第387話 見下ろす光景
「姫! 街門にウルドが! それに街壁の上にも見張りがいない!」
「分かっておるわ! クラリスたちの強さに感心して気づかなかったのじゃが、いつもであればこの辺りにはヘルメスの街の者が魔物を狩っておるはずじゃしな! それに街門も完全に閉じているみたいじゃ! ただ事ではないかもしれぬ!」
コディが姫に報告すると、姫が慌てた様子でヘルメスに向かって走り出す。
クラリスとエリーも姫に並びながら走り、俺はクラリスとエリーの荷物を持ち、自分の荷物を背負いながら3人の後を追う。
いつもであればこの辺りにヘルメスの街の者がいるというのは、いくら魔族でも一気に攻められるとキツイから街の外に出て魔物を間引いているのであろう。
「くそっ! マルス! 先頭を変わってくれ! 急ぐとどうしてもダメージを受けちまう! それにコディもついて来るのがきつそうでこのままではヘルメスに着くのが遅れちまう!」
魔物を屠りながら先頭を走っていたブラッドが立ち止まり、悔しそうな表情を浮かべながら俺に向かって叫ぶ。
コディが遅れてしまうのは体力がないからではない。ここ数か月コディも走り込みをしているからだいぶ体力もついてきた。
遅れてしまう理由は走りながら魔法を唱える事ができず、魔法を唱えるたびに足が止まってしまうからだ。
コディからもブラッドと同じ意見のようで何も言いはしないが目で訴えかけてくる。
「分かった! 2人共よくやってくれた! みんな! 俺が先頭に立つ! 街に何か起きているのかもしれないからな! 今のうちにこの辺りの魔物を全て倒すつもりでいくからそのつもりでいてくれ! 最悪姫とコディだけでも先に街の中に行ってもらう!」
クラリスとエリーにそれぞれの荷物を渡し、雷鳴剣を右手に先頭に立つ。そして左手を空に掲げ、号令と共に魔法を唱える。
「みんな行くぞ! ファイアストーム!」
ヘルメスの街門近くにファイアストームを発現させると、巨大な炎の竜巻が周囲のウルドを飲み込む。
火魔法レベルが上がったせいか、今までのファイアストームよりもはるかに熱量が高く、炎の竜巻自体も大きい。
ここでファイアストームという目立つ魔法を放つと周囲の魔物達が寄ってくるかもしれないが、それはさっき言ったように覚悟の上だ。
「な、1人でファイアストームじゃと!?」
驚く姫を横目に、左手でファイアストームを制御しながらヘルメスの街門へ走ると、更に姫が何かを喚くが、それを無視しヘルメスの街門へ走る。するとクラリスとエリーも一緒について来てそれぞれ俺の左右に付く。
クラリスはディフェンダーを片手に水魔法を使いながら魔物を屠り、エリーはカルンウェナン、風の短剣を両手に持ち戦うが、2本の短剣と共に足技も混ぜて戦うようになっていた。
2人のおかげで全く走る速度を緩めることなく、ヘルメスの街に一直線に進み、固く閉ざされている街門の前まで辿り着いた。
「やはり街門が閉じているか! 姫! どうしますか!?」
「むぅ……こうなってしまってはどうすることも出来ぬ……向こう側からしか開かないようになっておるし……ファイアストームが街のすぐそばで発現されれば、普通であれば何事かと思って出てくるじゃろうに……」
固く閉ざされている街門を前に姫とコディの2人がどうにか打開策を探っていると
「そんなの考えるまでもねぇ! 俺様の力でこんな門ぶち壊して……」
悩む2人の会話を聞いていたブラッドが勢いよく石製の門に体当たりするが、当然門はびくともしない。
「ブラッド、街門も10mとは言わないがかなり分厚くできているんだ。さすがに壊すことはできない。開ける時も何十人もの男で開けるくらいだからな」
コディが残念そうな顔でブラッドを見ながら諭す。
「……マルス……魔物……寄って来た……」
そんな中、ファイアストームを見たと思われる魔物たちが集まり始めた事をエリーが教えてくれる。
