第381話 膨らむ
「のう? マルスにはなんで鑑定ができないのじゃ?」
騎士団の詰所を目指し歩いていると、クラリスの幸せスポットに収まっている姫が聞いてくる。ちなみに先ほどまではエリーがずっと抱いていた。
「どうやら僕は特異体質らしく、鑑定できないみたいで」
俺の答えにあまり納得していなかったが、姫の興味はバロンに移る。
「そうか……あと北の勇者よ。お主そのステータスは名前負けしておらぬか? 東の大魔道と呼ばれるコディの半分以下じゃぞ!? もっと精進せぬか」
「一時期鑑定できる者たちを羨ましいと思っていたことがあったが、鑑定もそんなに万能じゃないのか。姫から見てクラリスやエリーたちはどう映っているんだ?」
姫の質問にバロンが答えると、姫は少しムキになる。
「なぬ? どういう意味じゃ? 妾から見れば銀髪のステータスはオールラウンダーで取り柄が無い感じかのう。金髪は敏捷こそ飛びぬけているようじゃが、こちらも妾が本気出せば恐れるに足りぬじゃろう。赤髪は完全に妾の劣化版じゃな。エルフは相手にもならぬ。ピンクは神聖魔法使いじゃからそもそも戦闘向きではなかろうて」
この姫の言葉にミーシャが
「私から見ても姫は相手にもならないよ!? 私の方が大きいもん!」
勝ち誇った顔で幸せスポットにいる姫を見下す。
「な、何を言うか!? 今それとこれは関係ないじゃろう!?」
姫がミーシャに反論すると、
「ちょっと分からせてあげないと、姫のためにもならないようだから、狸を捕えたらちょっと可愛がってやろうと思うのだけれどもいいかしら? どっちが劣化版か骨の髄まで分からせてやるわ」
今度はカレンが鞭を地面に叩きつけながら姫に殺気のようなものを向ける。
「ま、まぁええじゃろう……」
カレンの迫力に気圧された姫が怯えながら答えたところで詰め所に着く。
詰め所の中の訓練室で後進の訓練をしているブレアを見つけ、ポンゴのいう5人の所在を確かめようとしたのだが、クラリスに抱きかかえられている姫を見て明らかに表情を変えた者が3名いた。
鑑定するまでもなくこの3人が狸族というのが分かり、それは俺だけではなくエリーも気づいたようですぐに行動に移す。
エリーは狸族の1人に飛び掛かったので、俺も残りの2人のうち、正常な方に飛び掛かる。
正常な方って何の事だ? と思う人もいると思うが、最後の1人はもう自分の意志で体を動かすことはできない。
【状態】魅了
な? 最後の1人はすでにカレンに魅了されていたのだ。
このカレンの魅了があるからこそ、俺たちはこうやって大胆に取り押さえる事ができる。人質を取られたとしても魅了眼でどうとでもなるからな。
それに潜入している人数をポンゴから聞き出せているのもでかい。5人と分かっているからこの行動がとれたというのもある。
俺とエリーに不意打ちを食らった2人は何もできずに拘束され、魅了された者は自ら拘束されにカレンの下までゆっくりと歩いてくる。
当然何も知らないブレアやビートル騎士団は驚くが、エリーが拘束した男の変化が解け、人型の狸になるとすぐに理解してくれたらしい。
「お騒がせして申し訳ございません。見ての通りこの3人は魔族でございまして。あと2人紛れているのですが……」
3人を鎖でつなぎ、それぞれに猿轡を噛ませブレアに残り2人の所在を聞くと、残り2人は他の騎士団のメンバーとイルグシア迷宮の湧き部屋で訓練しているとの事だ。
この話を受け、拘束した3人の身柄をブレアたちビートル騎士団に預けてから、俺たちもイルグシア迷宮に潜る事にした。
「のう? 金髪? お主実は大分強かったりするのか?」
姫が抱きかかえられているエリーに向かって聞くと
「……そうでもない……マルス、クラリス……勝てない……」
「エリー、金獅子のあなたが弱いわけないじゃない。きっとこの世代でなければダントツでエリーが一番強いわよ」
エリーが答えるとカレンが即座に反対する。
「……マルス、クラリスと一緒……だから強くなった……2人いないと私も弱かった……」
「確かに今ほど強くはないかもしれないけど……金獅子族だからやはりずば抜けているとは思うわ」
