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20章 青年期 ~リスター帝国学校 3年生 魔族編~

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第412話 帰還者

2032年6月6日0時過ぎ



「……ルス……マルス!」


 気が付くと誰かが俺の上に馬乗りになって起こそうとしている。


 なんだろう? と思い、目を開けようとすると、その前に俺の口に何かが触れる。


 間違いない。この柔らかさは唇……そしてこの唇の主は……。


 ゆっくり目を開けるとそこには予想したとおりの人物が、必死に俺の唇に吸い付いていた。


 その人物は俺が目を覚ますと嬉しそうな表情を見せて、唇を俺から離す。


「……おはよう。エリー」


 俺の上に跨っていたのはエリーだった。


「……私のキスで起きた……嬉しい……」


 よほど俺がキスで起きたのが嬉しいのか、おはようの挨拶を忘れている。


 まだ眠りについてから3時間も経っていないらしく、けだるさが残っていたが、エリーの格好を見てそれが吹っ飛ぶ。


「え、エリー! 取り敢えず着替えよう!」


 エリーはブカブカの俺のシャツ第1、第2ボタンと、下の方のボタンを留めてなく、上下とも黄色の下着が覗く。


 慌てて着替えを持ち、部屋の外で着替えようとすると、異変に気付く。


 いつも部屋の外で俺たちを守る様に体を休めているハチマルが、珍しく唸っているのだ。


「……ハチマル……ちょっと前……ずっと唸ってる……だから起こした……」


 エリーがそのままの格好で俺の隣に来て説明してくれる。


 もしかしたら誰かが夜這いしに? とも思ったが、ここはビートル伯爵の屋敷の一室だからそれはありえないだろう。


 まぁ頭のネジがぶっ飛んだ奴だったらやりかねないが。


 ちなみにサーシャと姫、ミネルバの3人は別の部屋で寝ている。


「そうか……じゃあ俺もここで着替えるからエリーも着替えてくれ」


 エリーが俺の指示に従い、シャツを脱ぎ、制服に着替える。


 当然俺は見ないようにしているが、衣擦れの音を聞くだけでも何故か罪悪感を覚える。


 着替えが終わり、ゆっくりと部屋の扉を開くと、部屋の外にはハチマルしかいなかった。


 俺たちを見てもまだ唸っているハチマルを落ち着かせるべく、俺とエリーがハチマルを抱きながら撫でるが、ハチマルの唸りは止まらない。


「エリー、どうしてハチマルが唸っているのか分かるか?」


「……警戒……怯え?」


 警戒は分かるが、怯えだと!?


「この屋敷の中で何か異変が起きているか分かるか?」


 再度エリーに問うと、エリーがすぐに答える。


「……大丈夫……だと思う……」


 ということはハチマルにしか感じられない何かか、ただの取り越し苦労か……。


 あいにく俺は楽観視できるタイプの人間ではない。特にクラリスたちが近くにいる時は。


「ハチマル。お前に重要な任務を与える。いいな?」


 俺がハチマルの目を見て話すと、ハチマルが唸るのをやめる。


「お前はこれからカレンたちが眠る部屋に入って、何か起きたらみんなを起こせ。俺とエリーはこの辺りを見てくるからお前だけが頼りだ。部屋に入ったら絶対に施錠すること。いいな?」


 どうやらハチマルは分かってくれたようで、部屋に入ると一生懸命鍵をかけようとドアを引っ掻く音が聞こえる。


 カチャリと鍵がかかる音がしたので、エリーと一緒にまずは屋敷の中を調べる。


 もう0時を過ぎているというのにも関わらず、何人かの使用人がせかせかと仕事をこなしている。


 念のため、使用人にサーシャたちが眠る部屋の鍵を貸してもらい、エリーに部屋の中の様子を見てもらったが、特に異常はなかったようだ。


 当然だが、俺はこの部屋に入ることはしない。


 次にバロンたちが眠る部屋を覗いたのだが、相変わらずだった。


 ブラッドとコディの間にはポロンが眠っている……ブラッドとコディの2人は夢の中でポロンをクラリスと思っているのか、思い思いにまさぐっている。


 あれ? ポロンって悪夢を見ていたって言っていたが、これこそが悪夢なのでは? と思える光景にすぐに扉を閉める。


 部屋の隅で、縛られながら眠る勇者様は見なかったことにした。


 その後もポンゴの様子を見に行ったりしたのだが、特に変わった様子はなかった。


「エリーの言うとおり、この屋敷に異常はないみたいだな。少し外に出てみようと思うんだけど……」


 どうする? と聞こうと思った時には既にエリーは俺の左腕とエリーの右腕を組んでいた。


 そのまま屋敷の外に出ると、屋敷の前を警備していたビートル騎士団員たちに好奇な目で見られる。


 当然だよな。夜中に若い男女が2人で繰り出してすることなんて……エリーはそのような誤解を受ける覚悟はあるのだろうか?


 やはりしっかりそのことを説明したほうがいいと思い、足を止めたのだが、エリーが何かに反応する。


「……マルス……何か聞こえる……」


 おいおい……俺には聞こえないが、やっぱりそこら辺の茂みで……エリーの言葉にそう思うが、続けて出てきたエリーの言葉は違った。


「……みんな騒いで……喜んでる……?」


 騒いでいる? みんなで? こんな時間に?


