第424話 とっておき
「うぉぉぉおおお!!!」
ディクソンの背後から迫るそいつに、ディクソンの意識が向かわぬよう大声を出しながら突撃する俺に、またも右手の悪魔の爪で応戦するディクソン。
ようやく左手の悪魔の爪を解けたヨハンも慎重にディクソンに斬りかかる。
「何度やっても同じこと!」
確かに俺とヨハンの2人だけでは決定的な瞬間は作れないかもしれない……だが、3人であれば!
俺はただただ凌げばいいだけ。しかもディクソンの右手だけを相手にすればいい。
先ほどの5本の爪が伸びてくる攻撃さえ警戒していれば、二刀流にライナー仕込みの流水、ウィンドカッターで凌げる。
ヨハンも先ほどまでとは違い強引に斬りかかることなく、隙を窺いながら死神の鎌を振る。
そんなヨハンをディクソンはかなり警戒し、俺よりもヨハンに意識を向ける。
当然といえば当然だろう。何しろ死神の鎌をしっかりと振り切ることができれば、悪魔の爪とはいえ真っ二つに出来るのだから。
「ウリゴール。やけに僕の攻撃を警戒しているじゃない? もしかしてビビってる?」
こんなときにも軽口を叩くヨハン。
「自惚れるな! お前を警戒しているわけではない。その鎌を警戒しているだけだ」
ヨハンの挑発に苛立ちを見せるディクソンは、俺を攻撃していた右手すらヨハンに向けようとする。
そんなディクソンの右側に回り込み、ディクソンの視界から消えるように動くと、視界に入っていればこそ蔑ろにできた俺にも注意を向けないといけないと思ったであろうディクソンは、仕切り直そうとバックステップを踏む。
完全にディクソンの注意は俺とヨハンにだけ向けられている。今がチャンスだ!
そいつも同じことを考えたのだろう。しかし何を思ったのか叫びながらディクソンに剣を突き刺そうとする。
「きょぇぇぇえええ!!!」
バカ! 何のために隠密行動をしていたんだお前は!?
が、この奇声が思わぬ効果を発揮する。
真後ろからの突然の奇声に驚くディクソン。不意打ちだとすぐに気づいたのだろう。すぐに振り返るが、焦点がそいつに合わないため、キョロキョロ見回す。
その隙を見逃す俺ではない! 悪魔の爪を潜り抜け、ディクソンの右腕に雷鳴剣で斬りかかる。
「ぐっ!?」
ディクソンの反応がコンマ何秒遅れていれば、完全に斬り落とせたが、寸前の所で腕を引かれた。しかしディクソンの右腕からは黒い血が噴き上がる。
と、同時に背後に迫っていた人物……ダメーズがディクソンの背中に剣を突き刺したが、非常に浅かった。
ディクソンの背中に浅い傷を残し、ダメーズの剣は地面に落ちる。ダメーズの筋力、剣術が低いのか!? それともディクソンの体が硬いのか!?
もしかしたらダメーズは剣を振うよりも、奇声を発していた方が役に立つかもしれない。
ディクソンも背後に誰かいるとは分かったようだが、浅くとはいえ刺されてもなお、ダメーズのことが見えていないようだ。
ここでヘルファイアでも撃たれようものなら、たちまち暗黒蟲がダメーズを襲うだろうが、先程からヘルファイアを放つ際は両手を前に掲げながら放っていたので、接近戦をしている間はそれができないのかもしれない。
俺と背後のダメーズを気にしているディクソンにヨハンも迫るが、ヨハンの攻撃だけは意地でも喰らわないという強固な意志がディクソンから感じられる。
ヨハンの攻撃、あるいはこの鎌には何かあるのかもしれない。
ダメーズは地面に落ちた剣を拾い、再度ディクソンに斬りかかろうとタイミングを見計らっている。
「マルス君! このまま押し込むぞ! 暗黒魔法は消費MPが少ない代わりに弱点がある!」
雷鳴剣で斬ったことにより、精彩を欠くディクソンの右手の悪魔の爪と剣戟を結んでいると、ヨハンが隙を窺いながら叫ぶ。
「弱点!?」
「血だ! 暗黒魔法は血を媒体とする魔法! ディクソンはかなり血を流している! MPはあっても血が足りなければ暗黒魔法は使えない! だから悪魔の爪もいずれは出せなくなる!」
なんと!? 確かに言われてみればそうだ! これだけの悪魔の爪に暗黒蟲。かなりの血を消費しているだろう。
「ちっ! 小癪な! ならばこれで決めてやる!」
再度右手の悪魔の爪を長く伸ばし、俺の周囲に悪魔の爪が展開される。
先ほどのようにバックステップをと思っていたが、未来視が先ほどと違う未来を視せた。
ディクソンは悪魔の爪で俺を攻撃することなく、ただその場に悪魔の爪を地面に切り離すと、ある魔法を唱える。
「瘴気!」
すると、切り離した爪や周囲で死んでいる暗黒蟲、そしてディクソンの黒い血が蒸発し、黒い霧が辺りを包む。
黒い霧……思い出すのは不浄王。クラリスのハンカチの出番かと思ったが、すぐにヨハンがそれを否定する。
「マルス君! これは皮膚からも猛毒が侵入してくる魔法だ! 無味無臭でいつ吸い込んだが分からない! 距離を取るぞ!」
ハンカチの出番ではなく少し残念な気もしたが、今はそんなことを言っている場合ではない!
