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20章 青年期 ~リスター帝国学校 3年生 魔族編~

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第391話 ビラキシル侯爵

「父上! お加減は!?」


 座り込んでしまっていた姫がビラキシル侯爵に飛び掛かるように抱きつこうとすると、ビラキシル侯爵は照れ臭いのか姫を邪険に扱う。


「ええい! 邪魔だ! もしも私が治っていなかったらどうするつもりなのだ!?」


 そう言ってしがみつく姫を振りほどこうとするが、姫は意地でもビラキシル侯爵から離れない。もしかしたらビラキシル侯爵も本気で振りほどこうとは思っていないのかもしれない。


 しがみつく姫をそのままにビラキシル侯爵がベッドから体を起こし、俺たちに向かって頭を下げ謝意を示す。


「どうやらとんでもない恩ができてしまったようです。私も途中からしか意識が無かったのですが、もしも私が思っている事が本当なら……」


 ビラキシル侯爵は自身のお腹の辺りを擦りながら話しかけてくる。そこに傷があったのだろう。


「いえ、僕たちは何も……」


 とぼけようと思い軽く否定をしてはみたが、ビラキシル侯爵は俺の言う事など聞く耳を持たない。


「とにかくこの恩は必ず返します。我々は受けた恩は絶対に忘れはしない。ところで1つ聞きたいのですが、あなたたちは一体どこのどなた様なのですか? リスター帝国学校の制服を着てはいるようですが……」


 ビラキシル侯爵が丁寧な口調で話しかけてくる。


「僕たちは……」


 と、自己紹介を始めようとすると


「ちょっと待つのじゃ! ダディにも自己紹介をするのじゃ! コディが外で教えているとは思うが約束は約束なのじゃ!」


 姫が俺の言葉を遮り、急いで土壁(アースウォール)で塞がっている入り口まで走るが、その足取りは先ほどまでの走り方とは違い、弾むような走り方だ。状況はどうあれビラキシル侯爵やここにいるみんなが無事回復した事がよほど嬉しかったのだろう。


 クラリスもそんな姫の後姿を見て満足そうに微笑んでいる。


 姫が入り口を塞ぐ壁に一言二言話しかけると土壁(アースウォール)は消失し、すぐにビサン男爵と従者、そしてブラッドとコディが走ってくる。


「ビラキシル侯爵! 傷の方はもう大丈夫ですか!?」


 ビサン男爵が心配そうにビラキシル侯爵に対し聞くが、もしかしたらコディからは毒の事を聞いてないのかもしれない。先ほどここに居た医師が毒に侵されているのは秘密と言っていたからな。


「うむ。私が伏している間、色々やってもらったそうだな。感謝する。ビサン男爵も来たことだし自己紹介を頼めますかな?」


 ビラキシル侯爵はベッドから体を起こしたままだったが、背筋をまっすぐ伸ばし俺に改めて聞いてくる。


「はい。挨拶が遅れましたが僕はリスター帝国学校3年生のマルス・ブライアントと申します。この度リーガン公爵の命により、兄のメサリウス伯爵、アイクと共にヘルメスとグランザムが和解できるようにと参りました」


「「っ!?」」


 俺の自己紹介にビラキシル侯爵だけではなくビサン男爵も驚く。どうやらビサン男爵は部屋の外で俺の事は聞かなかったらしい。


 まぁ考えてみれば久しぶりに息子が帰って来たんだもんな。他人よりもまずは自分の息子の事を聞きたいよな。


「リスター帝国学校には成人してから入学する者も多数いると聞きますがマルス様もそうなのですか? お兄様も伯爵との事ですから実は見た目よりも高齢とか……」


「いえ、僕はご息女やコディと同じ12歳です。兄は去年リスター帝国学校を卒業しましたが、今年で成人の15歳です。ですから兄はともかく僕に敬語を使うのは……」


「じ、12歳!? もしかしたら隣にいる2人の女性も?」


 予想通りビラキシル侯爵がまた驚き、俺の両隣にいる2人の天使を交互に見る。


「挨拶が遅れて申し訳ございません。リスター帝国学校3年のクラリス・ランパードと申します。私もマルスと同じ12歳でございます」


「……エリー・レオ……12歳……よろしくお願いします」


「ま、まさかこの2人も12歳とは……」


 驚くビラキシル侯爵にコディがさらに俺たちの事を紹介してくれる。


「ビラキシル侯爵、父上! それだけじゃないんだ! マルスは史上最年少でA級冒険者になり、決勝の相手はなんとあの【黒壁】のゲンブだ! しかも全く寄せ付けずに圧勝だ! それにここにいるブラッドは()セレアンス公爵の嫡子で次期セレアンス公爵だ! あとここには来ていないがグランザムにはマルスをクランマスターとする【暁】というクランが来ているんだが、そこのメンバーも凄い! なんとフレスバルド筆頭公爵家の次女カレンもいるんだ! それに北の勇者もだ! そして俺も【暁】の一員になったんだ!」


