第382話 格付け
「な、なんじゃこのステータスは……」
「どう? 実戦で試してみる?」
「も、もちろんなのじゃ! これは何かの間違いなのじゃ!」
迷宮から出た後カレンが偽装の腕輪を外し姫に鑑定させるが、納得のいかない……いや現実を受け入れられない姫がカレンに模擬戦を申し込む。
迷宮の中を走ったせいか、想定外のトラブルがあっても予定よりだいぶ早く外に出る事ができたから、時間的に街の外に出る余裕があるのだ。
ちなみに捕えた2人は安全地帯にいた騎士団員に身柄を引き渡し、俺たちと一緒に迷宮の外に出てきた。
「マルス、俺とミネルバはグランザムの街を見てくる。なんかいい掘り出し物が見つかるかもしれないしな」
「あ、ああ……分かった。気を付けてな」
バロンはカレンと姫の模擬戦よりも趣味にはしる。いい掘り出し物が見つからない事をただただ願うのは俺だけではないはずだ。
グランザムの街の外に出てカレンと姫が対峙する。
念のため俺が姫の隣に立ち、クラリスがカレンの隣に立つ。
「姫、あなたから仕掛けてきていいわよ。もう姫も分かっていると思うけど私も魔眼持ちだからあなたのステータスは分かっているわ」
ステータスで圧倒しているカレンが余裕をもって姫に話しかける。
「ぐぬぬ……後悔させてやるのじゃ!」
まんまとカレンの挑発に乗った姫が両手を前にかざし魔法を唱える。
「ファイア!」
「ファイアアロー!」
「ファイアボール!」
姫が火魔法を唱えると、カレンはファイアボールを浮かべる。以前火喰い狼と戦った時のように向かってくる火魔法に対しファイアボールをぶつけると、火魔法を吸収したカレンのファイアボールが大きくなる。
「な、なんじゃそれは!?」
カレンに火魔法を吸収された姫が思わず声を上げるが、まだ奥の手はあるらしい。
「仕方ない……まさかこれを使うハメになるとはのう……カレンよ! 後悔するでないぞ!?」
姫の言葉にカレンも少し警戒する。それはカレンの隣にいるクラリスもだ。
「狐火!」
「「っ!?」」
夥しいほどのファイアが発現し、一斉にカレンに対し放たれる……が、すぐに本物のファイアだけがカレンのファイアボールに吸収されると、残りのファイアも消える。
恐らく今の狐火というのは、幻魔眼で火魔法の幻を見せて、本物の火魔法を紛れさせるというものなのだろう。
俺にも幻が見えたが、発現した瞬間に本物のファイアと幻のファイアの区別がついた。もしかしたらカレンも同様なのかもしれない。
「な、なんじゃと!? 狐火を見切ったじゃと!?」
驚く姫にカレンが
「一瞬焦ったけどすぐに見切れたわ! クラリスはどう!?」
「わ、私は近くに来るまで分からなかったから氷結世界の準備をしていたわ……さすがに近くにきたらなんとなく分かったけど、だからと言って無視することはできないわね」
カレンよりも魔力の高いクラリスが見切れなかったのか? もしかしたら魔眼持ちにしか見切れないか、あるいはもっと魔力に差があれば……いずれにしてもこれは相当使える魔法だな。
「じゃあ今度はこっちの番よ! 姫! 直撃はさせないから安心しなさい!」
狐火を見切られまだ驚いている姫にカレンが警告すると、両手を前に出し、予想通りの魔法を唱える。
「フレアボム!」
物凄い熱量と共にフレアボムが姫の頭上を目指して襲い掛かってくる。未来視でフレアボムの軌道を視ると、慎重になっているのか、かなり上を通過するようだ。
「ふ、フレアくらいコディも撃てるからそこまで珍しくないのじゃ! それをフレアボムとカッコよく……」
姫がそこまで言った時……フレアボムが姫の頭上を通り過ぎた時だった。心臓を直接殴られたような耳を聾する爆発音が背後から鳴り響いたのは。
その音と共に爆風が俺と姫を襲う。当然俺は予想していたので耐えることができたが、隣にいた姫は油断していたため、簡単に吹っ飛ばされ、頭を俺の方、足はカレンとクラリスの方を向けて伏す。
「な、なんなのじゃ……今のは……」
「今のはフレアボムと言って私の父が編み出したオリジナル魔法よ! どう? これで私の実力は分かった!? 信じられないかもしれないけどクラリスとエリーは私と比べ物にならないくらい強いわ。ミーシャは私と同じくらいよ!?」
「姫!? 大丈夫?」
