第41話 奴隷オークション
俺が目を覚ますとほぼ同時にミーシャも目が覚めた。
ミーシャはここがどこか分からなくて軽くパニックになりかけたが、俺とクラリスがいたので大事には至らなかった。
「ここはどこ?」
ミーシャの言葉に俺が答える。
「ミーシャ驚かないで聞いてくれ。俺たちは捕まったんだ。だけど今までミーシャが捕まっていた状況とは違う。俺たちはわざと捕まったんだ。ミーシャのお母さんを探すために」
「え? どうして? 早く逃げようよ!」
「落ち着いてくれ。ここで逃げるとミーシャのお母さんとまた遠ざかるかもしれないんだ。ミーシャのお母さんはミーシャを探しにこの街に来る可能性が高い。もう少しの辛抱だ」
「い、嫌! 早くここから逃げる!」
そう言ってミーシャは部屋を出ようとする。
しかし俺とクラリスは動かない。動かない俺とクラリスを見てミーシャが
「ど、どうして ?一緒に来てくれるんじゃないの?」
「ミーシャ、ちゃんと聞いてくれ。俺とクラリスはミーシャの為にやっているんだ。それに俺らにも予定がある。いつまでもミーシャと一緒に居られるわけではない。もちろんミーシャがお母さんと会うのを諦めて、俺たちともっと遠い場所まで来るのであれば、このまま一緒に逃げるのも可能だ。ミーシャはどうしたい?」
俺の言葉がかなりきつかったのかミーシャは突然泣き出した。
しかし俺は続ける。
「今ここからすぐに逃げ出して、お母さんを諦めて俺たちと一緒にくるか、俺たちと一緒にここに留まるか、あと実はもう一つある」
ミーシャが泣きながらこっちを見る。
「それは今ここから逃げて俺たちと別行動をとるかだ。また捕らえられたり、最悪魔物に襲われる可能性もある。どうする? よく考えて決めるんだ。ミーシャがしっかり考えた結果であれば、俺はミーシャに従うよ」
俺がそう言うと、クラリスが
「ミーシャ、混乱しているのは分かるわ。だけど落ち着いて、ミーシャのお母さんはこの街から北東にある迷宮都市ギルバーンにいた可能性があるの。だけどもうそこにはいないと思うの、今頃はきっと必死になってあなたを探しているわ」
クラリスのその話を聞いて、ジークとマリア、アイク、リーナのことを思った。
もうビートル伯爵に送ってもらった手紙は届いたかな。早く会いたい。
そう思うとミーシャの気持ちが少し分かってきた気がする。
クラリスがグランザムに居なければ、元日本人の同郷人がいなければ、俺も不安でたまらなかったであろう。
ミーシャが俺らを心から信頼できるのにはまだ時間がかかるだろうし。
「ミーシャ言葉が過ぎた。謝るよ。ただ信じてほしい。ミーシャを必ずお母さんの所に届けるから。頼む」
するとミーシャがより一層泣きながら
「私もごめんなさい。もうどうしていいか分からなくて……」
その後俺たちは夜に備えて話し合った。
結局俺たちには出来ることがあまりない。
その場の流れに身を任せてミーシャのお母さんが来たら全力でミーシャを届けることくらいか。
あと変な魔法には絶対にかからないようにしないといけないから、警戒中は常に魔力眼は使用していなければと思ったが、そういえば天眼のレベルが上がっていて、天眼の性能を調べていなかった。
天眼を鑑定すると未来視(弱)が使えるようになっていた。
これは0.5秒先の未来が見えるようだ。戦闘中に相手の攻撃が分かるのはありがたい。
しかし消費MPが1秒間で10も使う。魔力眼と風纏衣を一緒に使うと1秒間にどれだけのMPが無くなるんだよ。それに距離が遠くなると効果が薄くなる。つまり自分の周囲にしか効果が無いという事か。
全力戦闘以外では使わないほうがいいだろうな。
日も落ちてきて家の中がだいぶ騒がしくなってきた。
それにしてもこの部屋はとても不用心だ。この部屋には窓があるのだ。
普通に窓から家の外が見られる。
この家から手縄をされている人たちがどんどん出ていくのが分かる。
地下室でもあったのだろうか? すでに20人以上連れていかれている。
そして俺たちの部屋が開いた。
手縄をされるかと思ったが、特に何もされない。
ただ俺たちの周りには10人以上の護衛がついた。
俺はどうしても疑問だったので、俺らを取り囲んでいるごろつき冒険者に聞いた。
「なぜ、僕たちには手縄をかけないのですか?」
「ガキがどう足掻いても俺らからは逃げられないからな」
そうですか。と言って話を切った。こいつらミーシャ1人にも逃げられているのによほどのバカなんだなと思った。
装備すら取り上げない。クラリスの装備の凄さがこいつらには分からないのだろうか?
