第376話 裏切り
古狸族の者がアイクの方に走り出すと同時に、俺も風纏衣と未来視を展開し、アイクの下へ走る。
「アイク兄! 気を付けてください! その男はA級冒険者クラスです!」
俺の言葉にすぐに反応してくれ、アイクは姫からすぐに手を放し、バックステップをするとアズライグを手に取る。
姫はというと、やっとアイクの殺気に解放され、自力で立てる程度にはなっていた。
「やめんか! ダジビ! 妾が勝てなかった相手だ! お主で勝てるわけ無かろう!」
姫の声に反応することなく、その男は走り続ける。残りの3人は何が起きているのか分からないといった様子で、ただただ呆然としながら事の顛末を見届けている。
ダジビっていうのはあだ名なのか? 名前からはそんな要素はないけどな……それにこいつはどう考えても姫よりは強い。
【名前】ポンゴ・ダンザ
【称号】-
【身分】魔族(古狸族)・平民
【状態】良好
【年齢】301
【レベル】68
【HP】212/212
【MP】658/658
【筋力】95
【敏捷】98
【魔力】108
【器用】158
【耐久】110
【運】1
【特殊能力】体術(Lv7/C)
【特殊能力】呪術(Lv5/D)
【特殊能力】土魔法(Lv5/D)
【特殊能力】風魔法(Lv7/C)
レベル68って俺が今まで見た者の中で一番高い。年齢も300歳となるとリーガン公爵の次だ。
予め警戒していた俺はダジビと呼ばれたこの古狸族の男よりも先にアイクの下に辿り着き、万全の状態で迎え撃つことが出来た。
アイクがバックステップを何度かしてくれたのも、古狸族の男よりも先にアイクの下に辿り着けた要因だろう。
クラリスは既に魔法の弓矢の弓を引いた状態で待機しており、エリー、ミーシャ、カレン、アリスも得物を手にして残りの3人の動向を窺っている。
ここまで万全で戦えるのであれば、そうそう後れを取る事はない。
が、未来視が驚くべき光景を見せる。
その驚くべき光景に一瞬未来視の事も疑ったのだが、今見た光景を信じ
「姫! 危ない! 逃げろ!」
ただただ古狸族の男を目で追っている姫に向かって叫ぶ。
そう、未来視が俺に視せた未来というのは、この古狸族の男が1秒後に隠し持っていた短剣で姫の心臓を貫いているという光景だった。
くそ! 何が起こっている!? なぜ魔族が代表の姫を殺す必要がある?
1つ分かっているのは今、姫が死ぬとアイクの立場が悪くなるという事だ。アイクは仲裁役だからな。戦争を起こしてもいいと言われているが、こんな形で起こすのは不本意だ。
突然俺に怒鳴られた姫は、俺を見てビックリし、動くことができない。
こうなる事も予想していたので、鳴神の法衣に雷魔法を付与し、すぐに姫の方に走るが、このままでは絶対に間に合わない。
(ウィンド!)
無詠唱でウィンドを古狸族の男に向かって放つと、突然のウィンドに反応できるわけがなく、後退させることに成功した。
「な、なんだ!? 今のは魔法か!?」
俺のウィンドを直撃しても吹き飛ばず、踏ん張った男が驚き思わず声を上げるが、それ以上に驚いていたのは姫だった。
「き、貴様! 三巨頭のポンゴか!? なぜダジビに変化しておった!? ダジビはどうした!?」
ウィンドで古狸族の男が吹っ飛びはしなかったのだが、変化というのは解けたらしい。先ほどまで俺たち人族と変わらない容姿から一転、ちょっとぽっちゃりとし、肌の色は茶褐色、目の周辺が黒く、お尻からは尻尾が生えており、尻尾の先端は黒という狸を想像させるに容易い風体をしていた。
ポンゴはウィンドを耐えた後、姫の質問に答えず、すぐに俺に対して魔法を放ってくる。
「ストーンバレット!」
「アースウォール!」
(ウィンドカッター!)
