書籍2巻発売記念SS
注意!
これは書籍版設定です!
書籍、電子書籍の書き下ろし短編『手紙』のきっかけとなる話です。
ステータス・才能・名称がwebと大きく違うので、それでもいいよという方はお読みください。
(前回みたいに割り込みでやろうと思ったのですが、PVがバグるのでこの方法にしました。ちなみに前回は割り込み使ったらPV100万超えましたw)
――――とある昼下がり。
「ちょっ!? エリー! さっきからどこを狙っているのよ!?」
アルメリア迷宮から戻った俺たちはいつものように庭で模擬戦をしている。
「……ダメージ……少ない……」
クラリスとエリーの模擬戦は接近戦だとエリーに軍配が上がる。
エリーの掌底はクラリスの体でもっとも柔らかいであろう部分にばかり命中している。いくら柔らかくても心臓に近いその部分を本気で殴るとダメージはあるだろうが、しっかり加減をしている。女性同士だからその辺の加減は分かっているのだろう。
「マルスもそうやって見てないで、なんとか言って?」
俺に助けを求めるクラリス。
「分かった。じゃあエリー。次は俺だ」
クラリスの要請に従い、エリーと対峙する。
クラリスは訓練用の剣を持って戦っていたが、俺は素手。エリーの体術の訓練に付き合っていたら、俺も体術を習得し、それ以降は毎日こうやってエリーとマススパーを行っている。
俺たち2人には掌底やパーリングには力を込めないという身内ルールがある。パーリングして相手の腕に触れたら、相手は腕を引っ込めないといけない。投げ技や寝技、締め技もその形までいったら勝ちで、決めてはならないというルールもだ。
ステータスは俺の方が上だが、敏捷値だけは僅差。体術レベルは当然エリーの方が上。まぁエリーの体術の才能はAだからな。それは仕方ない。
そんなエリーとのマススパー、最近はめっきり勝てなくなった。今日こそは勝つぞ! と、気合を入れて勝負に臨む。ちなみに未来視と風纏衣は使わない。あれを使ってしまうとさすがに勝負にならなくなる。
クラリスの開始の合図と共に、軽快なフットワークで近づいてくるエリー。
昨日は迫ってくるエリーに掌底を合わせたら、綺麗に一本背負いの形を作られ、俺の腰が浮いたところで勝負あり。
だから今日はエリーの掌底を躱してからカウンターを狙う!
しかしいくら待てどもエリーから打撃技が出てこない。このままだと懐に入られる。懐に入られたら俺が圧倒的不利……何せエリーは打撃、投げ技の他にも寝技、締め技を習得しているが、俺はまだそこまで至っていない。
であれば、餌を撒いて、手を出させればいいだけのこと!
軽いジャブを繰り出し、餌を撒くと、エリーがそれに反応する。相変わらずの反応速度。エリーは俺の右腕を躱しながら、俺の右手を取りにくる。
昨日と同じ手は喰らわない! 素早く右腕を引き、左手でエリーの綺麗な顎に触れようとすると、俺の右腕を狙っていたはずのエリーの右手が俺の襟を掴む。
ヤバい! 背負い投げか!?
そう思った俺は投げられないように踏ん張ろうとしたが、次の瞬間、前に引っ張られると思ったら、エリーの左手が俺の首に回り、俺の目の前に大きく開いたエリーの股が迫る。
えっ!? と思ったときにはエリーの両脚は俺の首の後ろに回り、目の前にはエリーの股間が。
飛び込み三角……まさかの技に為す術なし。
「……大丈夫……!?」
すぐに足を解かれ、勝者に心配される俺。
「あ、ああ……びっくりしちゃって……でもあれは男にはやらないほうがいい」
色々問題がありそうだからな。
「……うん……寝技、締め技……マルスだけ……」
確かに【黒い三狼星】相手のときには打撃だけで圧倒している。そういえば俺がエリーに勝っていたときは、すべて打撃戦オンリーだったな。エリーなりに工夫しているということか。
「よし、じゃあもう一度だ。今度こそ負けないからな」
再度エリーに挑もうとすると、屋敷にいたマリアから声がかかる。
「マルス、クラリス。手紙が来ているわよ」
俺とクラリスに手紙? クラリスの両親のグレイとエルナかな? クラリスがここに来てからというもの、しょっちゅう手紙のやり取りをしているからな。
しかし、差出人の名前は違った。一緒に奴隷として売られそうになったエルフの子……ミーシャからの手紙だった。
すぐに封を開け、クラリスと横並びで手紙を読む。2人で手紙を覗き込むので、クラリスとの距離が近くてドキドキする。
「なになに……お元気ですか? 私は元気です……だって。なんか急によそよそしくなっちゃったね。でもこれ一生懸命書いたんだと思うな。気持ちが伝わってくるもの」
クラリスが声に出しながら微笑む。
きっとミーシャは最近字を覚えた……もしくは途中なのだろう。誤字脱字が多く、ところどころサーシャが赤ペンを入れているが、クラリスの言ったように、手紙からは感謝の気持ちが伝わってくる。
「そうだな。何日もかけて書いてくれた手紙かもしれない。しっかりと読まなきゃな」
2人でミーシャの手紙を声に出しながら読む。
ミーシャは俺たちと別れた後、魔法の訓練をし始めたとのこと。ミーシャには風魔法と水魔法の才能があり、とちらもCだった。サーシャも近くにいるから、最高の環境だな。
やはりリスター国立学校に進学するらしく、暗にそこで会おうという言葉が含まれていた。
「そういえば私たちがリスター国立学校に行くのって伝えてなかったわね。返事を書かない?」
「ああ、そうだな!」
クラリスの提案に乗っかり、早速返事を書くことになったのだが、ここで思わぬことが。
「……私も……手紙……出す……」
なんと、ミーシャのことを知らないエリーも手紙を出すと言い始めたのだ。同じ学校で同じクラスになるかもしれないから、今のうちに友達を作っておこうとしているのだろう。
各々部屋に戻ってミーシャへの返事を書く。エリーは字を読むことはできるようになったが、書くことはまだ苦手だ。しかしクラリスとエリーは大きな部屋を一緒に使っている。分からないことがあれば、クラリスに聞くだろう。
――――翌日の朝食時。
「クラリス、エリー。手紙はもう書けたか?」
昨日のうちに手紙を書き終えた俺が2人に聞く。
「ええ。私はバッチリよ。でもエリーが……」
ん? どうしたんだ?
「……もうちょっと……昼まで待って……」
朝食を済ませ、すぐに部屋に戻るエリー。その間俺とクラリスはアルメリア迷宮でデートを楽しみ、昼になったのを見計らってエリーを迎えに行くと、そこにはどこかスッキリした表情のエリーが。
「もう大丈夫か?」
「……うん……バッチリ……!」
俺とクラリスはエリーのVサインの意味を知ることはなかった。