それとも装備含めての商品なのだろうか?
街の北西にある奴隷のオークション会場のような場所まで連れていかれた。
会場には貴族のような派手な衣服を着た奴らがたくさんいた。中には目隠しをした奴もいる。
会場の熱気が高まっていき、ついにオークションが始まった。
「さぁこれから奴隷のオークションを始めます。今日のラスト3人は近年まれにみる極上の商品ですので、皆さま奮ってご参加ください」
司会者のような男がそういうとまず1人の手縄をした男が俺たちがいるほうの反対側から出てきた。
俺とクラリスは思わず「あっ」と声を出してしまった。
「まず1人目は、ザルカム王国の東端の街のグランザムの街の元男爵の男です。元貴族だけあって教養はあるので、基本的な事は全て出来るはずです。さぁ金貨1枚からです。どうぞぉぉぉぉ!!!」
そこには手縄に口には猿轡をされたダメーズ・バーカーがいた。
必死になって何かを叫んでいるようだが、猿轡をされているので何を言っているか分からない。
会場の反応は異様だった。
「…………」
今まで騒がしかったのがダメーズの呻き声以外何も聞こえない。
恐ろしいほどの静寂がそこにはあった。誰も入札しなかったのだ。
司会者が慌てて
「さぁ金貨1枚ですよ! 元男爵ですよ! お買い得ですよ! どうぞ!」
と言っても誰も反応しない。痺れを切らした司会者は
「では銀貨5枚で! 破格です!」
必死になってダメーズをアピールする。
しかし会場は相変わらず静まり返っている。
ダメーズはもう呻き声すら出さず呆然としている。
結局ダメーズは買い取り手がいなくてそのまま俺たちの方へ戻ってきた。
戻るときのダメーズの顔を見て俺は少し同情してしまった。価値が5万円以下の男……
その後順調に奴隷オークションが進められていく。
大体金貨20枚〜30枚が相場のようだ。
女の方が高く、男は顔立ちが良かったり、ステータスが高かったりするほど高価なようだ。
そしてここからダメーズの地獄が始まった。
売買が成立すると必ずダメーズが出品されてそのたびに静寂が訪れるという事が行われた。
ダメーズ2回目の出品の際は銀貨4枚、3回目の出品の際は銀貨3枚とどんどん値段を下げても決まって訪れるのは静寂だった。
もうダメーズ何度目の登場となった時だろうか?
ダメーズの値段は鉄貨7枚にまで値が下がっていた。それでもまだ誰も声も手も上げない。
そしてまた肩を落としてこっちに戻ってきた。
奴隷にはなりたくないが、自分の価値がどんどん下がっていくことに絶望しているのであろう。
そんな時に俺と目が合った。
それまで死んでいたダメーズの目が急に生き返った。
「ぉまぇぇぇええええ!!!!」
奇声と同時に暴れ始めたが、急に変な笑い声をあげておとなしくなった。
多分俺も奴隷落ちしたと思ってざまぁみろと思っているのであろう。
まぁ何はともあれ元気が出てくれてよかったよ。
そしてついに俺の番となった。
「さぁ次に紹介しますのは、幼い子供ですが、躾がしっかり施されております。将来有望、そして金髪金眼で容姿端麗、まさに欠点が無い男の子! 金貨50枚からです!」
おぉー俺は金貨50枚からだ。
すると場内は今までにない盛り上がりを見せた。
あっという間に金貨100枚を超えた時に物言いが入った。
「主催者側に質問だ。あと何人いる? それによっては白金貨を出す用意がある」
と仮面で目を隠した男が言った。すると司会者が
「あと2人でございます」
一斉に見せてくれとその男が言って会場もそれを後押ししたので
「異例ではありますが、それでは後2人を紹介します。まずは銀髪に青い目、一度目にすると決して目を離すことが出来ないほどの美しさ。ミステリアスで聖女のような少女です。養女にすれば、ほかの貴族への有利な婚姻はもちろん、そのまま自分のものにしてもらっても結構です!」
そう言うとクラリスが出てきた。会場は狂乱状態だ。
「そして最後に紹介しますのは、緑の髪、赤い目をした少女です! そうこの子はエルフです! この地では非常に希少なエルフです! 今後このような商品が出回ることは無いでしょう!」
俺たち3人が舞台にそろうと最高のボルテージになった。
こそっと脇からダメーズも連れてこられたのにはもう誰も気づいていなかった。
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