第423話 弱点
「じゃあ行くよ? マルス君。準備はいいかい?」
顔を歪ませ聞いてくるヨハン。手には禍々しい死神の鎌が握られている。
「……本当にやるのか?」
「だってこれしかないでしょ? 現にマルス君だってやろうとしていたじゃない」
ヨハンの持ち掛けた作戦。それはただただ突っ込むこと。俺を盾にしてだ。
「まぁそうだけど……」
1人の時は近づいて雷魔法という頭があったのだが、ヨハンの前では雷魔法が撃てない。もしも撃った場合、俺が転生者とバレ、近くにいるクラリスまで疑われてしまうからだ。
「だが逃げられたら?」
「それはないよ。だってウリゴールは僕とマルス君を捕えるつもりだから。それにマルス君はとてもユニークだからね。ウリゴールがマルス君に興味を持つのは理解できる」
確かにそんなことを言っていたな。
「じゃあ行くよ! マルス君!」
地面に落とした氷紋剣を手に取り、ディクソンに突っ込む。
「ヘルファイア」
またもディクソンはヘルファイアを唱え、距離を取ろうとする。
これもヨハンの言った通りだ。
ディクソンは生まれながらにして悪魔族。その圧倒的強さで生まれてからこの方、苦戦という苦戦をしたことがないという。だから戦い方も押し付ける戦い方しかできず、型にはまらない相手にはめっぽう弱いはずだとのこと。
【剣神】と戦わなかったのか? という疑問も少し残ったが、もしかしたら【剣神】が悪魔族を滅ぼしたと思っていた時には、ディクソン辺境伯としてザルカム王国の闇に紛れてきたのかもしれない。
封印の杖を使っていれば、きっと【剣神】の網にも引っ掛からないだろう。何せヨハンを学校時代に天眼で鑑定したことがあったはずだが、何も違和感がなかったからな。
ヘルファイアをウィンドインパルスで相殺しながら突っ込むと、すかさず悪魔の爪が飛んでくる。
悪魔の爪が飛んでくると、俺の後ろに隠れていたヨハンも、隣に来て死神の鎌で叩き斬ってくれる。
俺もウィンドカッターで飛んでくる悪魔の爪を傷つけ、減衰させて氷紋剣で氷の盾を発現させると、氷の盾は一撃で砕かれるが、弾き飛ばされることはなかった。
よし! これなら近づける! 1人だと悪魔の爪の連射に負けていたが、今はヨハンがいる。それに暗黒蟲に対してあまり気を使わなくて済むのもかなり大きい。先ほどまでは暗黒蟲に対してウィンドカッターを撃っていたからな。
しかもヨハンは明滅状態になっているようで、たまにディクソンがヨハンの姿を見失い、少し焦りの色が見える。
「おのれ! ちょこまかと! スリープ!」
ヤバい! と思ったときにはもうヨハンはスリープを喰らっていたが、特に眠る様子もなくディクソンに迫る。
「相当焦っているな? この死神の法衣に状態異常は効かないって知っているだろう? 年を取り過ぎてついにボケちゃった?」
動揺したディクソンを煽るヨハン。
ディクソンは状態異常の効かないヨハンからターゲットを俺に向ける。
「スリープ!」
今度は俺に対しスリープが飛んでくる。さっきも喰らったが、一瞬気を失うだけ。変に避けて勢いをなくすより特攻だ!
そのままスリープに突っ込みディクソンに迫ろうとすると、ヨハンが叫ぶ。
「マルス! 避けろ!」
え? と思ったときにはすでに意識を一瞬失ったが、一瞬気を失ったことで、未来視と風纏衣が解けていたくらいで、特になんの変化もなかった。
最初から未来視と風纏衣が解けると分かっていればそこまで怖くない。意識を取り戻しすぐに展開すると、ディクソンがさらに焦った表情を見せる。
「き、貴様! なぜこの距離で我の幻夢眼が効かぬのだ!?」
幻夢眼? 魔眼の一種か?