2人の会話に姫が割って入るが
「金髪が金獅子族だと!? そんな訳あるはずなかろう? 耳も尻尾も……な、なぬ!? 本当に金獅子族じゃと!? だとしたらこのステータスの低さは?」
話している途中でエリーを鑑定し、その結果に驚いている。そういえばエリーは金獅子って自己紹介で言っていなかったな。
「……風呂場……金獅子……言った……」
自己紹介では言っていなかったが、あの長湯していた時には伝えていたのか。
「な……あの時はお主らの言葉よりも違う所に意識がいっていたので覚えておらんわ! おかしいじゃろう? 同じ年でこのサイズは!?」
エリーにがっしりと抑えられて身動きできない姫が喚く。
「その様子じゃ私の自己紹介も聞いてなかったのかもしれないけどそれは姫の自己責任ね。今度からはステータス以外もしっかり見ておくことね」
「何を言うておるのじゃ!? さすがに赤髪、お主に……ふ、フレスバルド公爵家!? 金髪……エリーといいカレンといい乳がデカくて顔がいいだけの女ではなかったのか!?」
「やっぱり聞いてなかったのね」
姫の返答にカレンが呆れている。
こんな調子でイルグシア迷宮に昼前に着くと、カレン、ミーシャ、アリス、バロン、ミネルバを迷宮の入り口に待機してもらい、俺、クラリス、エリー、そして姫の4人で迷宮に潜る。
なぜ5人を残したかというと迷宮内で狸族の2人とすれ違って出てきてしまうかもしれないからな。魔眼を持っているカレンと神聖魔法が使えるアリス、そして捕縛役のバロンとミネルバに何かあった時のためのミーシャがいれば問題ないだろう。
逆に姫は連れて行かないとどんなトラブルを起こすか分からないからな。
「一気に2層の安全地帯まで目指すぞ! エリーは姫を落とすなよ。俺とクラリスでゴブリンたちを倒すから」
今更ゴブリンやゴブリンメイジ、ホブゴブリン程度で俺たちの足止めになるわけもなく、1時間かからず安全地帯に着き、そこで休憩をしていた騎士団員の中に2人の狸族がいたので、すぐに確保することができた。
「よし、これで全員捕えたな。迷宮飽和の兆候もなさそうだからこのまま戻るか」
「そうね。早く合流して屋敷に戻ってお風呂に入りたいわ」
クラリスがすぐに答えると姫が気になる言葉を言う。
「そうじゃな。ヘルメスの街の温泉とまではいかないが、なかなかいい湯だったからのう」
「お、温泉!? 温泉って地中から出てくるお湯の事よね?」
クラリスが目を輝かせて聞くと
「そうじゃが? なんじゃ銀髪も温泉が好きなのか?」
「当然よ! 温泉って聞いたら入りたくなっちゃったわ」
確かに温泉にゆっくり浸かりたいよな。そう思い俺も2人に同意する。
「俺もゆっくり温泉に入りたいな」
「な、なんじゃ……マルスも温泉が好きなのか……マルスが望むのであれば妾が一緒に入ってやっても構わぬぞ?」
「え? 姫と? 混浴?」
思わず聞きなおすと
「そうじゃ。普段妾が入る時は貸し切りにするのじゃが、マルスが妾と入りたいというのであれば特別に許そう」
混浴……男に生まれて混浴という言葉に心を弾ませない者などいないだろう。
しかし素直に入りたいと言うと、クラリスに愛想をつかされ捨てられる可能性がある。最悪百獄刑もありえる。そう思っているとクラリスからまさかの言葉が出てきた。
「ダメよ! 姫と入るのであれば、私も一緒よ!」
クラリスと一緒に!? 思わず拳を握り、相棒と一緒にガッツポーズをとり、期待で胸が膨らむ。
え? 膨らむのは胸だけじゃないだろうって? 何のことだ? ほかにどこか膨らむところなんてあるか?
「あ、いえ、そうじゃなくて……あくまでも姫と入るのであればよ……だから、ね? 分かって? マルス……」
顔を真っ赤にして言葉を濁す。
なんとなく何が言いたいか分かったのだが、俺の相棒は分かってくれるわけが無い。もう準備体操を勝手に始めている。
相棒が準備体操を終えるのにかなり時間が掛かったが、収まるのを待ってから出口を目指した。
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