ポンゴの放つストーンバレットとアースウォールをウィンドカッターでまとめて真っ二つにするが、アースウォールで一瞬視界を遮られると、『ぼんっ!』という音が聞こえ、視界が通った時にはぽっちゃりとした男の姿はそこにはなかった。
すぐに狸に変化したポンゴを見つけたが、ポンゴはすぐに人化し、姫の目の前まで迫っている。
姫はというと、ポンゴの剥き出しの殺意に飲まれながらも、必死に芭蕉扇を扇いでいた。
どうやらポンゴの殺意にはなんとか耐えられるようだ。
姫が芭蕉扇を扇いでくれたおかげで、少しだがポンゴの動きが制限され、その間に俺もポンゴに対してウィンドを放つと、なんとか姫の前に出る事ができた。
自分に攻撃がくるのであれば対処しやすいのだが、誰かを守りながら戦うのはいくら未来視があってもきついな……まずは姫をどこか安全なこと所に……
「アイク兄! どうやらポンゴの狙いは姫のようです! 姫をクラリスたちのところまで連れて行ってもらえませんか!? 姫が近くに居ると戦いにくいので!」
「分かった! 任せておけ!」
すぐにアイクが俺の言葉に答えると、
「……何を言っておるのじゃ!? その男は古狸族で一番の強さを誇る者じゃぞ!? 妖狸、怪狸、古狸の三巨頭、そのうちの古狸族のトップじゃ! 父上と同等の力を持つ者相手に1人で立ち向かうのはいくらなんでも……まさかお主……妾の事が……な、何をする……メサリウス伯爵! もしかしたらそなたも妾の事が?」
途中でアイクに抱えられながらも姫が喚き散らす。散らしていたのは声だけではないかもしれないが……
ポンゴは姫がアイクに連れていかれる際もずっと隙を見て姫を狙おうとしていたが、俺がそれを許すわけがない。俺を倒さないと姫の下まで辿り着けないとようやくわかったのか、ターゲットを俺だけに絞ったようだ。
「人族にしてはやるようだが、今ヒメリが言ったように俺は何百年も三巨頭の一角を務めてきたのだぞ? 生まれてから10年20年しか経ってないお前ごときに後れを取ると思うか? 今なら許してやろう。そこをどけ!」
そんな事を言われてはいどうぞと素直に通すわけがない。
姫をこの場で執拗に狙うのをみると、こいつの描いた青写真がだんだんと見えてきた。もしそうだとしたらここは絶対に姫を守り切らないといけない。
「俺を倒さない限り、姫の下には行かせない!」
当然要求を蹴るとポンゴがいきなり魔法を唱えてくるが、これもしっかり視えている。
「「ストーンバレット!」」
ポンゴのストーンバレットと叫ぶと同時に俺もストーンバレットを発射し、土魔法レベル、魔力共に圧倒している俺のストーンバレットがポンゴのストーンバレットを砕き、貫通し、ポンゴの左頬の脇を掠る様に通り過ぎる。
「っ!?」
全く同じ魔法を同じタイミング使ったことに驚いたのか、それとも魔法の威力に驚いたのか、はたまた両方か。ポンゴは左頬から流れる血を拭うと更に警戒心を強め、今度はポンゴが真横に走り始めたので、俺も全く同じ速度、歩幅で並行しながら走る。
「ちっ! 気持ち悪い奴め! どこまでも付いてきおって! だがこれはできぬだろ!」
「「ウィンドカッター!」」
ポンゴは走りながらウィンドカッターを唱えてくるが、風魔法で負けるはずがない。俺のウィンドカッターはポンゴのウィンドカッターを切り裂き、今度はポンゴの右頬の脇を掠る様に通り過ぎる。
「なんだとっ!?」
今回もコピーされたのに驚いているのか、はたまた威力、それとも俺も走りながら魔法が撃てた事に驚いたのか、いずれにしても先ほどよりも心理的ダメージを与えたことは確かだ。
「「アースバレット!」」
「「ストーンバレット!」」
「「ウィンドインパルス!」」
今起こっている事を信じたくないらしく、ポンゴは必死に足掻くが、全ての魔法において俺が上なので、最後のウィンドインパルスの突風に飲み込まれてポンゴが吹っ飛ぶ。
もう分かっていると思うが、俺がやっている事は単純だ。未来視で視える未来のポンゴの動きをコピーしているだけだ。この方法が一番実力差を感じさせ、心を折るのに良さそうだったからな。
吹っ飛んだポンゴの方にゆっくりと歩くと、ポンゴは立ち上がり叫ぶ。
「ふざけやがって……仕方ない……奥義を使わせてもらう!」
ポンゴが一層集中力を高めたのが分かったので、俺もしっかりと集中をすると未来視でどうしても受けきれない、いや受けたくない攻撃が来ると分かったので、パフォーマンスはここまでにして一気に戦いを終わらせに行く。
背中の雷鳴剣を抜き、風纏衣と鳴神の法衣、未来視という神威を除いたオールスターで突っ込み、雷魔法を付与した雷鳴剣の腹で、今まさに股座から何かを取り出そうとしているポンゴの顎を下から撃ち抜くと、上方に吹っ飛び、受け身も取れないまま地面に叩きつけられる。
泡を吹き、気絶しているポンゴを火精霊の鎖でしっかりと縛りアイクの方を見ると、親指を立てて「よくやった!」と一言労ってくれる。
そして姫はというと、他の男の3人と同様に絶句していた。
ポコパの奥義は披露できない理由がありまして……
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