第368話 立場
「ラース、随分ご機嫌じゃない?」
部屋に通されるとご機嫌な様子で血の様な色をした真っ赤なワインを口に運ぶラースの姿があった。
「カミラか。いい報告があってな」
「どうしたの? 教えてちょうだい?」
ソファに腰をかけながら聞くと
「グランザムを落とせる算段が付いたと先ほどウリゴールから報告があった」
「っ!?」
ウリゴール……ディクソン辺境伯から? でも【剣神】が天大陸から戻ってきている以上下手に動けば自滅するだけ……
「そんな顔をするな。ヨハンを向かわせるさ」
「ヨハンも? という事はラース、あなたも行くという事?」
切り札のヨハンが行くという事は当然ラースも一緒にと思い聞くと
「いや、俺は行かない」
【剣神】の最後を見ると息巻いていたから、てっきりラースも行くと思っていたのだけど返事は予想外のものだった。
「どうして? 【剣神】の最後の姿を見るのではないの?」
「未来視が外れた……ヨハンをリムルガルドに向かわせリスター帝国学校の生徒の首を取って来いと命令したのだが、ヨハンは手ぶらで帰ってきた。未来視ではしっかりと首を取ってくる未来が視えたのだが」
未来視が外れる!? 【剣神】に討たれた時は確か未来が視えなかったと言っていた気がするけど外れるなんて過去になかったはず……
ラースを裏切ろうものなら裏切る未来が視えるからヨハンは裏切ったわけではない……ヨハンには近づきたくはないけど直接聞いてみるしかないか。
「ヨハンは何と?」
「もう既にいなかったと言っている」
「そのヨハンは今どこにいるの?」
私の質問に答えずラースはただ残酷な笑みを浮かべる。ああ、またあの部屋に閉じ込めているのね。さすがにあのおぞましい部屋に入る事はできない……会うのは諦めるしかない。
「カミラ、お前にも頼みがある。聞いてくれるか?」
ラースが手に持つワインを一気に飲み干しながら願い事という名の命令をしてくる。
その内容とは……私自身も身の振り方をしっかりと考えないといけないような内容だった。
2032年4月20日10時
「やっぱりこうして外でクエストを受けていたほうが良いね!」
「そうね。ハチマルのおかげで魔物がいてもすぐに対処できるからマルスに外を警戒してもらわなくてもいいものね」
カレンとミーシャが俺の両隣で頭を俺の胸に預けながら言うと
「……うん……なによりベッドも一緒……それが一番……」
俺と向かい合って座っているエリーも頷く。
俺も外で走っているアイク、バロン、ブラッド、コディ、ハチマルと一緒に走ろうとしていたのだが、最近クラリスとばっかり一緒に居たから他のメンバーから引き留められ現在に至る。
この天国にいる方が俺的にも相棒的にも嬉しいのだが、訓練のために少し体を動かしたいというのもある。まぁこうやってみんなに囲まれていてもできる事はあるので、鎖をカレンの腕に絡ませてもらっているのだが。
ダメーズ以外の男性陣がみんな外で走っているため、ミネルバもこっちの馬車に来ており今の俺の様子を見て
「マルス君の6人目ってどういう人がなるんだろうね? クラリス、エリー、カレン様、ミーシャ、アリス。このメンバーを見て6人目に立候補するなんて普通の神経の持ち主だったら無理だよね」
突然何を言い出すかと思えば……ミネルバの中ではまだ増えることが前提らしい。
「尤も一気に4、5人増えれば可能性はあるし、親が無理矢理進めてくるパターンもあるだろうから」
え? 4、5人一気に増えるパターンもあるの?
