第463話 二角獣
一角獣の体表が深紫に変化すると同時に、あれだけやせ細った体には筋肉が躍る。
空を突き抜けるかのようにまっすく螺旋を描いていた角は2本に割れ、黒く艶めき、曲線を描く。その黒い角からは魔力が滾り、禍々しいオーラを放っていた。
「クラリス! 逃げろ!」
一角獣から二角獣の変化を目の当たりにしたクラリスは驚きのあまり動けずにいた。
未来視では黒き稲妻をアーリマンに向けて放つ二角獣の姿。そしてアーリマンに着弾したと同時に爆風に吹っ飛ばされるクラリスが視えた。
叫ぶと同時に、鳴神の法衣に雷魔法を付与し、神威を発現させ、二角獣の前で身動きできずに凍りついたクラリスの下へ駆ける。
クラリスは放心状態で、俺の声が届いてなかったのだ。
全ての魔力を推進力に変えた結果、二角獣の2本の角から黒き稲妻が放たれる前にクラリスの下へ辿り着く。
放心状態のクラリスを押し倒し、覆い被さると同時に、二角獣から黒い閃光が放たれた。
耳をつんざく轟音と共に、爆風が吹き荒れる。
クラリスに覆い被さりながら振り返ると、とっくに死んでいるアーリマンになおも黒い稲妻を放ち続けている二角獣。顔からは怒りや憎しみ、そして絶望が滲み出ていた。
鳴りやまない轟音と爆風の中、クラリスを抱きかかえ、この場を離れようと試みると、焦点の定まらなかったクラリスと目が合う。
「ごめんなさい! もう大丈夫だから!」
「一旦ここから離れるぞ!」
いまだアーリマンに対し死体蹴りを行う二角獣を横目に、静かに距離を取る。
「マルス君! このまま逃げるわよ! レプリカにいる者たちを全員退避させて、ウオールの街からレプリカに繋がる橋を落とすわ! 時計塔の裏には避雷針が埋め込まれているからウオールの街まで行けば一安心よ!」
轟音の中、遠くからカストロ公爵が俺たちに向かって叫ぶ。
ウオールの街の時計塔の裏……つまりレプリカ側にぎっしりと埋め込まれた剣山のようなものは、やはり避雷針だったのか!
「はい! 分かり……」
返事をしてクラリスと一緒に遠く離れたカストロ公爵たちの下へ駆けようとした時だった。視界が真っ黒に染まったのは。
「――――っ!?」
刹那、全身を黒い稲妻が駆け巡る……が、全く痛みを感じない。それはクラリスも同じようで、不思議そうに自身に伝う黒い電気を見つめている。
やはり俺たちには雷は効かない! であればここで撤退はない!
俺とクラリスが雷に撃たれたにも拘わらず、平気な様子でいることに驚きを隠せない姫、カストロ公爵、それに双子の4人。
対照的に【黎明】女性陣は、俺とクラリスに雷の影響がないと見ると、顔がパッと晴れやかに輝く。
「カストロ公爵! 前言撤回します! 僕は二角獣を倒しに行きます! みんな! カストロ公爵と共に逃げてくれ! 見ての通り俺に雷は通用しない!」
「私もマルスと一緒に戦います! エリー! 絶対にみんなを安全なところまで避難させてね! 任せたわよ!」
姫たち4人は何度も目を擦り、俺たちを見る。どうして雷に撃たれて無事なのか疑問なのだろう。その4人を【黎明】女性陣が避難させると、二角獣の方に振り返る。
二角獣は俺たちがもう死んだと思ったのか、ターゲットをキングアーリマンに移していた。
キングアーリマンはすでに黒き稲妻に包まれ、飛ぶことも叶わず、地に落ちていく最中だ。翼に生えていた無数の目は全て蒸発し、本体の目玉は冷たく虚ろ。
「行くぞ! クラリス!」
俺の檄にクラリスが手を繋いで応えるクラリス。ちなみに俺の反対側の手には賢者様。クラリスは二角獣に集中しすぎて賢者様を気にする余裕がないのかもしれない。
その二角獣はというと、落下するキングアーリマンになおも黒い稲妻を放っている。その隙に近づき、一気に勝負を決めようと、クラリスから手を離し、雷鳴剣を抜く。
が、風魔法で音や匂いを消して近づいたにも拘わらず、あっさりと気づかれてしまった。
一角獣も万全であれば、このくらいの警戒心や察知能力があったのかもしれない。
しかし二角獣からは動揺の色が読み取れた。なぜ動けるのか? なぜ生きているのか? と思っているのかもしれない。
再度俺たちを二角獣の雷が襲うが、当然ダメージは0。
それでも雷を撃ち続ける二角獣。もしかしたら攻撃は雷だけか?
情報を得るために鑑定をする。
【名前】-
【称号】-
【種族】二角獣
【脅威】S
【状態】良好
【年齢】0歳
【レベル】10
【HP】202/202
【MP】6/6
【筋力】78
【敏捷】84
【魔力】74
【器用】74
【耐久】104
【運】1
【詳細】怒りと煩悩の化身。雷吸収。状態異常強耐性。
脅威度S! カレンから聞いてはいたが初めて見た……が、ステータスはかなり低い。それでも脅威度がSなのは雷の攻撃があるからだろう。
そして疑問に思っていた雷だが、ハチマルが火を吐くように魔法ではないらしい。
「二角獣のステータスはどんな感じ?」
雷に撃たれながらも冷静に質問を投げかけてくるクラリス。詳細なステータスを伝えると、納得した表情で頷く。
「ステータスは低いが油断はするな! 一気に畳みかけるから援護を頼む!」
雷鳴剣を構えると、クラリスがそれを止める。
「待って! どうにかして一角獣に戻らないかな?」
「一角獣に!? 無理だと聞いてはいるけど……」
「でもそれって倒すしかないからではなくて!? 私たちなら雷の攻撃は効かないわ。ステータスも勝っているし、2対1よ?」
確かに俺たち2人で戦えばそんな危険な相手でもない。エリーたちも避難している今、他を気にしなくてもいいしな。
「分かった。足掻くだけ足掻いてみるか……でもどうする?」
「この雷からは負の感情が伝わってくるでしょ? これを吐き出し続ければ……それにもう1つ……」
綺麗な顔を歪めながらも、水晶のように澄渡った瞳は俺の左手を捉えていた。










