第462話 変色
雷だと!? 魔法なのか!? それともハチマルが火を吐くように、MP消費なしで発生させられるものなのか?
それにもう1つ疑問が。俺とクラリスは俺の雷魔法は無効化できるが、一角獣の雷は無効化できるのか? 俺の雷は金色。対して一角獣の雷は青白い。もしもできないとしたら……。
「クラリス! 下がれ! みんなを結界魔法で守ってくれ!」
こう言えば下がってくれるだろうと思ったが、クラリスも気づいていた。
「いいえ、私も残るわ! あの雷を私たちが無効化できるか分からないもの! それに女淫魔はどうするの?」
たった今、誘惑されたばかりなのに、あまりにも一角獣の放つ雷が強烈だったので忘れてしまった。そうだ、賢者様は今ハチマルが咥えているんだった。
俺が賢者様を持てば、クラリスは近寄れない。俺のことだけを考えればこのままの方がいいが、クラリスだけは……。
「何を考えているのよ! 一蓮托生なんだから!」
その綺麗な瞳の奥には、俺に何かあったら後を追うといった意志がこめられているように感じた。
「分かった! では頼む! アーリマンだけではなく、一角獣の方も注意してくれ! 俺たちを狙っているかもしれない!」
正確にはクラリスを狙っている気がする。今もクラリスをじっと見つめているしな。
「ええ! マルスも女淫魔には気をつけてね!」
と、言われても、どう気をつければいいのか分からない。いつの間にか誘惑されているからな。結局はクラリスの近くにいないといけないということか。
「みんな! 一角獣が近づいてきている! キングアーリマンの状態異常も厄介だ! カストロ公爵とフランさん、フレンさんと一緒に安全な所まで下がってくれ!」
カレンとミーシャの援護がなくなってしまうのが痛いが、皆の安全の方が大事だ。
エリーだけはなかなか俺の指示に従おうとしなかったが、
「エリー! マルスは私が守るから! エリーがそこにいるとマルスが集中できないの! 分かって!」
クラリスの言葉により、皆と一緒に後方に下がってくれた。
これで一角獣とアーリマンたちだけに集中することができる。
一角獣が俺たちに近づいてくる中、キングアーリマンは一角獣の背後に移動しながらアーリマンたちを召喚する。
いくらなんでも迂闊すぎるだろ!? 一角獣は警戒心強いんじゃなかったのか!?
クソ! 一角獣さえいなければ、アーリマンたちにだけ意識を向けることができ、今頃とっくに倒しているはずだ。
今も一角獣の背後から迫るアーリマンたちを俺とクラリスが必死になって仕留めている。だんだん一角獣に対して腹が立ってきた。
が、その思いも一角獣が近づくにつれて薄れてくる。
「ねぇ!? マルス? 一角獣……大丈夫?」
クラリスも十数メートル先で足を止めた一角獣の表情を見て感じたようだ。
こいつ……もしかしたらさっきの雷は、最後の力を振り絞って放った攻撃なのかもしれない。そう思えるくらいに衰弱しているのが見てとれた。
そしてそれ以上近づいてこないのは、俺がいるからのような気がする。
一角獣はもう戦闘には参加できないだろうし、休ませないといけない。しかしどうすれば?
するとクラリスが何か覚悟を決めたような表情をする。
「一角獣は女性を求めているのだと思うの! でもマルスがいるから来られない……だから私が少し離れて一角獣を呼び寄せるわ! 休ませながらお水も飲ませてあげたいし! 悪いけどマルスはあの杖を持ってアーリマンたちと戦ってくれない!?」
一角獣がクラリスに対して攻撃をしないかは賭けとなってしまうが、クラリスの提案がベストな気がする。
カストロ公爵やカレンの話を聞く限り一角獣がクラリスに対して牙をむかないだろう。
何より俺自身、確信があった。クラリスをあのような目で見つめる生き物が、危害を加えるわけがないと。あの目はブラッドやコディと同じ目をしている。おそらく俺とも同じだ。
「分かった! 何かあったらクラリス、クラリスが一角獣の首を刎ねてくれ!」
俺の言葉に頷き、去っていくクラリスを目で追いかける一角獣。
クラリスは先ほどカストロ公爵が座っていたところへと向かう。
俺とクラリスの距離が離れると、先ほどまでの弱々しい姿が嘘のように軽やかな足取りでクラリスの下へ歩いていく一角獣。
それに先ほどから舌を出し、クラリスの匂いをずっと感じているであろう尻尾の蛇からも嬉々とした感情が伝わってくる。蛇ってこんなに感情を表現するんだな。
その一角獣を背後から狙うキングアーリマンに対し、正対する。俺の後ろにはクラリスと一角獣。今度こそ決着をつけてやる!
召喚されたアーリマン毎、キングアーリマンにダメージを与える。正直負ける要素はない。
だから背後のクラリスの方にも少しだが視線を配ることができる。
一角獣はすでにクラリスの目の前。クラリスは腰を下ろし、一角獣を迎え入れる体勢ができている……が、いつまで経っても一角獣はクラリスの膝に頭を乗せない。
何度かクラリスが自身の膝をポンポンと叩き、おいでというリアクションを取るが、一角獣はそれを見ているだけ。すると、それを遠く離れたところから見ていたカストロ公爵が、クラリスにアドバイスを送る。
「クラリス! さっき私がやったようにスカートの端を持ち上げて!」
クラリスが頷き、スカートの端をゆっくりと持ち上げる。白い太腿が露わになり、もう少しでという所で目がクラリスと目が合うと、恥ずかしくなったのか急に頬を赤らめるクラリス。
「マルス! 戦闘に集中して!」
た、確かに……だが、1つだけ弁明させて欲しい。クラリスのそれに目が奪われてしまったのは、下心からではない。芸術、つまりアートとして興味があったからだ。
だってそうだろ? 俺は賢者様と手を繋いでいるんだ。煩悩などあるわけがない。
とにかく、俺が素晴らしい芸術を見られないのはすべてこいつらのせいだ! 俺の風魔法にも力が入る。
しかしクラリスから視線を切ったのが失敗だった。アーリマンたちを虐殺すること数秒後、突然泉から何かが飛びあがった音が聞こえた。
瞬時に振り返れば、クラリスの膝に頭を乗せようとしていた一角獣に、泉から飛び立ったアーリマンのウィンドカッターが容赦なく捉えていた。
一角獣の体から赤い血吹雪が上がり、美しい旋律の様な鳴き声が上がる。
と、同時に一角獣の体に異変が起きた。
体表を覆う雪のような真っ白な毛が、次第に深紫へと変化していったのだ。










