第455話 本領発揮
「何これ!? なんで巻きついてくるの!?」
幻獣の森の中を歩いていると、後ろからミーシャの声が。振り返るとそこには植物の蔓のようなものが、ミーシャの脚に巻きついていた。
蔓は徐々に上がっていき、すでに先端は膝にまで到達している。このままスカートの中にまで迫ろうかというときにエリーが蔓を斬る……が、今度は別の蔓がエリーの足を伝う。
「大丈夫か!?」
俺が近づこうとすると、
「大丈夫! 来ないで!」
エリーの足に巻きついた蔓を斬るクラリスに拒まれる。クラリスに来ないでって言われると傷つくな。
「大丈夫です。あれはマルマル草といい、絡みつくだけで毒はないので安心を」
「マルス様。私たちは私たちの仕事をしましょう」
近くを歩いていた双子が心配する俺に教えてくれる。マルマル草? その名前からすると1番危ないのはクラリスでは……と思っていると、クラリスの両脚に勢いよく巻きつくマルマル草。それを女性陣みんなで引き剥がす。
はぁ……後でみんなに名は体を表すとかって言われるんだろうなぁ。まぁ今考えても仕方ないか。フレンの言う通り、自分たちの仕事をしなければならない。
自分たちの仕事というのは、森の中の女淫魔を倒すことだ。
ハチマルをカストロ公爵の近くに置くことによって、俺がいなくてもカストロ公爵付近の索敵は万全。だから俺たちは安心して森の中を徘徊できる。もっともカストロ公爵からそんなに離れることはしない。カストロ公爵を中心に半径100mくらいの女淫魔を倒している。
双子の2人は元々女淫魔の匂いに強かったらしく、昨日こそ耐えられなかったものの、今日はもう慣れたようでハンカチを手にしていない。
俺はというと、賢者様を左手に、右手には雷鳴剣。そしてポケットにはクラリスのハンカチ。賢者様がいる限り大丈夫だと思うが、念のため先程クラリスから受けとっていた。
「もう少し進めば幻妖花が群生する開けた場所に着きます」
「そこで休憩を取りましょう」
いつもよりも双子が話しかけてくれる機会が増えたように思う。朝練を経てようやく好感度アップ作戦が実を結んだのかもしれない。
双子に導かれるまま幻獣の森の道なき道を歩く。その双子、腰まであろうかという草をかき分けどんどん進むが、2人の足が突然止まった。
「どうしました?」
2人に問うと、
「マルマル草が両足に……」
「私も……周囲の草が邪魔でなかなか斬れなくて……」
マルマル草が巻きついて動けなったようだ。
草をかき分け2人の脚を見ると、マルマル草が2人の両脚に巻きついていた。しかもマルマル草はまだ上を目指しているようだ。
「2人共、動かないでください。マルマル草を斬るので」
動かないように指示をし、雷鳴剣を一閃。周囲の草と共に双子に巻きついていたマルマル草も斬る。
「ありがとうございます」
「いつもすみません」
怪我なく無事に助け出すことができた。お礼とばかりに微笑んでくれる2人。これ以上ポイント稼ぐ必要はなさそうだ。
「いいえ。困ったときはお互い様です。先に進み……」
と思ったら今度は俺にマルマル草が巻きついてきた。しかもズボンの裾の中から入ってきやがる。
くそ! マルマル草という名前だからてっきり男の俺には巻きついてこないと思っていた。くすぐったい……このままでは相棒までぐるぐる巻きに。
「如何なされましたか?」
「まさかマルス様も?」
俺を心配してくれる双子。
「はい、どうやら僕のズボンの中にも……でも大丈夫です。すぐに斬りま……うわぁぁぁあああ!!!」
ウィンドカッターで足に絡まったマルマル草を斬ろうとすると、賢者様を持つ左手に気持ち悪い感触が伝わる。
その感触に思わず賢者様の手を放してしまった。
どうやら賢者様の布の下からマルマル草が侵入してきたようだ。
先に賢者様を救出しようかと迷ったが、俺はすぐに息を止め、ポケットからクラリスからもらったハンカチを取り出す。
慌てて口元に当てるとフローラル……いや、クラリスのいい匂いが体全体に行き渡る。ああいい匂いだ。ずっとこうしていたい。
「た、大丈夫ですか?」
「何かできることはありませんか?」
一心不乱にハンカチの匂いを嗅ぐ俺に対し、心配する双子。クラリスの匂いに飢えていたのか取り乱してしまったようだ。
「はい、ちょっと杖を覆う布の中にもマルマル草が入ってきてしまったようで。大丈夫……うっ」
クラリスの匂いに夢中になり、足を伝ってくるマルマル草のことを忘れていた。相棒が悲鳴を上げている。
すぐ足元にウィンドカッターを放ち、ズボンの中に侵入してきたマルマル草を慎重に取り出す。一気に引き抜いたら相棒がのたうち回るだろうからな。
ふぅ。すまなかったな、相棒。もうお前は救われた。俺に感謝しろよ。さて次は賢者様の救出を……と思ったら驚くべき光景を目にする。俺が相棒を救出している間に、双子がマルマル草から賢者様を救おうとしているのだ。
すでにマルマル草の根元を斬り、賢者の杖に巻きついていたマルマル草と、だらしなく巻かれている布を取ろうとしている2人。
「フランさん! フレンさん! その杖は大丈夫です! 離れてください!」
「大丈夫です。これくらいはお礼をさせてください」
「いつもお世話になっているので」
笑顔で答える2人。俺から視線を賢者様に戻し、アイコンタクトを取り頷きあうと、絡まっていたマルマル草と一緒に布を一気に巻き取る。
賢者様も早く脱ぎたかったのか、驚くほど簡単にマルマル草と布が解けた……と同時に双子のあらん限りの悲鳴が幻獣の森にこだまする。
「「きゃぁぁぁあああぁぁぁ……」」
叫んだと思ったら泡を吹いて気絶する双子。無理もない。この2人は賢者様に触れているのだ。
「どうしたの!?」
双子の悲鳴を聞いたカストロ公爵が、姫以外の女性陣を伴い駆け寄ってくる。
「ええ……実は……」
説明しようとしたのだが、よほど双子が心配なのか、俺の説明を聞く前に気絶する双子の下に走るカストロ公爵。
「あっ……! そこには……」
制止するのが遅かった。
3人目の犠牲者が出たのは言うまでもない。










