第40話 捕縛
ガナルの街はかなり小さい。
そして何か今までの街と違う気がする。
何が違うかと聞かれても分からない。ただ何か違う。
俺は1人で冒険者ギルドに向かった。
ミーシャを人前に出すとまた捕らえられる可能性があるからクラリスと一緒に街の外で待ってもらっている。もちろん馬車の中でだ。
冒険者ギルドも今までの冒険者ギルドと違う気がする。
ギルドの職員も冒険者も皆俺を好奇な目で見ている。
「あの、迷子のクエストとかありますか?」
と俺が聞くとギルド職員が
「僕が迷子なの? この街にはそういうクエストの依頼は来てないわよ」
「そうですか……分かりました。ありがとうございます。あとここら辺に迷宮都市ってありますか?」
「えぇ、ここから北東に行ったところにギルバーンというこの国最大級の迷宮都市があるわ。じゃあさっきの質問に答えて。僕は迷子なの? お父さんとお母さんは? どうやってここまで来たの?」
俺とギルド職員の話にギルド内にいる冒険者達が聞き耳を立てているような気がする。
「いいえ僕は迷子ではありません。探し人がいましたので……父と母は家におります。ありがとうございました。失礼致します」
俺はそう言って冒険者ギルドを出ると馬車とは反対側へ向かった。どうやらつけられているようだ。
得体のしれない奴らをクラリスの近くに連れて行くわけにはいかない。
俺は街の西に向かう途中で路地を曲がり風纏衣を纏って即座に後ろからつけてきていた奴らを撒いた。そして風魔法で後ろからつけてきた奴らの声を拾う。
「どこいった? もしかしたら尾行に気づいたのか?」
「そんなわけない。焦らなくてもいいさ。まだこの街にいるはずだ」
「ああ、早く攫って金に換えよう」
「そうだな。あのガキが言ったことはおそらく嘘だろう。親がいたら絶対にこの街には近寄るなと言うだろうしな。でなきゃここには来ないからな。ガキは夜になれば奴隷だな」
この街の違和感は子供がいない事か!
それにこの街では奴隷売買されているのか……
ミーシャもこの街に連れてこられるはずだったのかな?
ってことはいつまでもこの街に留まるのはまずいな。
俺は風纏衣を纏って反対側の東に向かおうとした。
しかし街の東側の出口には人が集まってきていた。
西側には先ほど俺を付けてきた奴らがいる。完全に囲まれた。
俺は意を決して東側の出口の方に歩いて行った。
すると街の東側にいた冒険者かならず者か分からない奴らが
「坊主、どこに行く? ここから先は街の外だから危ないから行かないほうが良い」
「ありがとうございます。でも僕は外から来たので大丈夫です。それでは失礼します」
男たちが俺の進路を遮ってから言う。
「おいおい、大人のいう事は聞くものだぜ? なぁ? 俺らが保護してやるから。ちょうど外に坊主と同じ年くらいの女の子たちを見つけたんだ。坊主と女の子たちの3人で少しの間楽しむっていうのはどうだい?」
クラリスとミーシャはすでに捕えられたのか……しかしミーシャはともかくクラリスがこのレベルの相手に後れを取るとは思えない。全員E級冒険者くらいの強さだ。
何か魂胆があるのだろう。
「分かりました。素直に従いますので、女の子たちと会わせて頂きたいです」
「!!!??? わっはっはっは。素直なのはおじさんも嫌いじゃないからな。ただし、女の子たちに手を出すなよ。大事な商品なんだからな」
男はそう言うと街の北東にある、大きい家に俺を連れてきた。
家の前には俺たちの馬車があった。
家の前にいるごろつきに
「おい、このガキをさっき連れてきた小娘たちの所に連れていけ。こいつも今日捌くから危害は加えるなよ。絶対にだぞ! あの人達にはバレないようにな! 俺らの取り分が減っちまう」
俺はごろつきの後を歩いて家の2階の一番奥の部屋に通された。
そこには眠らされている2人がいた。毒でも盛られたかと思い俺は2人を鑑定すると
ミーシャは睡眠状態で、クラリスは正常だった。
「おい、妙な気は起こすなよ! ただでさえ今日はやばいんだ! 何かしたら手加減出来ないからな!」
そう言って、ごろつきは部屋を出た。
俺はクラリスに
「おい、どういうことだ?なんで素直に捕まったんだ?」
と聞くと、クラリスが目を開けて、
「やっぱり、起きてるのバレてた? ミーシャがね。こいつらが来た時にミーシャのお母さんと一緒に居た人かもしれないと言ったの。だからその人と話すためにわざと捕まったのよ。間違いなくマルスは私たちを見つけてくれると信じていたし。それに私がこの人たちに勝てるか分からないもの。マルスみたいに鑑定なんてできないし」
クラリスがまっすぐに俺を見てくる。信頼されている、頼られるというのは嬉しいものだ。
「その人は今どこにいるの? 2人ともけがはない? なんでミーシャは寝ているんだ?」
「その人は私たちを捕まえたらどこかに行ってしまったわ。怪我はないんだけど、何か不思議な魔法を使う人がいてね。ミーシャが寝てしまったのよ。私は大丈夫だったんだけど……多分この聖女の法衣のおかげね。寝たふりしていたら色々な情報が聞けたわ」
「そうか……ミーシャのお母さんを見つけるために囮に……一番早い解決方法かもしれないが、危険すぎるだろう。もっと自分を大事にしてくれ」
「うん。でもね、ミーシャの顔を見ていると助けなきゃって思ってしまって……ごめんね」
「とりあえず謝罪は後だ。情報共有しよう。夜にこの街で奴隷売買が行われる。恐らく俺らはそこで売られるんだと思う。その場にミーシャの知っている人がいるかどうかだな」
「そうね。ミーシャのお母さんが夜に来ると思う。ミーシャのお母さんは腕の立つ冒険者らしいの。迷宮都市ギルバーンに最近魔物が多くなって手に負えないから、他国にいたミーシャのお母さんが呼ばれたらしいの。その時にミーシャが攫われたらしくて……
ザルカム王国的にも今回のミーシャ誘拐はまずいらしくて捜索隊が編成されているらしいの。そこには当然ミーシャのお母さんがいると思うって。ただ迷宮の魔物を間引きする必要があるから強いのはミーシャのお母さんだけだろうって私たちをここに連れてくる間に言っていたわ」
「分かった。いずれにせよ今夜が山だな。今はまだ昼過ぎだから夜の奴隷売買迄十分に時間があるか。じゃあ俺は先ほどの地獄の蛇との戦いでMPが減っているから仮眠を取り夜に備えるよ。あとクラリスは結界魔法がレベル1になっているから使いこなせるように頑張ってほしい。今後絶対に必要な力だからね」
「やっぱり私結界魔法使えるようになっているの!? 嬉しい! じゃあマルスが寝ている間頑張ってものにするわね!」
1つ1つ整理しながら仮眠をとる。
奴隷売買。
ミーシャが知っている人。
変な魔法を使う奴。
ミーシャのお母さん。
今日の夜はできるだけ万全な状態にしなければ。
少しでも面白い、続きが気になると思う方は
★★★★★とブクマの方を頂けたら私のモチベーションにも
なりますので是非よろしくお願いしますm(__)m