カレンが伏している姫に近づきながら話しかけ、一緒にクラリスも心配そうに声をかける。
もちろん俺も姫がただただ吹っ飛ばされているのを見ていただけではない。姫が吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる瞬間、エアリーを唱えて衝撃を和らげているため大した傷は負っていないはずだ。
「な……同学年で負けるとしたらコディだけじゃと思っておったのじゃが……じゃがなぜか今はすがすがしい気分じゃ……」
姫が俺に視線を向け、すがすがしいというよりもどこか恍惚とした表情を見せながら素直な気持ちを述べるが、姫の近くまで歩いたカレンとクラリスがその言葉を聞いてギョッとした表情を見せた。
「ちょ……あんた……すがすがしい気分って……」
「ひ、姫!? 頭打ったの?」
「……見られながらというのもいいものじゃな」
カレンとクラリスの問いかけに姫が答える。
「よし! これで姫も分かってくれただろう。暗くなってきたから早く屋敷に戻ろう!」
伏している姫の方に歩きながら言うと
「マルス! ちょっとそこで止まって! 姫、狐に変化しなさい!」
クラリスが慌てて俺に制止を求め、姫に変化するように促す。なんでだ? と思いつつもクラリスの言葉を素直に受け入れるが姫は不満を漏らす。
「なんでじゃ!? 妾はこのままで……」
「いいから! 早くしなさい!」
クラリスの剣幕に押され姫が仕方なく「変化!」と唱え小さい狐姿になると同時に、クラリスがウォーターを唱え、狐姿になった姫に水をぶっかける。
「何をするのじゃ! 風邪をひいてしまうのじゃ!」
「我慢しなさい! 私が抱いて温めてあげるから!」
姫がクラリスに抗議をするが、クラリスはお構いなしに姫を抱き上げ力強く姫を抱きしめる。
「さぁ! 早く帰りましょう!」
クラリスが何をしたかったのかよく分からないが、皆で急いで屋敷を目指す。
2032年5月27日19時
「遅くなってしまい申し訳ございません」
屋敷に戻ると、バロンとミネルバを除くみんなが俺たちを待ってくれていたため、すぐに風呂に入り食堂に向かう。さすがにクラリスもこういう時は長湯はせずにみんなと一緒に風呂から上がる。
ちなみにバロンとミネルバは先にご飯を済ませ、今は拷問室にいるとの事だ。ポンゴを見張るためらしいが本当はどうか分からない。何しろ2人にとって拷問室は、子供でいうところのおもちゃ部屋のようなものだからな。
「さて、マルスたちがいない間にマルスたちが捕えた5人の狸族を尋問し、分かった事が2つある。食事を終えたらポンゴを尋問する予定だが、その前にそれを周知する」
食事の手を止めみんながアイクに注目する。
「まずは軽いほうの話から。今日捕えた5人の狸族はポンゴがヒメリを襲ったことを知らない……そんな予定もないし、襲うわけもないと言っていた。もしかしたら姫を襲ったのはポンゴの独断……もしくは狸族の一部しか知らない事なのかもしれない」
まぁ鵜呑みにするわけにはいかないが、一応はそう思っておこう。他の者たちもそう思ったらしく特に何も口にはしなかった。
「そしてもう1つ分かった事がある。狸族はグランザムの街とヘルメスの街の抗争を望んでいる」
これは皆が予想しており、驚く者はいなかった。だが理由が分からない。
「なぜ抗争を起こす必要があるのですか?」
「うむ……俺もそれが気になり尋問をかけた。5人は下っ端だから詳細は教えられていないようだが目的は知っていた」
アイクが言葉をそこで止め姫の方をずっと見つめる。
「な、なんじゃ!? メサリウス伯爵も妾の美貌に首ったけなのか?」
照れ隠しなのか本心なのか分からないが軽口を叩くと、アイクがそれを否定するように即座に口を開く。
「狸族はビラキシル侯爵を謀殺しようとしている。そしてそれをビートル伯爵の手の者がやった事にしてグランザムを攻めようとしているのだ」
「なんじゃと!?」
ヒメリが立ち上がると同時にバロンとミネルバが拘束されたポンゴを拷問室から連れてきた。
ポンゴは昨日と同じように猿轡に手錠、鎖で縛られていたが、今日の戦利品であろう首輪もつけられていた。
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