「姫! コディ! 2人はこのまま考えていてください! 俺とクラリス、エリーで魔物を迎え討ちます! ブラッドは2人の周囲の警戒を頼む! 何か閃いたら声をかけてください!」
2人が悩んでいる中ずっと魔物を倒し続けるが、声がかかる事は無かった。
「ねぇマルス? エルハガンの時のように出来ないかしら?」
クラリスがディフェンダーを片手に魔物を屠り、俺の背中にピタッと背中を合わせてから聞いてくる。
「エルハガン? 何かしたっけ?」
クラリスの意図が分からずに聞くと
「階段よ。エルハガンの街壁の上に上がるのに階段を作ったでしょ? あの時と同じようにできればなと思ったのだけれどもMPが足りないかしら?」
「そうか! 階段を作ればいいのか! あの時よりも土魔法レベルが上がっているから不可能ではないはずだ! MPもファイアストームを放ったくらいで充分ある!」
クラリスの妙案に思わず声が大きくなる。
「姫! コディ! 名案が浮かんだ! 階段を作っても大丈夫か!?」
迫ってくる魔物をクラリスとエリーに任せ姫とコディに聞くと
「大丈夫じゃが誰が作るのじゃ!? まさかグランザムから大工を連れてくるなどとは言わぬよな!?」
「マルス! それで行こう! 早速頼む!」
姫が何をバカな事をと問いただしてくるが、コディは俺の案……いや、クラリスの案に賛成してくれる。
姫に説明するのが面倒なので、早速街壁伝いに石製の丈夫な階段を作ると、やはり姫が驚きの声を漏らす。
「な!? こんなに立派な階段を街壁のてっぺんまで……どれだけのMPがあるというのじゃ!?」
「今からこの階段で街壁のてっぺんまで上る! コディが先頭で頼む! その後にブラッド、姫、エリー、クラリス、そして殿が俺だ!」
またまた姫の疑問に答えることなく皆に指示を出すと、すぐにコディとブラッドが階段を上り始め、姫が2人に続く。
残った俺とクラリス、エリーで集まってくる魔物を倒すが魔物の数はなかなか減らない。予想以上に魔物の数が多かったのだ。
「マルス! 私たちも上りましょう! 上りながら魔法の弓矢を下に放つから私が殿を務めるわ!」
クラリスもキリがないというのは同意見だった。
「そうだな! だが殿は俺だ! 追ってこられないように上りながら階段を消す! クラリスは援護を頼む!」
断っておくが階段の下から絶景を拝みたいという訳ではないからな。殿は一番危険だ。付き合いの長いみんななら分かってくれるよな。クラリスも俺の案に納得してくれたのか階段を上っていく。
まだまだ魔物が集まってくるが、近くの魔物だけを倒して俺も階段を駆け上がる。何体かは駆け上がった階段を消す前に上ってくるが、それを上にいるクラリスが魔法の弓矢で屠ってくれる。
15mくらい階段を駆け上がり、上ってきた階段を消すとさすがに魔物たちもここまでは飛び乗ってくることはできないらしく、ようやく一息つくことができた。
「……マルス……大丈夫?」
先に階段を上っていたエリーが立ち止まり、心配そうに声をかけてくれると、クラリスも両手を後ろに回し、女子高生のように持っていたバッグでスカートを覗かれないようにしながら声をかけてくれる。
「お疲れ様。でも階段を上る時も気を付けてね。上ばかり見ていないでしっかりと足元を見ないといくらマルスでも足を踏み外したりするかもしれないからね」
「ああ。2人共ありがとう。街門に群がって来た魔物たちは階段を上ってから焼き払うつもりだ。姫たちはもう上りきってしまったみたいだから俺たちも急いで上ろう」
もう階段には姫たちの姿は無かったので急いで俺たちも上を目指す。
じっとクラリスのバッグを見ながら階段を上がり、ようやく街門の上に辿り着くと先に着いていたコディが街を見下ろしながらこう呟く。
「な、なんだ……これは……これでは街の中で戦争をしているみたいじゃないか……」
またまた遅くなりましたm(__)m