「マルス君には驚かされてばかりだよ。未来視にも映らないし、一瞬でも眠ってしまえば幻夢眼の餌食になるというのに」
走る勢いをそのままに感心するヨハン。今の攻防で今までにないくらいディクソンに接近することができ、死神の鎌が早速ディクソンを襲う。
「ふふふ。ウリゴールこんなにも近くで戦うのは初めてだろう? 今度は僕たちがウリゴールを追い詰めるば……」
振り切った死神の鎌に対し、ディクソンは左手の悪魔の爪をロングソードのように長く伸ばし、死神の鎌を悪魔の爪で受けると、死神の鎌を絡めとるように、鎌の根本、柄込み部分に爪を引っかける。
「――――っ!?」
振り切れない死神の鎌を引こうとしたところに、右手の悪魔の爪がヨハンの肩を狙う。
(ウィンドカッター!)
簡単にヨハンをやらせるわけにはいかない!
ウィンドカッターを撃つと、右手の悪魔の爪がヨハンを諦め、ウィンドカッターを弾く。
なんとか張り付かないと! 勝機は接近戦にしかない!
(ウィンドカッター!)
(ウィンドカッター!)
(ウィンドカッター!)
ウィンドカッターを連射しながら二刀流で迫る俺に対し、右手の5本の悪魔の爪で受けるディクソン。
まさか悪魔の爪をそんなに器用に使うとは!?
ヨハンは死神の鎌に左手の悪魔の爪を絡められ、なかなか攻撃に参加できない。そのおかげで左手の悪魔の爪が俺に向かうことはないのだが、これは予想外だった。
体術レベルが高いというのは分かっていたが、これほどまでだとは……。
「どうした? 2人がかりで接近戦をしかけてきてもこのザマか!? やはりヨハンは説教部屋がお似合いなようだな」
すっかり余裕を取り戻したディクソンが残酷な笑みを浮かべる。
「とりあえずはマルス、お前からだ」
この言葉を境に今まで俺が押していたにも関わらず攻守が入れ替わる。
ディクソンは右手を前に掲げ、手を広げると悪魔の爪を目一杯伸ばす。長さは5m以上。余裕で俺まで届く長さ。
未来視を発動していた俺はこの後ディクソンが何をしているのか視えていた。
その広げた手を器用に握り、俺を悪魔の爪で五方から斬ろうとしているのだ。
すぐに後方に大きくジャンプしたところに未来視が視せた光景は、握った爪を一本の大きな爪にし、俺を貫く未来だった。
ヤバい! この体勢では受けきれない! 着地する前に貫かれる!
咄嗟に雷鳴剣を持つ右手を右の腰に当て、ウィンドを唱えると、ギリギリ悪魔の爪を躱すことに成功した。
暴走魔法と呼んではいるが、緊急回避としてかなり使える。これはミーシャに教えを乞わないとな。
爪が伸びる前にすぐに距離を詰め、またもディクソンにまとわりつく俺に対し、ヨハンはまだ悪魔の爪から死神の鎌を解けない。どうやら悪魔の爪は巻き爪のように形を変え、完全にひっかけているようだ。
くそ! これではまた同じことの繰り返しじゃないか! 相当暗黒魔法を使わせているにも関わらずディクソンのMPはまだつきそうにもない。
もう今ライトニングを放った方がいいのか!? 決断するのであれば今だ! 今ならまだライトニング放ってもMPは枯渇しない!
どうする? ライトニングを撃つか?
雷魔法を撃つか迷っている時だった。俺の目にあるものが映ったのは。
は!? どうして? どうしてここに!?
どうやらヨハンも気づいている……気づいていないのはディクソンだけ? なぜ? なぜディクソンは気づかない?
だがそんな疑問よりも先にやることがある。
(ウィンドカッター!)
視界に映る暗黒蟲をすべて落とすと、未来視が視せた未来は意外なもので、同時にあの時の会話を思い出す。
「たまに目の前にいる俺が見えていない様子だった」
これから中二日か中三日での投稿となると思います。
改稿作業を開始しても投稿頻度が変わらないようにする措置なのでご了承ください。
 