「そんなことあるわけないじゃない! ミネルバも縁起でもない事を言うのをやめてよね!?」
俺の心を読んだクラリスが、俺とミネルバに言うが
「でもレイラが言ってたよ? 今年の1年生の女子はほとんどマルス君に憧れているって。まぁ男子もほとんどが【黎明】女性が好きらしいんだけど、こっちはマルス君から奪わないといけないからみんな半ば諦めているんだって」
構わず続けると
「みんな、絶対にマルスを1人にしない事! マルスも1人で出歩かないようにね!」
女性陣がクラリスの言葉に力強く頷く。
ミネルバのせいで空気がピリッとしてしまったので、
「サーシャ先生。ズルタンはじめ【鬼哭】のメンバーはどうなりました?」
話題を変えると、サーシャも俺の意図に気付いたのか話に乗っかってくれる。
「全員ジーク様の奴隷になったけど、ズルタンはリーナちゃんの専属奴隷のようになっていたわ。ズルタンの髪の毛がしなびていたのはみんな覚えているだろうけど、今は元気を取り戻していたからきっとミーシャのように施術を受けているのだと思うわ」
施術って……まぁこれは予想出来ていたからな。これで髪の毛の1本、2本増えればズルタンはリーナの事を命に代えても守り抜くことだろう。
午後は右隣にアリス、左隣にエリーが座り、本日の目的の街に着く。
風呂に入ってからみんなで食事を摂っていると
「コディ? ちょっと聞いてもいいかしら?」
俺の右隣に座るクラリスがコディに質問する。
「ああ。クラリスもようやく俺に興味が湧いてきたのか! なんでもいいぞ!?」
「え、ええ……ヘルメスの街の魔族の人たちって全員強かったりするの? 私の中の魔族のイメージってみんなコディみたいに強いイメージがあるんだけど」
クラリスの質問がコディの事では無かったため、少し残念そうに肩を落とすが、それでもクラリスと会話できるのが嬉しいのか顔がにやけている。それに自分が強いと言われたのも嬉しかったようだ。
「そんなことはない。人族でもダメーズのように戦わない者がいるだろう? 魔族も同じだ。ただ戦闘員はみんな手練れと思ってくれていいと思うぞ?」
俺も魔族全員が戦闘向きなのかと思っていたが、そうでもないのか。
前から疑問に思っていた事があったので俺からもコディに質問する、
「コディ、俺もからもいいか? 以前リスター祭の時にリーガン公爵から【漆黒】や【亡霊】という言葉が出ていたが誰だ?」
「ああ、あれはヘルメスの街出身のA級冒険者だ。もうずいぶん会っていないが【漆黒】はナインズだったはずだぞ?」
1つの街からA級冒険者が2名も出たのか。
「その2人はヘルメスにはいないのか?」
「ああ、【漆黒】はナインズだから嘆きの塔にいるはずだ。【亡霊】も嘆きの塔周辺の魔物を倒しているのかもしれない」
嘆きの塔? かなり嫌なネーミングだな。ただヘルメスの街に強い魔族が居ないほうがこちらとしては好都合だ。
「コディはヘルメスの街の中でどのくらいの強いんだ?」
俺たちの話にアイクも参加してくる。
「そうだな……同世代では間違いなく1位か2位だけど街全体であれば中の上から上の下くらいだと思う」
コディクラスでその立ち位置か。A級冒険者がいないとしてもやはり警戒はしないとな。
「では俺だとどのくらいの立ち位置だ?」
アイクの言葉を少し不審に思ったようで
「さっきからどうしてそんなことを?」
逆にコディがアイクに聞く。アイクはリーガン公爵に言われたようにもし魔族との戦争になった場合の事を考えているのかもしれない。
「自分の力がどれくらいか通じるのか聞いてみたくてな」
アイクらしいセリフでごまかすと
「恐らくアイク様であればヘルメスの街のトップクラスと遜色ないと思う。装備も信じられないくらい豪華だしな」
納得したのかアイクの質問に答える。
その後話題はヘルメスの街からグランザムの街に移る。ブラッドとコディが中心となりクラリスに質問攻めをする。
2人はグランザムの話を聞きたいというよりかはクラリスとただただ話したいだけのようだ。
まぁ学校で2人は獣人の新入生の指導をしていており、なかなかクラリスと話せる機会が無かったから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
食事を終え部屋に戻り、エリー、カレン、サーシャ、ミーシャ、アリスの順で俺とクラリスでマッサージをしながら寝かせる。
ハチマルはというと部屋の中にはおらず、部屋の前で周囲を警戒するように座っている。
カレンが言うには、最近学校でも【黎明】部屋の前で寝るようになったといい、もし不審者が来た場合、部屋の中で撃退するよりも外で撃退したほうがカレンたちの身に危険が及ばないと判断した結果だと思うとの事だ。
クラリス以外をマッサージしてからベッドに入ると、無意識にクラリスを抱きしめてしまっていた。
「あ、あれ? ごめん。抱きしめようとしたつもりは無いんだけど……でもしばらくこのままでいいかな?」
すると俺の腰に両手を回していたクラリスも
「私も手を回したつもりもないんだけど……私からもお願い」
しばらくお互いの心臓の音や匂い、感触を確かめると
「ねぇマルスとお義兄さん、リーガン公爵に何か言われたの?」
不安な表情を浮かべながら聞いてくる。
「やっぱりクラリスには分かるのか。魔族と戦争になりそうだったらアイク兄の判断で魔族と戦ってもいいと言われてね。一番ダメな事は俺たち【暁】のメンバーの死だと言われてね」
「やっぱり……当然お義兄さんも戦いなんて望んでないわよね?」
「ああ。だが今回はリーガン公爵の代理としてグランザムに行くだろう? 少しでも魔族側に不敬な事があったらアイク兄も許さないと思うんだ。だからそこはコディにそれとなく伝えておかないとな」
「お義兄さんも大変だけどコディも大変ね」
確かにクラリスの言うとおりだ。今回の交渉はコディがカギを握っていると言っても過言ではないかもしれない。
でもコディならやってくれるはずだ。何せ一番戦争を望んでいないのはコディだろうからな。今のコディがクラリスやブラッドに弓を引くなんて俺には想像がつかない。
「クラリス、もう遅いから寝よう」
こうやってクラリスと過ごす時間はあっという間に経過してしまい、いつの間にか21時を過ぎていた。
「うん。じゃあまた明日。おやすみマルス。愛しているわ」
クラリス成分を体いっぱいに吸収してから眠りについた。
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