中でスキャルが申し訳なさそうに頭を下げる。
「すまない。俺はここまでだ。別の任務があるからな」
「そういえばスキャルさんは4層までと言われていましたね? どうして4層なのですか?」
「ああ。マルスたちが来る前までは、俺も7層の様子を見てこいと言われていたのだが、マルスたちが来て、俺には別の任務が与えられてな……というよりも、俺にはずっと与えられ続けている任務があるんだ」
任務? 俺の表情を読み取ったスキャルが俺にだけ小声で教えてくれる。
「バルクス王の警備だよ。王の周りには常に危険が伴うからな。マルスたちが潜るのであれば迷宮はマルスに任せて、俺にはバルクス王の警備につけということだ」
常に危険な目に遭うのか……王になんてなるもんじゃないな。
であれば仕方ない。これより上層階はさらに冒険者の数が減るだろうから、必然とトラブルも減るはずだ。
スキャルの次に【大胃王】のメンバーと思われる者が続く。
「ち、ちょっと俺たちは用事を済ませてからここを出る。30分後くらいだな。マルスさんたちは先に行っててくれ」
何の用事かは聞く必要がなかった。急にクラリスたちを見たんだ。色々刺激されてしまったのだろう。
「お、俺たちはもう下りる。色々限界だからな。昨日はすまなかった!」
昨日俺が脅しをかけた冒険者が頭を下げる。
「分かりました。昨日の件は忘れましょう」
俺の言葉にホッと胸をなでおろす冒険者。
が、またも皆とは別の反応を示したのはビッグだった。
「オデは行くぞ! なんか力が湧いてきた! 今ならサイクロプスでもなんでも倒せるんだべ!」
どうやらモチベーションに代わるタイプのようだ。そのビッグに【大胃王】のメンバーが問いかける。
「ビッグさん!? 飯は!? 朝食分の肉がまだ3kg以上残ってますよ!?」
こいつ朝から3kgの肉も食うのか!? そりゃあポーターも必要なわけだ。
「オメェらで食っていいど!」
ってメンバーを置いてついてくるつもりか!?
「じゃあマルスさん、ビッグさんをお願いします。俺たちもすぐに追いかけるので」
【大胃王】のメンバーからもお願いされる……まぁいいか。道案内が必要だしな。
「分かりました。それでは魔物を倒しながら進むので追いかけてきてください。でもなるべく早く来てくださいね。リポップしてしまいますので」
俺の言葉に親指を立てて返事をするメンバーたち。早く出て行ってやらないと彼らももたなそうだ。
スキャルに【大胃王】、その他の冒険者を残して安全地帯を出ようとすると、這う這うの体で冒険者2名が駆け込んできた。
「ど、どうした!?」
その2人が普通ではないことを察したスキャルが問いかける。
「7層の魔物……グレイトホーンたちが6層にまで下りてきて……6層にいたパーティが飲み込まれた! 俺たちの仲間もここに来るまでに……あと安全地帯に1つのパーティが取り残されている! ただ……」
駆け込んできた冒険者が途中で言い淀む。
「ただなんだ!?」
急かすスキャル。
「ちょっとおかしいんだ……魔物が溢れてきているというよりかは……」
言葉を一生懸命選ぶ冒険者。溢れてきているのでなければ……もしかして……。
「何かに怯えているような感じですか!?」
俺の言葉に冒険者が手を叩きながら答える。
「そう! まさにそんな感じだ!」
冒険者の言葉に思わず目を合わせる。
「マルス、もしかして?」
「ああ、迷宮飽和ではないのかもしれないな」
 