「どこらへんか分かるか?」


「……北の方……行く……?」


 エリーの言葉に頷くと、北門の方へ歩く。


 歩き始めてしばらくすると、ビートル騎士団の者が北の方から俺たちの方に向かって走ってくる。


「こんばんは? どうしたのですか? 随分騒がしいようですが?」


 俺たちを視認しても走るのをやめないビートル騎士団員に聞くと、


「行方不明になっていたビートル騎士団の1人が、帰って来たんだ! それを知らせにブレア団長の下へ急いでいる! すまないがこれで!」


 そのままビートル騎士団員は嬉しそうに走り抜けていった。


 仲間が戻ってきたからみんなで騒いでいるのか。ハチマルももしかしたら急に外が騒がしくなったから、驚いただけなのかもしれないな。


 だとしたら、わざわざ行く必要はないかな。そう思って立ち止まり、エリーを見ると、エリーもそれを察したらしく一言。


「……もうちょっと……デート……いい……?」


 エリーにそう言われて断る男がいるわけがない。


 あてもなく北門の方へ歩いて行くが、これが功を奏した。


 エリーと身を寄せ合いながら歩いていると、突然悲鳴が深夜の街に響く。


 もっとエリーとゆっくりしていたかったが、今の悲鳴を聞いてもなお女に現を抜かすほど落ちぶれてはいない。


 エリーも悲鳴を聞いた瞬間、俺から離れすぐに周囲を警戒し始めていた。


「エリー! 行くぞ!」


「うん!」


 今までゆっくり歩いていたのとは対照的に、全力で北門を目指す。


 北門近くまで走ると、何人かの住民たちが血相を変えて走ってくるが、俺とエリーを確認すると口早にこう叫ぶ。


「剣聖様! 戻ってきたビートル騎士団員が乱心して暴れまわってます! どうか助けてください!」


「分かりました! 皆さんは安全なところへ!」


 戻って来た騎士団員が暴れているだと? 酒にでも飲まれたのか?


 そう思いながらも走る勢いをそのままに北門の方へ向かうと、街の一角に人だかりができていた。


 住民たちは興奮しているらしく、何かを叫んでいる。


 よく聞くと、「死ね」や「殺せ」など物騒な言葉が飛び交っていた。


 何が起きているのか確認しようと、人込みをかき分けながら中心に進むと、そこには3人の騎士団員が、1人の騎士団員の喉元、心臓、腹に対して槍を突きつけていた。


 槍を突き付けられている騎士団員の右手には剣が握られており、その剣からは血が滴っていた。


 近くには致命傷を負った2人の騎士団員が、住民たちに介抱されている。恐らくこの男がやったのだろう。


「ロア! 貴様どうしてこんなことをした!」


 喉元に槍を突き付けている騎士団員が、突きつけられているロアという男に聞くが、ロアという男は何も答えない。だが目は虚ろで、どこか不気味さを感じる。


「なぜ仲間を刺した!」


 心臓に槍を突き付けていたもう1人の騎士団員がさらに問い詰めるが、ロアは特に何も答えない……が、急に何かをブツブツと言い始めた。


「おい! ロア聞いているのか!? このままでは俺たちはお前を殺さなければならない! まずは剣を捨てろ!」


 腹に槍を突き付けている騎士団員が忠告をする。確かにロアの右手に得物が握られている以上、ロアが何かしたら即決断をしなければならない。


 しかしロアは騎士団員たちの忠告は聞かずに右手に持つ剣を振り上げる。


 3人の騎士団員たちは躊躇わなかった。


 一斉に喉、心臓、腹を突き刺す……が、ロアが剣を振り下ろす威力は変わらない。


(ウィンド!)


 ロアが振り下ろす剣に対し、慌ててウィンドを放つと、騎士団員が斬られる前に剣を飛ばすことに成功するが、急所を突かれたはずのロアはぼそりと呟く。


「……ナンデ……カエッテキタノニ……イタイ……」


 なんだ? こいつ? ポロンのように人造魔石でも飲んだのか?


 その異様な光景に集まっていた住民たちは、血相を変えて我先にと逃げる。


「皆さん! ここは僕が引き受けます! 慌てずにゆっくりと逃げてください!」


 一斉に動き出したらドミノ倒しになり、余計に被害が出てしまうから、住民たちを落ち着かせる必要があった。


 みんなロアに夢中で俺のことに気付いていなかったが、俺がいると分かると、住民たちのパニックが収まる。


 俺がいるからここに留まろうという者もいたくらいだが、守る人数が多いと守り切れない可能性もある。


「もう一度言います! ゆっくり逃げてください! ここから離れるように! 守り切れるという保証はありません!」


 もう一度俺が言うと、先ほどロアの喉元に槍を突き刺した騎士団員が住民の避難の誘導を始める。


「マルス君! すまないが頼む! 住民たちは俺たちに任せてくれ!」


 これに続くように他の騎士団員も続く。


 よし、これで住民は大丈夫だろう。


 ロアも俺がウィンドで剣を吹き飛ばしてからはブツブツと何かを言うだけで、大きな動きはない。


 鑑定をするのであれば今だなと思い鑑定をすると、驚きの結果が出た。



【名前】ロア

【称号】-

【身分】-

【状態】死人

【年齢】-

【レベル】0

【HP】0/0

【MP】0/0

【筋力】35

【敏捷】25

【魔力】5

【器用】35

【耐久】32

【運】1


【特殊能力】剣術(Lv3/E)


【詳細】神聖魔法に非常に弱い

書籍版双葉社様より発売しております!

是非手に取ってください!

web版とかなり変わっているので、楽しめると思います!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔公爵出陣!?
[一言] 一生懸命に施錠するハチマルが可愛い
[良い点] > 次にバロンたちが眠る部屋を覗いたのだが、相変わらずだった。 「相変わらず」という完結な表現が如何に雄弁であることか! ハチマル偉い!エリーもお手柄! [気になる点] 死神の仕業か? …
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