第37話 イルグシアを目指して
3章はweb版と書籍版、かなり変わっております。
俺とクラリスは2人で馬車に乗ってイルグシアに向かっている。
クラリスが同行するので、荷物が増えるから馬車のほうが良いだろうとの事だ。
ただし、御者はいない。俺が馬に乗れるようになっていてよかった。
「ビートル伯爵はいろんなことを考えてお父さんとお母さんに私をマルスに預けないかと言ったのだと思うの」
クラリスが馬車の中から話しかけてくる。
「うん」
「私は神聖魔法が使えると公言しちゃっているでしょ? これって私が思っていたよりかなり危険なことなんだって。上級貴族や魔族にとんでもない値段で人身売買されるらしいから、グランザムにいる限りは高確率で誘拐事件が起きるだろうって……今いる住民たちはいい人達ばかりだけど、今後私を誘拐しようとする輩は必ず来るって……悪質な冒険者に攫われたりするともっとひどい目にあう可能性が高いって……」
「うん」
「でもね。いくらマルスがいると言っても敵国に6歳の女の子を送るなんて普通だったら考えられないじゃない? だから伯爵はランパード家を男爵に叙爵したのだと思うの」
「どういうこと?」
「私が敵国の人間だと悪意がある人にバレて捕虜になってしまった場合、平民と貴族で捕虜の扱いが違うらしいの。詳しいことは分からないんだけど、貴族の場合は敵国だとしても絶対に変なことはされたりしないらしいの。いきなり奴隷とかにもされたりしないらしいの。神聖魔法を使えることがバレていないことが条件だけどね。
それにね、伯爵は早馬でマルスのご両親にマルスの手紙を届けてくれたじゃない? その手紙にね、伯爵自らもし私が同行する場合はどうかよろしく頼むみたいな事を書いてくれたらしいの。同行する女の子は……その……」
「あ、なんとなく分かるよ……」
ビートル伯爵は相当俺たちに気を使ってくれたんだな。あとクラリスも不安なのだろう。
敵国に単身行き、もし俺の家族やイルグシアの住民たちに受け入れられなかったらどうしようとか、俺と喧嘩したりしたらどうしようとか……言葉にいつもの元気がない。
「クラリス聞いてくれ。俺は絶対にクラリスをバルクス王国の捕虜にはさせない。それに俺はね、迷宮を攻略してからの1週間はクラリスと会えなくてとても辛かった。なんとなく避けられている、もしかしたら嫌われているのかもとか思ったりもした」
「そんなこと……」
「うん、分かっている。でも不安だったんだ。グランザムにいるときはクラリスと一緒に居ることが当たり前で、迷宮攻略と同時に急に俺の目の前からいなくなってしまった。失恋したんだなぁって……」
って言ってから気づいた! 告白してるようなものじゃん!
顔が熱くなっているのが分かる。顔だけではない、体中の汗が噴き出ているような感覚だ。
「ごめんね。私も色々考えていて自分のことだけで必死で……お父さんとお母さんと3人の時間もあと少しで終わるのかもと思うと……」
スルーしてくれて助かった。もしかしたら気づいてないのかな?
幸いクラリスは馬車の中で俺は御者台の上にいるから、俺の顔は見られない。
どちらにせよ俺は1人でイルグシアに来るクラリスを絶対に守ろうと誓った。
少なくとも15歳になるまでは。
もしも家族や住民に受け入れられないようであれば、家を出る覚悟だ。
クラリスとの旅は順調だった。
順調な理由はいくつかあったが、1つは、子供2人でも泊まれるようにビートル伯爵が一筆書いてくれてそれを主人に見せるだけで何も聞かず泊めてくれた。お金はきちんと取られるけどね。
2つ目は俺らは神聖魔法が使える。
馬が少しでもへばるとヒールをかければ、馬の体力が回復する。宿を8時に出て17時まで移動中に休憩するのはお昼のご飯休憩だけで済むのだ。
まぁ途中でちょくちょく水を飲ませるが、それは俺が水魔法で水を出せばいいだけだしね。
最後にビートル伯爵が選んでくれたルートもよかった。
王都付近には近づかないように、辺境過ぎるところも通らないように、治安が悪いところも通らないようになど少し遠回りになるが緻密に計算されたルートらしい。
治安が悪いところは当然だが、王都も避けた方がいいとの事だった。
理由は色々あるらしい。詳細は教えてくれなかった。
俺たちは街に着くと冒険者ギルドでお使いクエストを受注した。
とにかく西に向かうから西に物を届けるクエストは出来るだけこなした。
まぁ6歳で冒険者ギルドに行くのだから、それなりのテンプレ展開は予想していたのだが、さすがに6歳に絡むような人はいなかった。
ただクラリスの豪華な装備のことでたまに声をかけられることがあった。
ディフェンダー、ミスリル銀の短剣、魔法の弓、神秘の足輪、聖女の法衣。
他の冒険者たちが正確な性能を把握しているか怪しいが、希少な物というのは誰が見ても分かる。
どうやって手に入れたのかとか、誰からもらったのかとか聞かれたが、決して襲われるという事はなかった。
俺の装備はというとミスリル銀の剣と風の短剣に偽装の腕輪だ。
ミスリル銀の剣もかなりいい装備なんだけど、クラリスの装備と比べるとね。
恐らく俺はクラリスの従者だと思われていた。
まぁいいんだけどね。
ちなみにクラリスも冒険者登録してもらったらしい。迷宮に潜れるようにE級冒険者だ。まぁビートル伯爵が俺の出自に気づいたきっかけだから予想はしていたけどね。
「旅って楽しいね。私旅するのが好きみたい」
「俺も楽しい。でも俺1人だったら絶対につまらなかった。クラリス一緒に来てくれてありがとう」
冒険者ギルドでいつものお使いクエストを受注しながら話していた時だった。
冒険者ギルドの扉が勢いよく開けられて、商人風の男が叫んだ。
「緊急クエストを依頼したい! 公爵に献上する奴隷に逃げられた! 魔の森付近で逃げられたから俺たちでは手が出せない! 言い値で払うから誰か頼まれてくれ!」
冒険者ギルドには俺たち以外に10名以上いたが、誰もそのクエストを受けようとしない。
これ誰かが受けないと奴隷の人は危ないのだろうか?
すると冒険者ギルドの職員が
「ちゃんと教えて頂けませんか?保護する方の特徴とか教えて頂けませんか?」
「……エ、エルフの奴隷だ……それ以上は言えん。ただし褒賞は金貨10枚……いや100枚だ!頼む!誰か引き受けてくれ!」
すると冒険者の1人が
「そりゃあ金貨100枚は破格だ。だけど魔の森はB級冒険者だけで組んだBランクパーティでも死んでしまう所だぞ? 金は大事だが、命には代えられない。残念だが諦めな」
魔の森は相当危ないところらしい。
そういえばビートル伯爵がC級冒険者とB級冒険者とでは相当な差があると言っていたな。
そのB級冒険者だけで組まれたパーティが全滅するのだから本当に危険なんだろう。
俺とクラリスは何事もなかったかのように冒険者ギルドを出た。
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