 コディも興奮して敬語も忘れ、自慢げに話すと


「なんと!? この年でA級冒険者!? それにフレスバルド公爵家にセレアンス公爵家だと!? さらにあの北の勇者を従えているとは……」


 公爵家はともかく北の勇者、つまりバロンの勇名は凄いんだな。違う事で名を馳せそうな気もするが今はそれを気にしている時ではない。


「おう! セレアンス公爵家ブラッド・レオだ! だが俺よりかこっちの方が驚くと思うぞ!? そこにいるエリーは金獅子族だ!」


「っ!? な……なんと……」


 ビラキシル侯爵はそう言うとエリーをチラッと見て1人でブツブツと何かを呟く。あまりにも小さな声だったのでよく聞こえなかったが、かなり険しい顔をしていたのが印象的だった。


 かなり気になったが、本題に入る事にした。


「先ほども言いましたが、僕たちはリーガン公爵の命によりグランザムとヘルメスの和解に参りました。ビラキシル侯爵にその意志はありますか?」


 こんな状況で最初に聞く事ではないかもしれないが、あくまでも俺たちの目的はグランザムとヘルメスの和解だ。


「う、うむ……当然だ。人族と争いなど望んでないが、現に我々の子供が攫われているからな。子供の返還と謝罪。再発防止が前提だがな」


「父上……それがじゃの……どうやら魔族の子供を攫った者はグランザムの人間ではないようなのじゃ……あの街にイセリア大陸に足を踏み入れてここまで来られるような者はおらぬのじゃ……」


「ビラキシル侯爵。今姫が言ったことは本当かと思われます」


 ビラキシル侯爵の言葉を聞いた姫とコディが意見を述べる。2人が最初に言い出してくれて助かった。俺が言っても信用してくれないかもしれないからな。


「グランザムの者がやったわけではない!? では誰が!?」


 当然の疑問を投げかけてくるが、誰も明確な答えを持っていないので答えられるわけが無い。ダメーズであればディクソン辺境伯の仕業と答えるかもしれないが。


「それも重要じゃが答えはすぐに出ぬじゃろう!? それよりも一体何が起こったのか教えて欲しいのじゃ!」


 姫がビラキシル侯爵に詰め寄るが、ビラキシル侯爵は視線を下に落とすと途端に口を閉ざす。


「黙っていては分からないのじゃ!? 妾もグランザムでポンゴに襲われたのじゃ! コンザからも狸族が謀反を起こしたというのは聞いておるのじゃがもっと詳しく教えてほしいのじゃ!」


「なにっ!? ポンゴに襲われただと!?」


「そうじゃ! それをマルスが助けてくれたのじゃ!」


「な、なんと……それでポンゴは逃げたのか?」


「マルスが捕えてそのまま拷問にかけたのじゃ! ポンゴからはある程度の事は聞いておる! じゃからここで何が起きたのか想像はつくのじゃがちゃんと父上の口から真実を聞きたいのじゃ!」


 懸命な姫の言葉にビラキシル侯爵がようやく重い口を開く。


「……ポロンが……あのポロンが裏切ったのだ……信じられるか? あの温厚なポロンが……あれだけ私に懐いていたポロンが……」


「……嘘ではなかったのじゃな……あのポロンが……」


 ビラキシル侯爵は声を振り絞ると拳を握りしめ、悔しそうに自身の膝を強く叩く。姫もその言葉を聞くと辛辣そうな表情を浮かべ俯く。2人にとってポロンがどのような存在だったのかなんとなくだが想像がついた。


 分かってはいただろうがポロンの裏切りという事実は姫にも大分(こた)えたらしく、2人共押し黙ってしまった。それを見かねたコディが口を開く。その質問は俺も疑問に思っていた事だった。


「ポンゴを拷問した際にビラキシル侯爵は狸族の謀反を感じ取っていると言った口ぶりでしたが実際は?」


「……ああ。少し前からポロンの目つきがどんどん鋭く、狂気的な目になっているような気はしていた。それに狸族の若い衆からもタレコミがあった。謀反を企んでいるとな……そしてビートル伯爵との会談中に事件が起きた。幸い大事には至らなかったがより疑念は深まった」


「なぜじゃ!? なぜ妾にその事を知らせぬのじゃ!? それになぜ対策を講じぬのじゃ!?」


 俯いていた姫がビラキシル侯爵の話を聞き再び迫る。


「……どんなに変わってしまってもポロンが裏切るとは思えなかった。半信半疑という所だな。だが半分は疑えた。だからまずはお前をヘルメスから遠ざける事にしたのだ」


 予想通り姫はヘルメスから遠ざける目的でグランザムとの交渉役を任されていたのか。


「そして今回の定例会で狸族とどう付き合っていくのか、どうするのかを話し合うつもりだったのだ……しかしそこを突かれてな……」


 ビラキシル侯爵がまだ言葉を続けようとした時だった。外で見張りをしながら毒薬の成分を探りに行っていたコンザが大慌てでこの部屋に戻ってきたのは。


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― 新着の感想 ―
[一言] 一気読みさせていただきました!世界線とかお話の内容構成全部面白いです!これからも活動頑張って下さい!
[良い点] 更新お疲れ様です。 侯爵の話を聞く限りポロンは昔から明確に叛意を持っていたと仮定したら、かなり高いレベルの演技力でそれを隠してたって話になりますが···そうだとするならなんか謀叛前だけが…
[良い点] ビラキシル侯爵は察しが良いですね。 それにしても、バロンもコディも昔は勇名を馳せていたんですね…… [気になる点] >さらにあの北の勇者を従えているとは……」 従えてるのは、マルスというよ…
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