無味無臭……いつ毒を吸い込んだか分からない点でいえば、不浄王のそれよりも凶悪だ!
だが俺はここで後退するわけにはいかない!
なぜなら範囲内に……ディクソンの背後にダメーズがいるから!
ダメーズの足では絶対にこの瘴気から逃げ出せない!
頼むクラリス! エリー! 俺を守ってくれ!
2つ守護の指輪に願いを込め、瘴気の中心へ突っ込む。
睡眠魔法も一瞬意識を失うだけで済んだ。明らかに瘴気の方がヤバい魔法だが、なんとなく俺は大丈夫な気もしていた。
そしてその予想は見事に当たった。
「なっ!? 神聖魔法使いは瘴気すら効かぬのか!? しかしヨハンが下がった今、お前だけに集中できる!」
ディクソンは左手の悪魔の爪のみで俺を迎え撃つ。右手の爪は伸びていない。ヨハンの言ったとおり、血が尽きたのか!?
未来視と風纏衣を使い続けたせいで、もう俺のMPも500を切っている。当然雷魔法はもう撃てない……であれば、今できるすべてのことを……!
この戦闘で初めて雷鳴剣を金色に光らせる。つまり雷魔法を付与したのだ!
死神の法衣で状態異常を受け付けないはずのヨハンが瘴気を嫌がり下がったので、バレるリスクは少ない。
左手の悪魔の爪を雷鳴剣で弾くと、金色の魔力が雷鳴剣から悪魔の爪に伝う。
「なっ!?」
状態異常にはならなかったが、それでも雷の刺激に焦るディクソン。
隙あり!
そこに氷紋剣で追撃をかける……しかしその瞬間、未来視がディクソンの右手の爪が伸び、俺の腹を貫通する未来を視せた。
(ウィンドカッター!)
なんとかウィンドカッターで悪魔の爪の軌道を逸らすのがやっと。
それでも足に悪魔の爪が刺さる未来が。
しかしここであの声が俺を救った。
「きょぇぇぇえええ!!!」
再度の奇声に思わずたじろぐディクソン。結果、悪魔の爪は俺の足を捉えることなく、地面に突き刺さった。
ディクソンの後ろには目、鼻、耳、そして口からも血を流すダメーズの姿。手には剣が握られていたが、もうその剣を振りかぶることもできず、ただ持っているだけ。
こいつ!? もしかして俺を助けるために!? 最後の力を振り絞っての奇声だったのか、血の涙を流すダメーズの目は虚ろだ!
しかしディクソンも一瞬怯んだが、すでに俺に注意を向けている。右手の悪魔の爪を切り離し、すぐに左手の悪魔の爪で応戦してくるディクソン。
いける! ディクソンの動きは全体的に精彩を欠いている。それは右腕だけでない!
ヨハンの言ったとおり、血が足りてないのかもしれない!
「うぉぉぉおおお!!!」
急所に届く悪魔の爪だけ弾き、あとはすべて被弾する覚悟で突っ込むが、ここで一番喰らいたくない魔法が右手から放たれる。
「スリープ!」
超至近距離でスリープを喰らうのはまずい! 一瞬でも意識を失ったら間違いなくゲームオーバー!
しかし右手はしっかりと俺を捉え、魔力で劣っている俺がレジストできるわけがない!
神威を使ったところで逃げ切れない!
「残念だったな。所詮は人間。我に届くはずがないのだ!」
スリープと同時に左手の悪魔の爪で俺を切り刻もうと、ディクソンが不敵な笑みをこぼしたときだった。背後からヨハンの声がしたのは。
「次元斬!」
声と同時にディクソンの首が刎ねられると、その首は地面に着地し、顔はまだ自分が首を刎ねられたことを認識していないようだった。
ダメーズの奇声に興味がw










